東芝は経産省と良好な関係を維持できるのだろうか?-一連の報道から考える
CVCによる買収提案から1週間が経過した4月14日、東芝では臨時取締役会の開催を前にCEOが辞任の意向を示したことが報じられました。4月8日のエントリー「CVC、東芝へ買収提案-なぜ初期提案の情報が洩れる( *´艸`)?」で述べたように、やはりCVCの買収提案にはストーリーがあったようです。ただ、東芝社内において指名委員会が幹部社員によるCEO信任調査を継続していた事実や、今年に入って経営陣の間でCEO信任について対立があった、という事実は全く知りませんでした。
文春オンライン、ロイター通信をはじめ、多くの報道内容から、素人なりに一番真相に近い記事を掲載しているのは毎日新聞の「東芝社長、電撃辞任の裏側 買収もくろむファンド、その視線の先」だと考えております(有料記事かもしれませんが)。現時点で全体像を把握するには、この毎日新聞の記事をお読みになるのがよろしいかと。上記エントリーにて、私は4月7日の日経スクープ記事を「胸のすくような記事」と申しましたが、ホント、取締役会議長を務める社外取締役さんは、当該記事を読んで激怒したでしょうね。
辞任された元CEOの方と経産省には太いパイプがあることもストーリー通りで、経産省サイドとしては元CEOによるストーリーを支援していたのではないかと想像します。外為法規制への審査、(ファンドの保有株式次第ですが)海外諸国における競争法上の審査など、内外の規制当局との交渉はハードルが高いはずで、外資ファンドによる買収を進めるにはどうしても経産省の力が必要なはずです。経済安保体制が高まる中、東芝メモリが売却された2018年当時とは競争法上の審査の厳しさも変化しているように思います。元CEO辞任劇をみておりますと、社外取締役を中心としたガバナンスが機能した事例のようにもみえますが、どうしても東芝が国益と深く関わる企業であるがゆえに経産省との信頼関係抜きには非公開化はうまくいかない、というのが現実の見方ではないでしょうか。
さて、そうなりますと東芝の元社長さんがCEOに復帰されるとしても、経産省との関係はどうなるのだろう・・・という点がポイントになるように思います。2017年当時、東芝メモリ(現キオクシア)の売却先を決定するにあたり、経産省と当時の東芝経営陣との間で揉め事はあったのか、なかったのか・・・。おそらく今後のメディア報道は復帰した社長さんと既存株主との信頼関係の構築に焦点をあてるものと思いますが、私はむしろ当該社長さんをはじめとした東芝経営陣と経産省との信頼関係の構築に焦点をあてて今後の展開に注目しておきます。
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コメント
(ある、5つの条項に考えさせられています…)
第1条
原子力利用は社会の信頼の上で、はじめて成り立つ。そのため我々は、絶えず最高の安全確保レベルを目指さなくてはならない。一人ひとりが安全確保の重要な役割を担っているとの意識をもって努力し、たとえ判断に迷うような状況においても安全確保を第一とし、安全実績を積み重ねていくことが何よりも重要である。
第2条
われわれは、過去の失敗事例に謙虚に学び、安全対策の徹底をはかることが必要である。このためには、安全に関する情報の透明性を高め、産業間・企業間の垣根を越えて、関連する情報の共有化をはからなければならない。
第3条
われわれは、安全の原点が現場にある事を認識し、緊張感をもって業務にあたり、安全に対する感受性を高め、不安全を感じ、疑問を抱いた時は、抵抗なく管理者に報告し合う事ができる風通しのよい職場環境、現場をつくり上げなくてはならない。
第4条
われわれは、「過信・思い上がりは事故のもと」と認識し、常に立ち止まって考え、自ら問いかける習慣を根づかせ、組織や現場の安全意識の劣化の兆しに早く気づき、その芽を摘み取ることが重要である。
第5条
われわれは、社会のさまざまな視点からの意見を聞き、誠意をもってこれに対応する。透明性ある組織運営によって安全意識はより一層定着していくことから、たとえ自らに不都合な情報であっても、事実に基づいたわかりやすい情報をタイムリーに発信することにつとめる。
…と、あります。
しかし、この5つの条項が(業界団体の表明であれ)運営電力会社にきちんと浸透遵守されていれば、(先日報道された)柏崎刈羽原発内のテロ対策不備で「運転禁止」命令 が東京電力社に下される事はなかった筈です。
又、(別の報道での)たとえ基準値レベルに薄めるとしても、(他国の原発も行っている)海洋への汚染水放出発表に対する世論や、漁業関係者からの強い反発なども抑制出来た筈です。
「フクシマ」における、東芝社の関与が、現在どこにどれだけ存在しているか?の詳細までは存じませんが、原子力発電所を所有する電力会社の使命責務は、同時に原発に携わる東芝社にも存在する使命責務…の筈です。
東芝社は創業当初からの民間企業でありながら、「原発廃炉技術」「量子暗号通信」という国家の安全を担う規模の高等技術を持つとされています。
ただ、それはあくまで、廃炉においては東芝プラントシステム社が「シームベルカンプNISインジュニアゲゼルシャフト社(ドイツ)」、
量子暗号通信においては「ブリティッシュテレコム(イギリス)」及び「ベライゾン・コミュニケーション(アメリカ)」等と提携して成立する事業…かと。
それぞれ、東芝という名の下の企業ノウハウ/特許の類が存在しているのも事実でしょうから、今回のCVC社が触手…という経緯背景と思われます。
山口先生が提起されている(懸念?)経産省との良好な関係の面では、東芝という会社のグループ全体としての強みと、海外企業との提携なくしては国家的責務を果たせないという重圧もあるのも事実かと。
近代社会形成上、ある種の「企業と国家がタッグを組む」形が不可欠という宿命を担っている…かと。
(現世のビジネスでは、「買収がすべて」…なのでしょうか?)
部分的考察で恐縮ですが、株主比率による決定権の移動に翻弄されるという点から免れる視点だけなら、株式上場せず=非上場という選択肢もあるのかも知れません。
近代国家の半永久的な安定を、政府や省庁だけで賄えないから、民間企業のエンジニアリングや所有特許に頼っている訳で、「辞任された元CEO」と経産省間の太いパイプも必須的だったかも知れません。
しかし、二重三重のチェック機能をウリにしてきた「原子力安全神話」が、実は、トリチウム:汚染水の処理一つとっても、地元の漁師の信頼すら十分に得られていないのですから、現時点で乗り越える壁の高さも並大抵ではない…かと。
冒頭に記した5つの条項は、「原子力産業安全憲章」として「フクシマ」が発生する数年前に、当時の社団法人:日本原子力産業協会が表明した文面です。そして…その本文の前/序文の一節には下記の表記もあります。
(・・・われわれ原子力産業に携わる者は、何よりも「安全」を基盤とし、公正、公明かつ誠実に活動する事が求められている。
また、重要な使命を担う者としての誇りと責任感を持ち、日々の実践を通じて、原子力に対する社会の不安感を払拭し信頼感を醸成し、安心を得るために真摯に取り組む必要がある・・・)
この一節は、JAPANという国家と、その国の主軸的安全を担う一企業に留まらず、(原子力関連に留まらず)東芝社を含め不祥事報道で新聞紙面が溢れんばかりの日々における、オトナ社会の、(「子ども庁創設」を控えるこの時期の)広義のサステナブル的原点回帰なビジネスと、(同等若しくはそれ以上の)法整備の在り方を問われている…のではと、思っています・・・。
長文、恐縮です。
投稿: にこらうす | 2021年4月15日 (木) 09時44分