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2021年4月 5日 (月)

企業統治改革が進む中で、「社長レース」に敗れた方の処遇はどうなるのか?

先週金曜日のエントリー「監査機関の一元的統合に関する課題にどう答えるか?」にはコメントやメールを多数いただきまして、どうもありがとうございました(リモートでフォローアップ会議を公聴されている方もおられるのですね)。監査役制度や内部監査の在り方など、様々なご意見をお持ちの方が多いことをあらためて知りました。

ところで、週末に、当ブログのエントリーをお読みになった某経営コンサルタント会社の社長さんや人材開発会社の社長さんとお話しする機会がありまして、たいへんおもしろいお話を拝聴いたしました。監査役制度を廃止して監査等委員会や監査委員会に統合することはマズい、そもそも統合は無理ではないか・・・といった意見をお持ちでした。

「監査役は社長レースに敗れた人たちの最適なポジションである」「山口先生のブログで『監査役制度の統合』が検討されていたが、実務的にはナンセンス」「有望な人材による社長レースが繰り広げられ、最終的に敗れた役員は常勤監査役として待遇面で厚遇しつつ、議決権を持たない立場であれば最も波風が立たない」「敗れたほうの候補者を支援してきた優秀な幹部候補が会社を辞めずに済むことにもつながる」「プロ経営者の市場があれば別だが、日本企業の場合には監査役制度が緩衝材として活用されるのはやむをえない」とのこと。

「監査役の任期4年には意味がある、任期途中で退任してもらう、といった考え方は問題だ」「取締役会改革が進む中で、監査役は妥当性監査も当然に行うべきであり、監査報告を活用すべきである」といった意見を私が述べますと、上記のような答えが次々と返ってきました。うむむむ、なるほど。。。

上記経営コンサルタントの方のお話では「最近は資源の最適配分ということで、グループ会社の統合、切り出し等も推奨されているようだが、グループ会社のトップについても監査役制度と同じ役割を担っている」「優秀な人材に競わせて、最終的にトップになれなかった人を厚遇して『会社の敵を作らない』ためには『グループ全体の業績にそれほど影響を及ぼさないグループ会社』の存在は必要。人材流出を防ぎ、社内外における人的ネットワークを失わず、社内融和を図ることはまさに守りのガバナンスとして必須」「おそらく経営者OBの独立社外取締役が指名委員会の委員であれば、そのあたりの組織力学はよくわきまえているだろう」とのことでした。

上記経営コンサルタントの方は、大きな会社のガバナンス構築に長年関わっておられるので、そのような意見をお持ちなのかもしれません。ただ、たしかにサクセッションプランが策定されたり、指名委員会・報酬委員会が設置されることが増えるとなると、早い時期から次期社長候補者を選定することになります。その際、敗れた候補者に対しては、会社はどのような待遇で臨むのでしょうか。これまで会長、相談役といった方に事実上の社長指名権限が残っていた時代であれば上記経営コンサルタントの方のような考え方も妥当していたと思うのですが、ぜひガバナンス改革に熱心な企業、とりわけ社外取締役さん方が社長の選解任の中心的役割を果たしておられる会社の対応方針については知っておきたいところです。

なお(上記のお話とも関連しますが)「守りのガバナンス」という意味では、社長と意見が対立した社外取締役として、「辞任」という選択肢をとることに躊躇しない人もいらっしゃいますが、「攻めのガバナンス」という意味では、社長と意見を対立させる勇気のある社外取締役っていらっしゃるのでしょうか?とくに社外取締役が2名以下の場合であれば、「とりあえず反対意見を述べておく」で済むかもしれませんが、今後は3分の1とか3名以上の社外取締役が役員会の構成員になるわけで、そうなりますと社外取締役の意思決定が会社の業務執行を決定する可能性が高まるわけですよね。

6月に施行されるガバナンス・コード2021を実施するためには、まだ1000人ほどの社外取締役が不足していると報じられていますが、「攻めのガバナンス」つまり健全なリスクテイクを決断する場面で、(報酬1000万円をもらえる地位を捨てる覚悟で)本気で社長と異なる意見を述べることができる人って、どのくらいいるのか・・・。あまりそのあたりって、議論されていないような気がいたします。

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コメント

(コロナ禍以前の回顧…)
日産自動車の社長だったカルロス・ゴーンという、(一時的にも)国内基幹産業の中心的人物でもあった氏は、例の騒動で国外逃亡となりましたが、「社長レース」視点とするなら、氏は結果的に勝者だった?それとも敗者?
(出遅れているとの指摘の高まる、国内における電気自動車展開…そのかつての牽引者の功罪)
かつて(2018年頃)金商法違反事件として、山口先生も多数のエントリーを発信されてましたし、私や、他の皆様のコメントも…バックナンバーを読み直すと、うっすら懐かしさがよぎります。

