サクセッション・プラン(後継者育成計画)の「もうひとつの役割」について
1月7日より首都圏では緊急事態宣言が発令されるようで、関西でも首都圏への移動自粛要請が強まる気配です(大阪もかなり厳しい状況ですが)。すでに報じられているとおり、飲食店への行政指導(時短要請、休業要請)が改正政令の施行によって行われるそうですし、また特措法の改正によって飲食店への行政処分(指示、命令、公表、罰則)も可能となるようです。
しかし、そうなると要請に反して営業を続けている飲食店への行政指導、行政処分を発動するよう、市民(誰でも可)が法的根拠に基づいて申請するような事態にならないでしょうか(行政手続法36条の3、東京都行政手続条例36条等-行政法は詳しくありませんが、たぶん「適用除外例」には該当しないはず)。
「あの店舗は午後8時を超えて営業しており、お客さんがたくさん来ている。周辺にコロナによる感染のリスクが高まっているので指示、命令を発出せよ、もしくは市民が近づかないように店名を公表せよ」といった(行政権限の発動請求の)申請です。実際に指導もしくは処分を行うかどうかは別として、申請を受けた行政機関には調査義務が発生しますから、申請を放置していると行政機関(主に地方自治体)の不作為は違法行為となります。本当にそんな調査ができるほど人的資源が豊富なのでしょうか。うーーん、ナゾです。(以下本題です)
さて、最近、いくつかの上場会社のご相談とその実践結果において「なるほど、サクセッション・プラン(後継者育成計画)というのはこのような効用があるのか・・・」と納得したことがありました。もうすぐ公表される「コーポレートガバナンス・コード改訂2021」の検討会でも「企業変革」の一環としてCEOの選解任強化が謳われており、サクセッション・プランの策定は、取締役会改革の中核的な課題といえるでしょう。
もちろんサクセッション・プランの目的は「後継者候補を計画的に育成して、企業の存続リスクを軽減しながら持続的成長を図ること」にあります。オムロン、花王、りそな銀行等、すでに立派な計画を策定・開示しておられる企業もあり、VUCAの時代にふさわしい優秀な後継者を選定するためにも真剣に導入を検討しておられる会社も多いのではないでしょうか。
ただ、少し趣旨は異なりますが、長年経営トップに君臨している経営者に交代していただくための「きっかけ」としてサクセッション・プランを活用する、ということも同プランのひとつの役割ではないかと。もちろんガバナンス改革の理想からすれば、複数の社外取締役を中心とした指名諮問委員会が「あなたはもう当社のトップとしてふさわしくないので退任してください」と印籠を渡す(拒否すれば解任する)ことが求められています。しかし、実際にはトップを前にすると言い出せないわけでして、社長(会長)自身が交代時期と後継者を決める、ということが暗黙の了解になっている会社が多いと思います。
そこで「当社でも『サクセッション・プラン』を導入しましょう」と提案をして、さりげなく「あと2年ほどで交代してはいかがでしょうか」「交代後は経営に口出しできないシステムになりますが、よろしいでしょうか」といったシグナルを(暗に?)出してみることが考えられます。これであれば、いままでの社長(会長)の功労に傷をつけることもなく、また突然の退任要求とは異なりますので、社長(会長)の人脈や社内外におけるOBとしての役割を、そのまま無形資産として残しておくことも可能になります。
また、サクセッション・プランが策定されたことが社内的にも周知されれば、それこそ後継CEO候補者や役員候補者と目される人たちが育つ土壌が生まれるわけでして、指名諮問委員会としても活動が深化することになります(ただし社内において強烈な派閥争いが存在する場合には、「誰の企画なのか」と詮索されて逆効果になることもありますので、そこは上手に根回しをする必要があります)。
阪大ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を務めていたころ、同じく社外取締役を務めておられたNTTドコモの元社長さんから「山口さん、社長は業績が絶好調のときに交代しないとダメ。傾きだしてからじゃ未練を残すから」とよく聞かされました。アフターコロナなのかウィズコロナなのかはわかりませんが、以前にもましてかじ取りが難しい経営環境にありますので、サクセッション・プラン導入への拒絶反応も薄れてきたのかもしれません。計画の実践には様々な困難が伴うかもしれませんが、まず「導入ありき」で検討してみることも一考かと。
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コメント
「後継者育成計画」が、太平洋を挟んだ某大国のトップ交代の場に存在するのかは存じませんが、最終認定の議会の場に、落選した側の支持者が乱入する騒動が起こっている…という今朝の報道ですが、こういう国と外交やビジネス展開のお付き合いをしていく側は、何かと気苦労が絶えないかも?。
従前の経済的動乱とは異なる「ウィルス騒動」進行形の現在、様々ないきさつで後継者を決めるケースが多くなりそうですが、そんな企業と取引する側の対策/計画(?)も不可欠かと。(想定外の人事レース含め)これも一種のリスクマネジメントなのでしょうか。
(昭和の美談の一つとされている「本田&藤沢」交代劇ですが…)
若手社員の技術能力進歩とのあつれきから、自身の限界を認めたがらない社長を見かねて、重鎮金庫番が巧みに創業者社長の背中を押した逸話が、令和の時代の現役重役さん達が熟知しているかはさておき、後継者の育成/計画づくりと実践タイミングは、あらためて「永遠のテーマ」の一つかも知れません・・・。
投稿: にこらうす | 2021年1月 7日 (木) 08時15分