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2021年1月12日 (火)

京セラ・サンプル偽装事件の公表-忖度しない若手社員の存在

クラウドサービス等で業績好調なサイボウズが、「私が当社の次期取締役としてふさわしい」と自薦してきた新卒1年目社員や現社長を含む計17人の役職員を、次期取締役最終候補者に選出したことが話題になっています。人から推薦されるのを待つ人間よりも、自分から「私がふさわしい」と自薦する人間のほうが取締役としての能力を発揮できる、というのが理由だそうです。新しいコーポレートガバナンスへの挑戦として

選任基準につきましても、ビジネスの経験ではなく、サイボウズの理想とする風土である「理想への共感」「公明正大」「多様な個性を重視」「自立と議論」を理解し、「理想の番人」として実行していける者を公募する

というもので、大真面目に(株主からの承認を条件に)取締役を選任するそうです。外からみると、「ひとつの話題提供」の意味が強いようにも思えましたが、社長以外の現取締役は退任する(立候補しない)、ということなので、本当に新たなガバナンスへの挑戦のようです。たしか機関投資家が求める「ダイバーシティ」には「ボード構成員の広い年齢構成」というのも含まれていましたので、これも一つの考え方なのかもしれません。また会社法に反しない範囲で、取締役の役割を自社なりに定義する、というのも斬新です。

さて、今年初の「不正発覚→特別調査委員会の設置」のリリースは、なんと京セラでしたね。京セラ社HPリリースによると、電機用樹脂ボード等6製品について、米国の第三者安全機関の認証を取得するにあたり、不適切な対応があった、とのこと。実際とは異なるサンプルを提出して認証を受けており、その認証を取得した製品の販売先は約160社に及ぶそうです。

上記内容は京セラ自身が開示しているところですが、各社報道をまとめますと、不正は約35年間続いていた(1986年ころから続いていた可能性あり)そうで、2020年11月、社内の意見交流の場で、問題の製品を担当するケミカル事業部の若手社員が報告をしたことから不正が判明したようです。なお、このケミカル事業部は、京セラが平成14年に東芝ケミカルを買収したものであり、平成28年に京セラ本体が吸収しました(注-ということは、30年前から継続していた不正というのは、そもそも京セラの内部で起きていたということではなく、東芝のグループ会社で起きていた、ということだと推測されます)。

新聞各紙でも「ベタ記事」程度の扱いであり、また京セラの業績に重大な影響を及ぼすような不正ではありませんが、やはり記事の中で気になるのが「若手社員が意見交流の場で不正を報告した」という件(くだり)です。報じられたニュースソースは会社側の広報に基づくのか、それとも別の取材源なのかはわかりませんが、30年にも及ぶ不正を社内会議の場で(ひょっとするとリモート会議か?)カミングアウトするというのは相当の覚悟(勇気?)が必要なのではないかと。それとも私の推測は世代ギャップによるバイアスが働いたものであり、いまの20代、30代の社員の方々は「不正の片棒を担ぐなんてまっぴらごめん、公表して職場環境をよくするのが当然でしょ」という感覚なのでしょうか。

そういえば2017年12月の日経ビジネス「謝罪の流儀」で報じられましたが、神戸製鋼社の孫会社「神鋼鋼線ステンレス社」でJIS強度偽装事件が発覚した事件において、これを本体神戸製鋼に報告したのは、神戸製鋼からステンレス社に派遣されて間もない社員でした。それまで何人もの出向社員がいましたが、「これはおかしいだろう」と憤って親会社に報告したのは当該社員が初めてだったそうで、この社員は本体の副社長による謝罪会見でも副社長の隣に同席していました。当該社員を同席させた理由について、神戸製鋼広報部は「この社員の姿勢こそ、当社グループとして真っ当な姿であることを社内外に示したかったから」だそうです。

いずれにしましても、本件では外部有識者を含めた特別調査委員会による事実解明、原因究明がなされるそうなので、なぜ30年もの長期間、この不正が放置されていたのか(事業承継の様子も含め)、また、この若手社員がどのような状況で不正事実を告白したのか、できれば調査の中で解明していただき、報告書の内容については明らかにしていただきたいと思います。

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コメント

神戸製鋼社、孫会社の事件において、「これはおかしい」と気づいて通報した社員が、副社長による謝罪会見で隣に同席した報道、憶えています。

当時の神戸製鋼の経営陣が、素晴らしい資質を持っていたのだと思います。
経営陣の考え方で、通報者への対応は大きく変わります。

東芝ケミカル時代の事案、35年間、一度も通報が無かったのでしょうか?
昨年通報した若手社員が生まれる前からの不正である可能性もあります。
これまで不正通報して、不利益にあった社員がいないかも含めた調査をしてほしいです。
不利益を受けた社員には、相応の賠償等が必要と思います。

投稿: 試行錯誤者 | 2021年1月12日 (火) 11時53分

プロ野球の世界でも「高卒ルーキー」が大活躍して、リーグ優勝や日本シリーズで貢献する事もあるのですから、IT業界などでは、成長の芽を伸ばすという意味でも、サイボウズ社の取り組みは注目…です。ただし、会社の業績が悪くなった時にどれだけ活躍出来るかで本当の力量が試される…かと。

(不正を暴き、良き方向に舵取りをする第一歩が「正論」であれば…)
ご存知かと思いますが、成人の日の読売新聞に全面見開き広告で外資系のエナジードリンク企業が「くたばれ、正論。」という表題で意見広告を発しました。この広告:一読直後は理解に苦しみかけましたが、山口先生の本エントリー=「…忖度しない若手社員…」という視点からすれば、例えばブラック企業の中でだけ通用している「(ブラック)正論」があるとしたら、それは、くたばってもらわないと困る訳で…。
(広告では、くたばれ、正論。の続きが数行続くのですが)
確か…本社はオーストリアだったかと思うこのエナジードリンク会社、今回のコピー(広告文面)が、各国の母国語で世界に発信されているかは存じませんが、誤解を恐れずにこの様な掲載に踏み切った点は、勇気ある広告出稿かも知れません。

「行動変容」と称して、従前からの脱却を促す言葉が繰り返されていますが、「KIYOMIZU no BUTAI kara TOBIORIRU」ほどの気持ちの有無は兎も角、不正を暴く際の勇気ある行動を、若年層の模範となるべき現存の重役達こそが(コロナ騒動二年目の今年に)あらためて求められていると思っています・・・。

投稿: にこらうす | 2021年1月12日 (火) 22時37分

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