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2021年4月12日 (月)

再生可能エネルギーの活用は本当にESG経営と言えるのか?

スマートジャパンの4月7日付けニュース記事によりますと、国立環境研究所の全国調査の結果が公表され、太陽光発電で失われた土地で最も多かったのが「里山」だった、とのこと。つまり、この調査結果からしますと、日本において太陽光発電を推進するとなると、一方において環境破壊が進む可能性がある、ということになりそうです。すでに海外では海洋での太陽光発電技術も進んでいるようですが、日本では「塩害」のために海洋付近ではむずかしいとされており、そうなりますと今後は「里山」を切り開いてでもエネルギーの転換を進めざるを得ないのでしょうか。それならそれで環境破壊への対応も併せて検討しなければサステナブルとは言えないように思います。

最近、個別企業の統合報告書等において、自社のカーボンニュートラルへの取組みとして、再生可能エネルギーへの転換を謳う企業が増えていますが、それはクリーンエネルギーへの転換のためであれば環境破壊もやむをえない、というメッセージになりはしないでしょうか。もし再生可能エネルギーを活用するのであれば「それはどこで作られた再生可能エネルギーなのか」という点で活用するエネルギーの価値も変わるのではないかと。

4月11日の時事通信ニュースでは、ユニクロのフランス法人がNPO法人から刑事告発を受けたことが報じられていますが(中国・新疆ウイグル自治区での人権問題をめぐり、ウイグル族を支援するフランスのNGOなどは9日、少数民族の強制労働で恩恵を受けているとして、人道に対する罪の隠匿の疑いで「ユニクロ」の仏法人を含む衣料・靴大手4社をパリの裁判所に告発したと明らかにした、というもの)、これまでは本件に関するファーストリテイリングCEOの会見での対応のように「政治的は意見についてはノーコメント」でよかったのかもしれません。

しかし、これだけESG経営への前向きな姿勢が海外から注目を集めるようになると、「ノーコメントは問題解決に消極的な姿勢」と推定され、消費者やNPO団体から厳しい指摘を受けます。私個人の考え方としては、ノーコメントを貫くことも日本企業の戦略として妥当ではないか(経済安保の情勢のなかで、そもそも簡単に結論を出すべき問題ではない)と思いますが、昨年12月、こちらのエントリー「ESGへの取り組みは加点主義なのか、減点主義なのか?」でも、花王の社長さんの発言をご紹介しましたが、ESGへの前向きな取り組みは、一方において新たな人権侵害や環境破壊の要因となることを認識すべきです。そのバランスをどう調整していくか、というところまでの取り組みが必要ではないでしょうか。

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コメント

(ビジネス的「里山」考察で恐縮ですが…)

国立公害研究所を前身に持ち、21世紀の人類が直面する6つの重要な環境問題を掲げる国立環境研究所での、里山という二文字の取り扱いは、想像ながら「流域圏の環境管理」「生物多様性」の中での政策課題と思われます。
国連が定めた国際生物多様性年だった10年ほど前には、環境省と国連大学高等研究所が「SATOYAMAイニシアティブ」も提言されていました。
しかし、かつて地方では当たり前だった山林河川での営みも、住人の高齢化や後継者不足で維持が難しく、耕作放棄地問題に歯止めがかからない…という背景等が、手っ取り早く生活の糧を稼ぐ選択肢として、太陽光発電ビジネスの類が勢力を伸ばして来た理由の一つかも知れません。
再生可能エネルギーの代名詞の一つ:太陽光発電自体が悪いのではなく、現行のビジネス制度の下で山間地での展開をしている事業者の一部が、山口先生の本エントリーに記されている…という可能性もあるのではないでしょうか。

(所有しているだけの)放置山林などの維持に手を焼いている事に追い打ちをかけるかの如く、売電などのメリットになるというセールストークに、世情に疎い(?)地方の高齢者が太陽光発電に(安易に?)着手するという構図であれば、むしろ、その流れを修正する責務が、国立/行政の各窓口にあるのではないでしょうか。

太陽光発電等に無縁だった頃には、国内にはゴルフ場開発が乱立し、芝生はじめコース管理には大量の化学合成農薬が投入されました。
水源に近い山間地でのゴルフ場展開は、直下土壌〜中下流〜海洋への水質汚染に至り、様々な生態系負担と、農林水産業に影響を与えて来ました。
それらに比べれば、太陽光発電それ自体はサスティナブルと言えるのではないでしょうか。
要するに、どんな立場の事業者が、どんな想いで再生可能ビジネスを展開するかがポイントで、NGOやNPOから注意指摘を受ける事なく、正々堂々と展開すれば、結果的にESG投資の好循環の一つになると思います。

投資家の「ESG投資」に応えると言う事は、それに携わる事業者が、いかに次世代へのお手本的な、環境配慮モチベーションを、有言実行的に展開するか…だと思います。ESG事業への投資は、同時に「環境配慮に長けたマンパワー」への投資でもあるべきかと。

(企業は人なり:新緑の季節となり、「グリーン」が映える中で、有望な人材を育てる事を考える…)

トヨタ社の展開するブランドの一つ:レクサスの「L」のロゴを上着の胸に付けた29歳の若者が、異国の地=オーガスタという大舞台で、日本人初の栄冠を獲得しましが、それはトヨタ社が、松山英樹と言う人物に投資をした結果の一つではないでしょうか。
(投資先が法人なのか個人なのかは様々ですが)今回の偉業に対するトヨタ社:ブランドイメージは、金銭費用対効果という言葉以上の投資効果を得ていると思っています。(今後は本業の、自動車事業でも、欧米各社の脱炭素化に、追いつき追い越せ…かと)
それを感じ取ってか…優勝インタビューで松山選手は、応援(投資)してくれた人達に最高の成果で応え礼に尽くし、更に、次に続く子供達へのメッセージも発していました。
オーガスタの地で恒例の「グリーンジャケット」伝授式が今年もありましたが、来年は松山選手が、それを引き継ぐ事になります。
国内の企業・組織の今後においては、個々の良きインテグリティな伝統に併せた、「グリーンジャケット」的なサステナブル経営を…と、現職の経営者層と監査役には、求められているのではないでしょうか。
(僭越/恐縮ですが…)
山口先生の唱える、(現状を憂う)デメリット要因との調整及びバランスの必要性に加え、「ESG的マンパワー」の更なる醸成が、国内各社のサステナブル経営には不可欠かと、思っています・・・。

投稿: にこらうす | 2021年4月12日 (月) 16時32分

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