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2021年2月24日 (水)

企業不祥事の発生は「必然」だが発覚は「偶然」である-小林化工事案の考察

(2月25日 事実関係に誤りがありましたので修正いたしました。ご指摘いただきまして、ありがとうございます。)

薬剤に睡眠薬が混入し、2月に業務停止命令が下された小林化工の(経営者が関与したとされる)企業不正については、すでに多くのメディアが報じています(たとえば時事通信ニュースはこちら)。福井県の名門企業であり、ジェネリック大手として地域経済の活性化にも大きく貢献している同社が、なぜ長年にわたって試験結果の捏造等の不正に手を染めていたのか・・・。

問題発覚の原因は、イトラコナゾールに睡眠薬が混入し、死亡例を含む健康被害が出たことにあります(自動車事故や転倒など、健康被害は239人にのぼるー2月8日時点)。その後の福井県による立ち入り調査で、①2人で作業すべき原料取り出し作業を1人で実施(内部統制違反)、②国に提出している手順書とは別の「裏手順書」による原料の継ぎ足し(法令違反)、③平時の立ち入り調査用に虚偽記録を作成、④品質試験結果を捏造(法令違反)、⑤長年、これらの法令違反を経営陣が黙認・放置、といった事実が明るみに出ました。

同社社長さんの会見では、「安定供給が最優先であり、決して欠品で医療関係者・患者の皆様に迷惑をかけてはいけない」「生産性の向上を図るために、できるかぎり効率的な作業を優先していた」「ジェネリックという患者様を救う新たな領域を社会に浸透させたかった」という言葉が何度か出ていました。同社の不祥事を並べると、とんでもない悪質企業のようにも思えますが、コンプライアンスを秤にかけて自らの正義に重きを置く企業はとても多い、というのが実感です。毎度申し上げるとおり、どんなに立派な企業でも不祥事は発生するのであり、同業他社としのぎを削る以上、発生は「必然」です。

今回は「たまたま」現場作業担当者のミスによって薬剤混入事件が発生したことから明るみに出たのであり(事故発生→不祥事発覚)、もし当該ミスがなければ、今も同社は福井県の地域貢献企業として、厚い内部留保のサステナビリティ・カンパニーの代表格であったはずです。

ただ、ここから先は私の推測を含むものであり、間違っていれば福井県に失礼になるのですが、本件は福井県が「本気の調査」を行ったからこそ、同社の長年の不祥事発覚に至ったのではないかと推測しております。というのも、今回の件の発端は、ひとりのベテラン内科医師による通報にあると考えられるからです(こちらのヤフーニュース参照)。

外部からの通報によって小林化工としては薬剤と健康被害との因果関係を認めて調査に乗り出すわけですが、福井県としても、医療関係者のエビデンスに基づく通報が先行している以上、性悪説に基づいた調査を徹底しなければ県民に説明がつかない。ということで、県の徹底調査によって長年の不正が一気に(しかもスピーディーに)明るみに出ることになったと思われます。なお、新聞報道された後に「会社関係者の証言」も出てきましたので、内部告発もあったと思われます。

いずれにしても、(たとえ事故が発生していたとしても)63歳のベテラン内科医師の勇気ある行動がなければ、地域の名門企業の不祥事は明るみに出なかった可能性が高く、不祥事の発覚は「偶然」です。過去の不正を是正するところまではできたとしても、これを「なかったことに」して公表しない、という企業は多いと思います。多くの企業が、本件の「63歳のベテラン医師」のような人が出てこないことに期待を寄せるのです。そして、この「偶然」を「必然」に変えていくのが公益通報者保護制度、ということになります。

ちなみに今週月曜日(2月22日)、いよいよ消費者庁HPに「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会・報告書案」が公表されました。同検討会では、企業実務に大きな影響を及ぼす改正公益通報者保護法第11条1項、同2項の指針の内容が検討されてきましたが、その全貌が見えてきました。上場会社の社長ですら「前科1犯」になりかねない法改正なので、経済団体代表委員の個別意見の内容は(公益通報に基づく社内調査の実効性を上げる、という意味では)まことに当を得たものと考えます。本報告書案に関する当職の意見はまた別途エントリーで述べたいと思います。

