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2021年2月22日 (月)

今こそ会社法上の「会計監査人設置義務」への関心を高めよ-フタバ図書粉飾案件に思う

日曜日の夜の東京新聞ニュースでは「電子機器や服飾を含む日本の主要小売り・製造業12社が、中国新疆ウイグル自治区などでの少数民族ウイグル族に対する強制労働への関与が取引先の中国企業で確認された場合、取引を停止する方針を固めたことが21日、共同通信の取材で分かった」と報じています。先日、東京オリ・パラ元組織委員会会長の発言問題について、スポンサー企業がどのようなコメントをしたのか、という点が(比較されて)話題になっていましたが、もはや「ESGは企業価値向上に役立つか」などとフワっとした議論をしている時代ではなくなってきましたね(たいへんだぞ、これは・・・)。以下本題です。

2月20日の中国新聞デジタルのニュース「フタバ図書、10年間粉飾 在庫や資産償却を不適切記載」では、広島の書店チェーン大手のフタバ図書(非上場会社)が10年にわたって決算書に書く在庫を実際より多くしたり、固定資産の償却を小さくしたりして、不適切な計算書類を作成していたことが報じられています。また、別の中国新聞記事では、借入先の金融機関の数を少なく記載して、過小の債務総額を取引先金融機関に示していた、とも報じられていました。

これまで粉飾を説明してこなかったのは「上場会社のような開示義務がある企業を除き、企業価値を損なわないぬよう非開示が原則。信用不安からの破綻を回避しようと考えた」というのが会社側の説明だそうです。しかし、上記中国新聞の記事が正確に伝えているとすれば、この会社側の表現は誤解を招くものと思います。

上場会社ではなくても、株式会社である以上(つまり会社法が適用される会社である以上)、フタバ図書には計算書類(BSやPL)や事業報告について開示義務があります(会社法440条1項、同442条1項1号)。実際には開示義務を果たしていない非上場会社が多いことは事実ですし、また有価証券報告書の提出義務はありませんが、「法律上の開示義務がない」とは言えません。さらに、計算書類の内容についても、会社法では虚偽記載は過料の制裁が規定されていますので(同976条7号)、破綻を回避するために(会社の信用を維持するために)不適切な記載が許されるわけでもありません。

とりわけフタバ図書の場合、そもそも同社は金融機関からの借り入れだけでも総額235億円に上るということですから、会社法上の「大会社」に該当するはずです(同法2条6号。「大会社である」と断定できないのは、最終事業年度の貸借対照表に負債200億円以上が実際に計上されているかどうかはわからないため)。

ご承知の方も多いと思いますが、会社法上の大会社に該当すれば、会計監査人の設置義務がありますし(同法328条2項)、内部統制の基本方針についての決議義務も発生します(同法362条5項)。同社が会計監査人を設置していれば、まちがいなく粉飾決算を防止でき、仮に防止できないとしても、粉飾に対して早期に対応できることになり、今回のようにステークホルダーに迷惑(9割の貸付債権免除)をかけることもなかったはずです。

会社としては「当社は会計監査人設置会社である」という認識はなかったのでしょうか?あるいは、取引先金融機関として、会計監査人を設置すべきだ、と要求することはなかったのでしょうか?ぜひ、このあたりは更なるニュースで明らかにしていただきたい。

ところで、2010年に発覚した林原の会計不正事件のときにも思いましたが(2013年8月19日拙ブログエントリー「金融検査の見直しと林原の破綻」参照)、会社法上の大会社のように、会計監査人を設置しなければならないにもかかわらず、これを放置している会社が、日本にはかなり多いはずです(以前、日本公認会計士協会が、登記簿上の5億円以上の資本金を調査したことがあったように記憶しています)。林原のケースでは登記簿上の資本金5億円企業なので明確ですが、フタバ図書のように「負債額200億以上」となると、取引先金融機関でもなければ、なかなか指摘することはできないのかもしれません。

