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2021年3月31日 (水)

法学から考えるESGによる投資と経営(新刊書のご紹介)

Img_20210330_201036_512 いよいよ3月31日には金融庁と東証から改訂2021コーポレートガバナンス・コードが公表されるはずですが、今朝(3月30日)の読売新聞1面トップでは「気候変動 企業の戦略開示-金融庁、東証 リスク、投資家に」と報じられていました。東証のプライム市場に上場する企業には、気候変動関連の戦略や目標の情報開示を要請する、とのこと。おそらく気候変動に対する経営戦略や目標、リスク管理などを投資家に報告すべき、との指針が出され、いわゆるTCFDに即した情報開示が推奨されることになる模様です。

3月初めの金融庁フォローアップ会議では「信頼される監査制度」について議論されていたようで、そこまでは会議再開時の予定通りだったと思うのですが、いきなり「気候変動関連の情報開示」という新しいテーマが入ってきたのでしょうかね?真相はよくわかりませんが、おそらく政府の強い要望があったものと推測いたします(それにしても一般の上場会社が6月までに準備できるのでしょうか?)。

さて、先週までは書店に立ち寄る時間もなかったのですが、昨日、どうしても気になっておりました一冊をようやく購入することができました。筑波大学(大学院)教授の大塚章男氏によるご著書「法学から考えるESGによる投資と経営」(2021年3月初版 同文館出版2,200円税別)です。帯書きは「株主利益の最大化」や「金銭的な投資利益の最大化」のみを追求するべきなのか?ESG投資・経営について、法的視点から企業への影響や新たな経営のあり方を考える」とあります。

大塚先生の7年間の研究成果だそうですが、上場会社の経営者の皆様、社外役員の皆様にはおススメの一冊です(同文館の編集・企画のAさん、相変わらず良い仕事してますね。(*^-^*))。前半部分はESG投資の概要や株主構造の変化とESG経営との関係、日米英における最近のガバナンス関連事情の解説がよく整理されています。投資家側はアクティビストとインデックスファンドと分けて解説されている点やESG投資の具体的な手法などもコンパクトに解説されていて有益です。私自身、前半部分は結構勉強してきたつもりなので、比較的サラっと読めました。ただ、ガバナンス・コード2021改訂版をきちんと理解したい、という方には、2014年ころからの日本の事情もよくまとまっていて理解が進むと思います。

そして圧巻は後半です。ESG経営に関わる企業側には会社法の視点からESG経営への法的規律について、とりわけ取締役の善管注意義務との関係で様々な課題が示されています。また、ESG投資に傾斜する投資家側には信託法の視点から(受益者に対する)忠実義務とESG投資との関係について課題が示されています。企業側にとっても、機関投資家の忠実義務とESG投資との法的規律を理解することは有益ですよね。

令和元年改正会社法及び関係政省令が施行され、最近は会社法関連の実務書、基本書がたくさん出版されていますが、どうしても「おなじみの論点に対する正解」「改正法に対応するためのひな型」に光があてられてしまいます。しかしながら、本書はESG経営や投資の実務に会社法、信託法の視点から「有意義な問い」を投げかけていて(たとえばSDGs、ESG重視の戦略決定に「経営判断原則」は適用されるのか等)、とても読んでいて新鮮な気持ちになります(平易な文章で書かれているので、企業の皆様にも普通にお読みいただけます)。株主資本主義からステークホルダー資本主義へ、といった安易な理解だけでは「株主利益の最大化」に重きを置いてきた取締役の法的義務の内容まで変えることはできない厳しさ(会社法解釈の厳しさ?)を痛感いたしました。

なぜ今、気候変動に対する経営戦略を開示しなければならないのか、そこになぜ投資家が注目をするのか、本書には「なるほど」と納得できるヒントが示されています(あくまでも「ヒント」です。「正解」は各社各様の状況によって変わるものであり、自分の頭で考えなければならない、ということなのでしょう)。法律学の視点からガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを論じる書籍というのは、これまであまりなかったのではないでしょうか。上場企業に対しては、機関投資家から(公式、非公式を問わず)重要な提案が示されたり、またエンゲージメントの機会が増えたりすることが予想されますが、本書はそのような場面における企業対応にも十分に参考になる内容です。大塚先生、勉強になりました!<(_ _)>

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2021年3月29日 (月)

花王「美白・ホワイトニング」表現撤廃に他社は追随するか?

