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2021年1月26日 (火)

内部通報制度の理論と実務(新刊書のご紹介)

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本日開示された弁護士ドットコムの四半期決算説明資料はなかなか興味深いです。週刊東洋経済の最新号では「弁護士という職業は10年後には希望はない」とダメ押しされていましたが、我々の業界の現状と将来像を把握・展望するにはとても有用な資料ですね。ともかくクラウトサインの伸びがスゴイ(同社の収益の柱となっています)。もはやサービス事業というよりも製造業の域に達しているような気がします。私はビジネスロイヤー事業くらいしかお世話になっていませんが、将来的にはプラットフォーマーとしての地位を確立する企業になるのでしょうね。

さて、令和2年の改正公益通報者保護法や改正個人情報保護法、近時積極的に活用されている日本版司法取引(協議・合意制度)、国内法化されつつあるEU公益通報者保護指令等、日本企業における内部通報制度の改革を取り巻く法制度が大きく動き出しています。今後はさらに(行政機関への内部告発が増えることを想定して)消費者法や競争法分野における消費者、取引先保護の実効性を高めるための改革も想定され、この改革へ向けた内部通報制度の変容も議論される機会が増えるはずであります。

このような時期に、まことにタイムリーな新刊書が商事法務さんから出版されました(「内部通報制度の理論と実務」弁護士法人中央総合法律事務所編 2021年1月 商事法務)。先日、(本書をとりまとめられた)森本滋先生に恵贈賜りましたものの、実は昨年12月の時点で(裁判所の書店で目に留まった)「どうしても気になる一冊」として、購入しておりました( ゚Д゚);;スミマセン。体裁は、かつて私も執筆者として関与した「社外監査役の理論と実務」(商事法務)になんとなく似ていて、手にとると親近感が湧いてまいります。

常用雇用者が300人を超える事業者の皆様、つまり改正公益通報者保護法に基づいて「公益通報への対応体制の整備等の措置義務」を負う事業者の皆様には、改正公益通報者保護法施行時の実務レベルを認識するうえにおいての最新情報が掲載されておりますので、とてもお勧めの一冊です。「理論と実務」というタイトルからも推察されますが、かなりの分量なので、通読するよりも、各企業における現時点での課題への参考書として活用されるほうがよいかもしれません(すいません、私も通読してからご紹介しようと思いましたが、いまだ読了しておりません)。私が過去に執筆した関連書籍3冊も、各所で引用していただいておりますが、本書も原則として企業実務家向けの書籍ということで、たいへん読みやすい内容です。文中ややむずかしい用語や制度運用については、別途コラム欄を設けて実務上の運用例などと共に解説が施されている点は嬉しい。

本書のご執筆者の本意に沿うかどうかはわかりませんが、本書は「内部通報を検討している従業員」「外部第三者への情報提供(内部告発)を検討している従業員」の方にもとても参考になりお勧めできます。たとえばパワハラ相談への通報対応についても詳論されていますが、その相談窓口などの解説は、むしろ通報を検討されている方々に参考となる情報がとても豊富です。私も「なるほど、これはすぐ使えそう」と思いながら読み進めておりました。

また、私が過去に執筆した本と大きく異なるのは、私は恥ずかしながら(私のアバウトな性格に由来するのか)制度の大づかみ、周辺法領域との関係性等の記述は得意でも、実務上で問題となりそうな細かな点までは詰めきれずに出版しております。しかし、本書は規模の大きな事業者だけでなく、中小規模事業者向けの「社内規程モデル」の解説(ひな型付き)や、実務上とても悩ましい通報への対処方法の手順等、企業実務担当者にとって取扱いがむずかしい細かなプロセスにまで配慮されております(まあ、言い訳に聞こえるかもしれませんが、本書は規模の大きな企業法務系の法律事務所の中堅・若手クラスの方々がご執筆されているので、悩ましい事例への対処経験も私よりも豊富なのでしょう)。したがって、内部通報制度を支える専門家の皆様(外部窓口担当者、社内調査支援者)にも有用な一冊です。

これまで、私自身が「しっかりした通報制度の参考書」として重宝しているのは日野勝吾先生の「企業不祥事と公益通報者保護法」(2020年 有信堂)、升田純先生の「裁判からみた内部告発の法理と実務」(2008年 青林書院)ですが、本書は内部通報制度や公益通報制度の「歴史を知り」「今を知る」ことができる書籍として、今後は上記2冊と共に「しっかりした実務書」として参考にさせていただきます。

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コメント

「「弁護士という職業は10年後には希望はない」とダメ押しされていましたが…」という、冒頭的部分から展開された山口先生の本エントリーですが、過去のエントリーにも増して、〈 山口先生は、どのようなお気持ちで、このエントリーを記述する為に、キーボード入力をされていらっしゃるのだろう?〉と思っています。
人間が生まれて死ぬ、その生涯の中で、「人生に影響を与えた1冊を挙げよ」と問われた時に答える書籍で、その人の人生観がある程度判るかと思います。
公益通報者保護法などの法律や、内部通報制度/公益通報制度などをはじめとする制度類は、夜空に輝く星の数ほど存在している訳ですが、極論ながら、人間のDNAの中に「不正を起こす遺伝子」という物が有り、それが医療行為によって消滅出来る事が可能であれば…。

(今から10年余前の発行:500頁弱の某書の172頁に書かれた「最終的には個人の良心しだいということです」という一文が脳裏に刻まれています。)

混迷深まる未曾有/不透明な今の世の中:法整備社会で働き生きる者として、現存組織の権力の座に就いている人達が、必ずしも、正しい方向に導いているとは限らないと言う事を、今後より一層受け止めて行かなければならない世の中となる?
法の改正と言う、その時期時期に即応する為のルール作りを、はたして、現職の人達に委ねて良いのか?新たな人選が必要なのでは?という万民の審判が下される今秋ですが、( 病になっても入院すら出来ない等の不条理拡大中という報道に日々触れ)有権者の正しい判断の糧になる様な書物類が、今後も広く存在/流通されて行く事を願っています・・・。

投稿: にこらうす | 2021年1月26日 (火) 03時26分

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