今後、金融機関も融資先の事業リスクの定量化を図り、M&A等の仲介事業なども手掛ける時代となりますと、これまで以上に融資先の会計不正には注意を向けなければならないと考えます。そうであれば、融資先に会計監査人設置義務があるのか、財務報告に関連する内部統制の構築義務があるのかどうか、という点には強い関心を示す必要があるのではないでしょうか。今回のフタバ図書の事例では「借入先金融機関の数を過少説明され、債務総額が見えにくかった」という事情があったのかもしれませんが、そもそも「会計数値」への信頼が融資業務において軽視されてきたのではないか、といった疑問がわいてきます。

当ブログでは何度も「会社法上の過料規定-976条-は時代に合わなくなってきたので、必要に応じて刑事罰規定に改正せよ」と言ってきましたが、計算書類の虚偽記載規定とともに、会計監査人の設置義務違反についても刑事罰化することが、「担保」偏重ではなく、事業リスク重視による金融機関の融資姿勢の変化を促すことになるのではないか、と考えております。

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コメント

山口先生の本エントリーには、過去のエントリーにも増して、複雑多面体的な経済社会の負の部分の深さを感じさせる内容…と思っています。

(幾つかのポイントを想像しつつ、2つの存在/内容について、僭越ながら…)

(1)JAPANにおけるバブル崩壊及び、リーマンショック以降の、メガバンク以外の地域金融機関(地方銀行、共同組織金融機関など)の存続危機を背景とした、インテグリティに反した融資の増大。
(2)コロナ騒動で再浮上した、悪徳税理士の存在(学生までも巻き込んでいる給付金詐欺問題など)による会社法「負債200億円以上」部分を逆手に取った事に起因する乱用税務会計操作。

上記2つの社会的立場の重い(許認可資格者的存在)、平成〜令和(コロナ騒動含む)現在に至る「ハイブリッド不正」的な数字調整悪事の温床増殖が在る事に危惧しています。(山口先生のご指摘の監査役設置視点と、更にその奥に潜む税理士資格保有者の職権乱用も…かと)
所謂「額に汗して」的な、農林水産業物を収穫/出荷する訳でもなく、良質な工業製品/加工をする訳でもなく、ホスピタリティの高い接客サービスをする飲食店サービス等を提供する訳でもない、姑息計算で生計を立てている個人/組織の存在が大きいと思います。その両者の利害関係が重なった時に、理科の化学反応の如く、「悪事反応」が発生し(粉飾をはじめ)不正な書類を乱発するという構図…かと。
粉飾類をする事で得る、甘い蜜汁を吸う事を罰する法律類と、(存在する拠点視点での)社会的制裁を従前以上に厳しくしないと、法の番人がいくら存在しても追いつかないという悪循環は止まらない様な気がしています。

フタバ図書社問題においては、良書販売だけでは経営が成り立たない書店経営の構造不況:悲しい現状が、流行に左右されつつの様々な商品アイテムに手を出した末の惨状の一因と想像しつつ、人間社会の盲点的「消費社会」「消費者」という表現の深部に潜む、安易な買物傾向:生活者購買意識からの脱却等、SDGs/ESG観点からも(行政関係者が頻繁に用いる「抜本的」)対策も急務と思っています・・・。

投稿: にこらうす | 2021年2月22日 (月) 07時24分

・この「上場企業など特殊な企業以外の会社に開示義務はない」という誤解は相当に蔓延しているのではないかと思っています。実質みんなやってないからまあいいか、というレベルにも至っていないところは多そう(根拠は特にないです)
・「当社は会計監査人設置会社である」という認識について、増資時の確認で認識することに比べて決算毎に負債を確認してそこを認識することは如何にも難しそうです。会計ソフトとかで機械的にアラート入ったりするなら見えやすいかもしれませんが実際どうなのかしら……
・金融機関は決算書のデータ化ぐらいしていると思うのでそれこそ機械的にアラート出せるようにしてつついてほしいとは思うところではあります
・粉飾してるようなとこだとやっぱり負債額も粉飾しているでしょうけど、ラインぎりぎりで踊ってるようなところは厳しい目で見られたり、抑えることで無理も出るしで発覚は早くなって傷は浅くなると見たものでしょうか

投稿: 紡 | 2021年2月24日 (水) 21時18分

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