ようやく調査案件が終了しましたので、今週からまたブログを更新できそうです。ここ3週間ほど情報をインプットする時間がなかったのですが、できるだけ頑張ってエントリーしますので、またよろしくお願いいたします。

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ところで、上のPPTシートは、現在研修講師を務めておりますリスクマネジメント研修(日本監査役協会)の資料からの抜粋でございます。昨年から私がずっと気になっておりました実例を「設問」として取り上げ、現役の監査役、監査等委員の皆様に考えていただくために作成しております。

ちょうど3月27日の日経朝刊の記事では、「花王、美白表現を撤廃-人種の多様性議論に配慮」なる見出しで、花王さんが今後3年ほどの間に、全商品における「美白」「ホワイトニング」なる表現を漸次廃止していくことを決定した、と報じられていました。花王の執行役員の方によると「多様性の観点から議論して決めた。美白という表現によって白い肌がベストと伝わるのは良くないと考えた」とのこと。

日本には化粧品大手がいくつか存在しますが、ユニリーバやロレアル等の世界的企業が「ホワイトニング」表現撤廃に動く中で、どこがどのように対応するのだろうか、と関心を持っておりましたが、花王さんが遂に動き出した、ということと理解しました。ポストコロナの時代を見据えて、企業のコンプライアンスやESG経営への動きがどうなるのか・・・ということについて、改めて私見を述べたいと思いますが、上記記事にもあるように、日本の他の化粧品メーカーさんは花王さんに追随するのか、それとも別の視点で意見を述べられるのか、今後も注目しておきたいと思います。

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2021年3月25日 (木)

(速報版)改正公益通報者保護法の指針案(素案)が公開されましたね

本日(3月25日)、消費者庁HPに改正公益通報者保護法の「指針案」の素案が公開されました。検討会が「指針案」を出すわけですが(指針を策定するのは政府)、その指針案の素案が会議資料から明らかになりました。

今後改訂が予想される平成28年12月「民間事業者向けガイドライン」と同様、指針の理解はとても重要です。今後、「指針の解説」が作成されることになりますが、これまでの民間事業者向けガイドラインは「指針の解説」と統合されるかもしれませんね。中身はまた時間のあるときにじっくり拝見いたします。ブログ更新に全く時間がとれませんので、とりいそぎ速報版ということで。

追記 3月26日午前

そういえば少し前のエントリーに、サンダースさんが「昨晩のJIJI.COM のニュースに、「告発の元部長、解雇無効 神社本庁が全面敗訴 東京地裁」とありました。是非、お時間のある時に解説を頂けたらと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。」とおっしゃっておられました。遅くなりましたが、こちらも判決文が読めるようでしたらぜひご紹介したいと思います。

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2021年3月22日 (月)

ガバナンス改革3.0はすでに始まっている

1週間ぶりの更新です。委員長を務めております某社の調査案件が佳境に入っており、他の委員・委員補佐の皆様が深夜早朝まで調査に勤しんでおられる中でブログを書くのはたいへん気が引けます(笑)。したがいまして、書きたいことは山ほどありますが、簡潔にひとつだけ。

今朝(3月21日)の日経朝刊7面ではPwC・Japanグループ社が、脱炭素を目指す企業に対して温暖化ガスの効果的な削減策を助言するサービスを開始することが報じられていました。削減に要する費用や投資負担に伴う効果、そして同効果の財務への影響等を株主に説明しやすくなる、ということだそうです。