先月:3月28日付の日経紙一面/トップでは、「EV充電器 足踏み」という見出しで、電気自動車本体の性能より、ガス欠ならぬ「電欠」不安の現状がまとめられています。クルマ個体の性能差ではなく、国内の充電設備インフラの遅延による、脱炭素社会構築の足がかりが乏しい状態を危惧した記事を一読すると、2021年=令和3年の今、週刊エコノミストという経済誌が「トヨタの行方」と題して、再生エネルギー主体の実験都市を着工する特集記事を展開する流れの背景にあるものは何か…?(山口先生:企業が頼みたい弁護士13選の号)。

外国人登用という選択肢で、奈落の底:一歩手前だった当時の日産社を「V字回復」させた功労者でしたが、仮に、日産社の社長レースに便乗せず、トヨタ社の1プロジェクトとして、(社会実験の枠で)EVモビリティ構想(仮称)の責任を担っていたとしたら、ゴーン氏は今も「勝者」の一人として盤石な人生を歩んでいたかも知れません。

(ゴーン氏は自分自身を、「敗者」と思っているでしょうか・・・?)

そもそも、社長レースは何の為にしているのでしょう?
社長と言う肩書きに就任する事が、人生の最終目標なのでしょうか。
山口先生の本エントリーを一読後、今回もとても意味深い内容と思いつつ、いわゆる「敗者復活」の可能性を、ビジネス法務の下で、どのように社会形成して行くのかという課題提起の様に感じました。
加えて、そこに一案としての監査役というポジション…かと。
山口先生の唱える監査役及び社外取締役論に加え…で恐縮僭越ながら、コロナ禍:世の中全体が迷走中の昨今/今後〜における監査役という職務には、有能な人材の流出防止的処遇に加え、(荒波を乗り越える船舶における)「羅針盤」的存在が求められていると思っています。
監査役こそ、社会の時流の先を読んで、「良質な社長レース」のバックアップ機能を担い、豊かな社会形成の礎となるべき「真のGDP」へと導く高精度な羅針盤であるべきかと。
「アフターコロナ」を見据えた社会構築を本気で行うのなら、そこには一種「ムラ社会」的な慣習や、学閥を軸としてきた社長レース(=出世レース)という低レベルな条件等に固執している段階ではないと思うのは私だけでしょうか。

「社長レース」の真骨頂の一つとして、(良好的に)社史及び人類史に残る様な後継者選びも重責では?
それぞれの組織における「社史」にどのような名を残したいのか?
自分の在籍期間だけ、高い報酬を得る為だけの重役等経営層の存在/末路は悲惨だし(そもそも要らないし)、そんな体制が(現存しているとしても)長続きしない様にする事こそ、今を生きる我々が構築するべき「ガバナンス・コード」ではないでしょうか。
・・・誤解を恐れずに申し上げれば、私は、様々な重責を担うポストの報酬は高額であるべきと考えます。
ただし、その報酬の全てを、私欲に留めるのではなく、真の豊かな次世代構築の為に「還元」する実行性が伴うか…かと。

(「競」の文字に想う・・・)
昨日、かつては不治の病と称されていた白血病発症からの「V字回復」的なレース結果報道に触れ、二十歳そこそこの若き:乙女スイマーから、人生の原点回帰的な姿勢を学んだ心境になっています。
(もし、彼女が病床から回復出来ていなければ、世の中の多くの人は、「病に敗れた」と評していたかもしれません。)
同じ病み上がり経験者として、私なぞは、彼女の持つマンパワーの足下にも及びませんが、社長レースに現在進行形で邁進されていらっしゃる、世の健康な方々には、ご自身の恵まれた環境にあぐらをかくことなく、「令和の名将」と賛美される様、(その競争行程においても)世の中が求めているインテグリティを貫いて頂き、文字通りのリーダーシップを発揮して頂きたいと思っています。

「(健康面を含め)勝った負けたは時の運」として片付けるのは乱暴とはわかりつつ、形式上での、社長レース敗者となったとしたら…周囲の配慮もさることながら、本人自身が悔いのないビジネス生活をし、部下や近親者からどれだけ惜しまれて退任するか…とも思います。
これまで社長の椅子とは無縁だった、病気回復者の戯れ言的で恐縮です・・・。

投稿: にこらうす | 2021年4月 5日 (月) 12時43分

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