 

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コメント

(事実は、TVドラマ:小説よりも奇なり?)
「リコール署名偽造問題」で、県知事と市長との間で対立が長期拡大化している愛知県:名古屋市に、東海テレビというフジ系列のテレビ局があり、午後の時間帯に過去のドラマの再放送をしています。
山口先生の本エントリーを一読後…(特に「ベテラン内科医師の勇気ある行動…」の部分)故山崎豊子原作の白い巨塔(唐沢寿明主演)の中で、江口洋介演じる「里美医師」と、上記ベテラン内科医師の存在が重なるイメージが脳裏に浮かびました。ドラマでは、医療ミスが法廷論争になる設定ですが、背後にある、巨大病院に属する医師の立場や人間模様が描かれており、上記医師とは別の若い研修医の内部告発的な言動がポイントとなり、原告/被告の形勢逆転…ドラマの筋書きが、小林化工社不祥事と、公益通報者保護法の全貌が明らかになりつつある令和の時代の、医療全般に潜む問題の奥深さと重なる様に感じています。

日刊薬業のウェブサイトでも展開している、過去の関連記事/解説記事を読めば読むほど、小林化工社含むジェネリック医薬品業界の問題の深刻さも想像させます。
一連の報道に触れつつ、更に日本医薬情報センター発行のJAPICニュース:昨秋11月号(No.438)の巻頭言:掲載文…小林宏幸社長の「経営者としての歩み」記事文面の、報道内容と真逆/乖離に驚いています。
(遺族/被害者の目に触れたら、美辞麗句を連発する様な部分として不快感を思わせる記述もある?)(「労働や特許に関するリーガル対応、コーポレートガバナンス、コンプライアンスの強化などを、資本業務提携したばかりのオリックス社から対応を問われる…等という記述の背後に増幅して来たものは何か?)
半世紀前に、日本製薬工業協会加盟の有志25社による任意団体からスタートした団体の発行する媒体の巻頭言というポジションが与える社会的イメージと、創業当時は「福井県製薬所」だった社名から薬の文字が消え、単なる化学工業を略する文字に社名変更して以来、薬剤師の資格を持つ経営者が後発薬製造を拡大展開してきたどこかで、エンドユーザーの命を左右するという責務の軽視が増殖する惨状に、「氷山の一角」事例として、僭越ながら他の都道府県でも同業他社に類似拡大している可能性を危惧します。

山口先生の文中/福井県の立入り調査①〜⑤の部分では、現場やオフィスでの違法行為類が、(非正規社員を含む)社員の行為を、経営者が黙認・放置…とありますが、真相はそれら以外にも存在する?
仮に、後発薬製造工程:現場で、未経験レベルの新人及び人材派遣会社経由で配属される人員等に指導する立場の先輩上司の教育等が正しく機能していたか?とか、正義感ある有能な人間が入社しても、製薬会社にあるまじき言動が蔓延する社内環境に耐えきれず退社する温床もありそうな、ジェネリック医薬品業界の「負の構図」が見えて来そうです。
又、公務員の人事異動が、おおよそ3年毎に繰り返されているとしたら、「本気の調査」に着手した担当者は正しかったとしても、過去に長年黙認・放置してきた別の県職員が存在したとしたら、行政としての体質面からも、(空虚なプレスリリースに留まらない)再発防止に取り組むのが急務かも…です。

(違反行為に関する懲戒基準項目中の「22」「23」を読みつつ…)
人事院資料には、利害関係者との対応に関する注意事項的な項目を含む中に、虚偽の申し述べや隠ぺい、違反の事実を黙認する事への懲戒記述があります。立入り調査業務に絡む、贈収賄が温床になっていない事を願いつつも、現実は如何に?。
国家公務員/総務省幹部の倫理規定違反が国会で議論されている昨今、地方公務員の言動が、地域住民及びエンドユーザーの命に関わる問題としても、安易かつ違法行為の増幅/末期症状になる前に、常日頃から、本気の「正義のメス」が入れられる行政構造である事が、真の地域活性化の重要な柱の一つだと思っています・・・。

投稿: にこらうす | 2021年2月24日 (水) 07時01分

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