こういった記事を読み、私はいよいよガバナンス改革も第3世代に入ったものと感じております。ポピュレーションアプローチの時代(2014年~17年)は法改正やソフトロー(コードやプリンシプル等)によって市場に参加する企業全体を動かし、次にハイリスクアプローチの時代(2018年~20年)は、非友好的買収や資本生産性に関する(株主の)重要提案に代表されるような「個社への働きかけ」の波及効果によって「形式から実質への深化」を促し、そして今後はインテクレイテッドアプローチ(統合アプローチ)の時代、つまりE(環境)S(社会・人権)への企業の取組みとの統合によって更なるガバナンス改革の進展を目指す、という時代への変遷です。

たとえば脱炭素社会の実現に向けた企業努力には(上記のPwC Japanさんの新提案のように)多大な社内資源の投入が必要になりますが、これを実現できる(少なくとも社内で議論できる)ガバナンスが求められますし、またダイバーシティの導入には、女性や外国人の幹部職員が浸透できるように、幹部職員の職場環境の整備(女性や外国人が力を発揮できるように当該職務の内容を作り直すこと)を実現することにもガバナンスの変革は不可欠でしょう(職務の内容自体を変えることが前提となりますので「いや~、まだまだウチの会社は〇〇担当の執行役員を任せられる女性幹部が育っていない」なる言い訳は通用しなくなります)。

ガバナンスの格付けに「評価項目、評点項目」をどうするか、といった議論もありましたが、そんな形式的なことよりも、EやS、中長期的な資本政策といった重要課題の実施可能性の判断項目としてガバナンスを評価するという手法が主流になるのでしょうか。日本企業のサステナビリティの重要課題とガバナンス改革を結びつけることは、もはや既定路線になりつつあるようです。誰か頭の良い人が考えたのかもしれませんが、こうなりますとさすがに「仏作って魂入れず」といったガバナンス・コード対応はもはや通用しなくなりそうです。

昨年来、「日本企業のESG-なぜGはEやSと並んでいるのか」(2020年11月16日)、「ESGへの取組みは加点主義か減点主義か」(同12月2日)、「企業の脱炭素への取組みは情報開示だけでなく説明責任も果たさねばならない」(2021年1月21日)など、私なりの素朴な疑問を綴ってまいりましたが、なるほど、ガバナンス改革への企業の取組みを「見える化」する(真剣に投資判断の材料にする)というのは、こういった手法なのかと最近少しだけ理解できた気がいたします。

そうはいっても、これからも「サステナビリティ推進担当役員」任せの会社もまだまだ残りそうな気はしております。。。

 

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2021年3月15日 (月)

ダイバーシティ(D&I)とハラスメント対策は「セット」だと考える

土日も関係なく調査業務が続いており、なかなか時間がとれませんが、思うところをひとつだけ書かせていただきます。今週の日経ヴェリタスでは「ダイバーシティを買う 多様な人材、企業価値の源泉」という特集が組まれています。私は日経ニュースで紹介されている以上の中身については読んでおりませんが、もはやD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は企業の社会貢献ではなく、企業価値の向上のためには必須の戦略だという内容のようです。

思想としては正論であり、また市場においても多様性を重視する銘柄で構成する指数が比較的好成績を上げていることも否定できない事実です。しかし、企業の不正調査をお手伝いしている者として(狭い視野ながらも)現実をみると、ダイバーシティの実践は現場のハラスメント、とりわけパワハラを助長する可能性も高めている(パワハラリスクを顕在化させる)ように思います。

ダイバーシティに「社会貢献」の色が濃い時代であれば現場での軋轢も少なかったのですが、「企業価値の向上に資する」ということで「多様な考え方を経営に取り入れる」のであれば、上司の部下に対する「考え方・働き方の強要」に由来する「個の侵害」事例が生じます。また、社内常識に反する考え方を持った上司に対して部下が共同して嫌がらせ行為に出て排除する行動(これも厚労省のパワハラの定義に含まれます)に出ることもあります。近時はインクルージョン(考え方の受容)という概念も普通に語られるようになりましたが、意味の取り方次第では「個の侵害」を正当化してしまうようにも思われます。

企業のハラスメント対策が「個(加害者)と個(被害者)の問題の解消」として捉えられていた10年ほど前までであれば、偶発的事故の後始末のような発想で、個々の紛争を処理していればよかったのかもしれません。。しかし、企業のハラスメントは「職場環境配慮の問題の解消」であり、放置することで「会社が辞めてほしくない優秀な人材から退職していってしまう」時代となりますと、ハラスメント対策こそダイバーシティを企業価値向上に結び付ける前提条件として考えるべきではないか、と思うようになりました。

たとえばダイバーシティは経営企画が担当し、ハラスメント対策は人事部が担当しています。まじめな企業ほど、それぞれの部門が熱心に業務を遂行していますが、ではそれぞれの部門の隙間で発生した問題はだれが解決するのでしょうか?(隙間で発生した問題の解決は、自らの人事評価には結び付きません)それぞれの部門が役割を果たした後に発生した問題の後始末は、これからも私のような弁護士が報酬をもらいながら場当たり的に担うのでしょうか?掛け声は素晴らしいのですが、担当役員より上の人たちが率先して隙間を埋めることに尽力しなければ、結局のところ「形だけ整えて、実質は伴わないD&I」に陥ってしまうように思います。

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2021年3月10日 (水)

週刊エコノミスト特集「企業法務担当者が選ぶ『頼みたい弁護士13選』」に選出されました。

1615200496562_512 週刊エコノミスト2021年3月16日号におきまして、「企業の法務担当者が選ぶ『頼みたい弁護士13選』」に選出していただきました。「危機管理部門」からの選出です。投票していただいた法務担当者の皆様、どうもありがとうございました。こんな個人事務所の弁護士でも選出していただけるのは、(紹介文にも書かれているとおり)監査法人系のコンサルティング会社、リスクマネジメント会社、そして同業者の方々から繰り返しお声かけいただいていることが大きいようです。

これからも、企業の経営者の方や社員の方々の目線に合わせたコミュニケーションを大切にして、与えられた仕事に取り組みたいと思います。3月中は(同業者の方からお声かけいただいた)緊急案件のためにブログの更新は少なくなりますが、今後ともよろしくお願いいたします。

山口利昭 拝

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2021年3月 8日 (月)

やはりコーポレートガバナンスを知ることは武器になる(と思う)

昨日、サンダースさんもコメント欄に書かれていますが、日本最大級の生協(神戸生協)の組合長が、内規違反(ゴルフ接待を受けたこと)を理由に解職されたことが報じられています(たとえば、こちらのニュースを参照)。昨年12月に内部通報があり、社内調査によって組合トップの内規違反が発覚、ただちに理事会で解職したということのようです。

官僚の世界では「倫理規定に反するものとは思っていなかった」という理由が通ってしまうようですが、民間の世界では「組合長が知らなかったわけがない」ということで解職です。たとえ国家公務員倫理規程に明確には反していないとしても、そもそも(国民から違反を疑われる行為自体が、その行為の必要性を疎明できない以上は)「品位を害する行為」として厳しい処分は下されないのでしょうか(私は神戸生協の姿勢こそ評価すべきと思います)。諸々書きたいことがございますが、あまり時間がないので以下本題です。

3月6日(土)、毎月恒例のCGN(コーポレートガバナンスネットワーク)の関西自主研究会がリモートで開催されまして、業界でもトップを独走している某上場会社の取締役監査等委員である会員の方から「ひょっとしたら最強のガバナンスは監査等委員会設置会社ではないか」といったタイトルでの発表がありました。

某社の取締役会構成やスキルマトリックス、監査等委員である取締役とそうでない独立社外取締役との関係など、他社でも参考になる実例が示され、現役の社外取締役さんが多いので、質疑応答もたいへん活発でした。そして、監査等委員会設置会社には「横滑り役員さん」が多いという外形だけで、やや冷めた見方をしている私にはかなり衝撃的な内容でした。

これまで、「社外取締役を入れると企業価値が上がるか」とか「指名委員会等設置会社にすれば不正予防に効果的か」といったような、外形から実効性を検討する議論が(コーポレートガバナンスの世界では)多かったのですが、最近のこの自主研究会の発表をお聞きしていると、少し視点が違うように思えてきます。要は「今、当社にある人的資源を前提に、中長期のパフォーマンスを最大化するためには、どのようなガバナンスを選択することが当社にとって最適か」といった視点で検討することが大切だと思います。とりわけモニタリングモデル(執行と監督の分離)を意識せざるをえない状況では、自社の戦略と人的資源を意識しながらガバナンスを構築することが不可欠ではないかと。

つまり監査役会設置会社の良さ(長所)を実現できる人的資源の会社もあれば、監査等委員会設置会社の良さ(利点)を引き出しうる人的資源を持った会社もある、ということです。「指名委員会等設置会社」の長所・短所もあるわけですから、自社がその長所を引き出しうる会社なのかどうか、そこを検討する作業が必要なのかもしれない・・・ということを(この研究会で)考えさせられました。

では、それぞれの機関形態にはどんな利点があり短所があるのか、社外取締役を増やすことにはどんな効果とリスクがあるのか、やはりガバナンスを学ぶことは会社にとっては有益だと思います。それと同時に、(本気でガバナンスを議論するのであれば)自社の組織風土を客観的に見つめなおす作業も必要ではないでしょうか。

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2021年3月 3日 (水)

関電金品受領問題で私が読み間違えたもの-関電改善実行報告書より

新たに調査案件に関わることになりそうで、またブログの更新が滞るかもしれませんが、元気にやっておりますので、どうかご容赦ください。ただ、私が十数年ほど東京で定宿としておりましたホテルがこの3月末で閉館(廃業)されるそうで(;゚Д゚)、また新たに定宿探しをしなければならないのはつらいところです。東京は緊急事態宣言の延長もありそうで、まだまだ厳しい状況ですね。

さて本日(3月2日)、関西電力による(業務改善命令に対する)実行状況報告書(3回目)が開示されました。そこに昨年11月に全社社員向けに行われた「CSRに関する全従業員アンケート結果」が公表されています。このたびの金品受領問題が社員の方々にどのような意識の変化をもたらしたのか、という点について様々な角度から光が当てられています。

私は金品受領問題が発覚して以来、当ブログでも、また講演等でも「これは原子力部門の組織風土に関するものであって、全社的な風土とは言えない。他の事業部門の社員の人たちも困惑しているのではないか」と書いてきました。しかし、このアンケート結果を読む限り、どうも私の推測はかなり「はずれ」だったようです。

「今回の金品受取問題は、当社グループにおける一部の役職員の問題だったと思いますか」との質問に対して、いいえと回答された方が61%、はいと回答された方が39%という結果であり、全体の6割の社員が「金品受領問題は全社的な問題だ」と捉えているそうです。このアンケート結果に「忖度」はないでしょうから、金品受領問題を発生させた組織風土は(グループを含めた)関電さん全体に存在する、ということなのでしょうね。これは私の読み間違えでした。損失補填問題は他の部門でも起きうる、と回答された方が多いことも、私にとっては意外でした。

なお、「私は関電が好きだ」と回答している社員数が減っていること、「将来、仕事のやりがいが高まる」「当社は持続的成長する」との回答が少なくなっていることは、経営陣にとっても気がかりな点と思います。脱炭素社会のためには原子力はどうしても必要、といった経営方針をとるのであれば、ステークホルダーからの信頼を得ることが「稼働における安心、安全」の大前提です。今回の事例を契機に「当社の未来は明るい」と社員の方々に確信をもっていただけるといいですね。

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2021年3月 2日 (火)

10年周期のみずほ銀行システム障害-運用面の問題はどこにあるのか?

2002年、2011年に続き、3度目の勘定系システム障害を起こしてしまったみずほ銀行ですが、4000億円、最大8000名の人員を投入して2018年に稼働した新システムでの障害なので、今回は当事者にとって、きわめて大きな衝撃だったはずです。新システム導入に関与した富士通は「システムに問題なし」と発表し、みずほ頭取さんは「運用上の問題」を会見で述べておられたので、どう考えても銀行側の問題が大きかったようです。

定期預金のデータ移行作業でシステムに想定を上回る負荷が生じたことが直接の原因とのことですが、では「銀行側の運用上の問題」であるとすれば、どこに根本原因があったのか、とても興味があります。私は全くの素人的発想ですが以下の3点に注目しています。

まずひとつは「構築よりも更新のほうが圧倒的に障害発生のリスクが高い」という点です。効率性の向上を目指してシステムの更新を行うわけですが、そもそも「よくわからないけどうまくいっている状態」で稼働させているので、更新によって効率性が向上する分、どこかに副作用が生じます。更新作業ですから「動かしながら修正する」わけで、不具合が発生すれば利用者の損失に直結します。たぶんシステム障害の本当の原因はわからないまま再稼働していると思いますが、そのあたりのリスク感覚があったのかどうか。

ふたつめは旧富士銀行、旧日本興業銀行、旧第一勧銀の組織力学をいまだにひきづっているのではないか、という点。三井住友、三菱UFJは「片寄方式」でシステム統合を図りましたが、みずほだけが「片寄方式」が採用できず、またそれぞれが提携していた富士通や日立、NTT等4社で統合作業が行われた、という点は、これまでの2度のシステム障害でも問題にされていました。どうしてもチームがひとつになれない、というのが運用面での問題として残っているのではないかと。

そして3つめがみずほの「働き方改革」との関係です。ご承知のとおりみずほ銀行は週休3日制を導入したり、25%の在宅勤務制度を導入しましたので、DXの推進とともに大規模な組織で更なる職務の分業化・専門化が進んでいると推測されます。したがって「システム全体を理解する社員」「隙間を埋める社員」が存在しない。これまでの労務慣行からすると、なにかイレギュラーな状況が生じた場合には、誰の業務なのかグレーであったとしても、誰かがそこを埋める作業ができたわけですが、そこに手を伸ばす社員が存在しなくなった(これはコロナ禍における他社の不祥事にも通じるところですね)。

いずれにしても、過去最大級の新勘定系システムの構築が稼働していたわけですから、運用上のどこに問題があったのか、(限界はあると思いますが)前回と同様、調査委員会を設置して公表していただきたいと思います。

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2021年3月 1日 (月)

社外役員の情報収集行為は「許される業務執行」と考える-会社法施行日にあたって

3月1日は令和元年改正会社法の施行日なので、改正会社法関連の話題をひとつ取り上げます。会社法上の社外役員(社外取締役・社外監査役)さんは、会社法2条15号、同16号により、会社の業務執行は行えないことになっていますが、本日より、社外取締役に限ってですが取締役会の承認決議があれば委託された範囲における業務執行(特定受託行為)も可能となります(改正会社法348条の2。ただし社長の指揮命令に基づく業務執行は行えないのが原則なので、詳しくは条文を読んでください)。

この特定受託行為は社内の取締役が担当すると利益相反状況に陥る可能性のある業務が念頭に置かれていますが(非友好的買収時における買収希望先との交渉、上場子会社と親会社との取引、MBO時における公正価値算定のための委員職務等)、その他にも社外取締役が内部通報の窓口になったり、有事に社内調査に関与したり、調査委員会委員に就任すること等も(潜在的には)社内取締役との利益相反状況が想定されるため、348条の2に基づく決議を活用することが有用とされています。

ところで、この改正会社法348条の2に基づく取締役会決議を経なければ、社外取締役が会社の業務執行をなしえない(つまり、業務執行をやってしまうと「社外性」を喪失してしまう)というわけではないと考えられています(「考えられています」と申し上げたのは、ここは会社法2条の解釈が関係するからです)。そもそも社外取締役が業務執行はできない、とされているのは、「業務執行」は通常は社長以下のラインによる指揮監督下でなされるものであり、もし社外取締役が業務執行に関与できるとなれば、社長の指揮監督が及ぶことになるため「独立性」が阻害されるからです。

ただ、会社の業務には社長の指揮監督が及ばないものもありうるのであり、その範囲であれば社外役員が業務執行に及んだとしても独立性には問題ないはずです。むしろ、近時のコーポレートガバナンス改革において期待される役割を果たすためにも、社外役員は許容される範囲における業務執行には積極的に関与することが必要ではないかと。では、どこまでが許容される業務執行で、どこからは許されないのか、かなり解釈上あいまいな部分があるため、少なくとも会社法348条の2に基づく承認決議を経ていれば「社外性」は失われない、というのが改正法の趣旨と理解しています。逆にいえば、だれが見ても「社長の支配下の仕事」を社外役員に行わせることは、たとえ同法に基づく決議を経たとしても社外性に問題が生じるということになります。

ここからは私の意見ですが、社外役員(社外監査役も含む)による情報収集行為は、たとえ業務執行であったとしても、会社法2条で規制される業務執行には該当しない、あるいは該当するとしても348条の2に基づく承認決議(つまり「その都度」の解釈を緩やかに認める)をもって委託できると解すべきものと思います。スルガ銀行事例や関西電力事例など、大きな不祥事が発覚するたびに「社外取締役は何をしていたのか」「社外役員の機能不全」と指摘されますが、そもそも社外役員が情報収集できない立場である以上は「不正を発見したくてもできないのだから仕方ない」で終わってしまいます。不正を認識している社内役員も、社外役員に騒がれるのを嫌って、不正公表の直前まで事実を隠すのがあたりまえになっています。

では「会社と社内取締役との利益相反状況」ということを念頭に置いた場合、社外役員による平時からの情報収集行為は会社法2条で規制される業務執行に該当するのでしょうか。348条の2の条文を読む限りは該当しないようにも思えます。しかし、日ごろから経営会議やコンプライアンス委員会に出席して意見を述べたり、経営者の関与するハラスメント案件について「取締役会の承認決議」を経ることなく(承認決議を経ていては証拠を隠されてしまう)社内調査に関与することは、社外取締役の職務に必要な情報収集業務として、むしろ近時のガバナンス改革で社外役員に期待されていることだと思います。また、そもそも情報収集行為を業務として行いうるからこそ、社外役員にも(有事における)善管注意義務違反を問いうる前提が形成されるものと考えます。なお、あまり議論されていませんが、社外監査役の方々も、私は一定の業務執行については(たとえ348条の2に基づく承認決議がなくても)会社法上の社外性を喪失することなく行いうるものと考えております(ただし、社外監査役の場合には、「許容される業務執行」を議論するよりも、「監査権(是正権)の行使に含まれる職務」として議論するほうが適切かもしれません)。

おそらく、今後は社外取締役の特定受託行為については「活動の概要」や「期待される役割」として事業報告や参考書類で開示されることになるでしょうから、社外取締役への評価項目としても有益に活用される可能性があります。いずれにしても、「社外役員に許容される業務執行の範囲」の問題への正答は、依然会社法2条の解釈に委ねられているところがあり、改正会社法348条の2の新設だけで解決するわけではありませんが、各会社において、「何を社外役員に期待するのか」を明確にする議論が活性化する要因になることは間違いないと思います。

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