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2021年4月13日 (火)

東芝のバイアウト戦略(?)こそガバナンス・コードの趣旨を実現したものでは?

(4月13日午前 追記)

会社法規則の内容まで織り込んだ改訂版の会社法関連書籍も、いよいよ4月22日の江頭憲治郎「株式会社法(第8版)」の発売でほぼ一巡の様子となりますね。会社法の改正では日本の会社は変わらない(法律時報86巻11号65頁)、コーポレートガバナンス・コードが「攻めのガバナンス」に資するなど、諸外国でも聞いたことがない(「コーポレート・ガバナンスの目的と手法」早稲田法学92巻1号95頁)と、近時の企業統治法制について厳しい意見を述べておられる江頭先生が、令和元年改正会社法およびコーポレートガバナンス・コート再改訂版の施行を念頭に、どのような改訂版を出されるのか、たいへん興味があります。

さて、上記ご論文「コーポレート・ガバナンスの目的と手法」(2016年)の中で、江頭先生はコードによって要請されているような事項の遵守は、上場会社の資本コストを下げる(エージェンシーコストを下げる)ことには役に立つかもしれないが、そもそも「攻めのガバナンス」つまり持続的な成長(中長期的な企業価値の向上)には役に立たない、と指摘しておられます。「いやいや、独立社外取締役が増えることでCEOの選解任に社外取締役がボードの主導権を握り『攻めのガバナンス』は実現できるではないか」との意見もあるかもしれません。しかし江頭先生は「もちろん社外取締役が外からCEOを連れてこれるなら別だが、そこまでできる社外取締役などおそらく存在しないだろう」と看破しておられます(ホント、その通りかと)。

そのうえで、コードには要請されていないものの、もしコーポレートガバナンス・コードの趣旨(中長期的企業価値の向上、攻めのガバナンス)を実現させるコーポレートガバナンスの手法があるとすれば、それは「バイアウトファンドによる買収」以外にはないとおっしゃっています(同上114頁)。-バイアウト・ファンドによる買収は、経営者によるリスクテイクを容易にし、経営者・従業員の生産性を向上させると主張されているが、そうであるならば、当該手法はまさに「会社の持続的な成長」をもたらすコーポレートガバナンスの手法といえよう、とのこと。

いままさに東芝は、アクティビストファンドの大株主によって経営判断の一部を握られ、もはや資本コストを低減させることがむずかしい状況にあります。そうなると、CVCによる買収こそ、東芝に残された唯一の企業価値向上のための手法ではないか、という理屈も成り立ちそうです。もちろん、これは理屈、理論の世界の話であって、私の個人的な意見としては、前のエントリーでも述べたように、すでに官民で(日経さんも含めて?)ストーリーが出来上がっているのではないかと推測いたします(なお、私は当該ストーリーについては賛否はとくに表明しておりません)。そして上記の理屈が当該ストーリーの正当性・合理性を担保することになりそうな気もいたします。

このような事前のストーリー作りが許されるのは、東芝が廃炉技術や解読不能な暗号技術など、国益に関わる有形無形の資産を保有する「特別な会社」だからであります。重大な経営判断に至るプロセスの透明性、公正性が要求されることは当然であり、社外取締役の方々を中心とした議論が必要ですが、けっして「社外取締役が中心となって議論したこと」が、上記ストーリーのお墨付きを与えたことにならないように、それぞれの社外取締役の個人的な意見も外からわかるような工夫が必要かと思います。

4月13日午前 追記:朝日新聞朝刊(13日)によると、東芝は社外取締役や法律・会計の専門家を含めた特別調査委員会を設置する方針を固めたそうです。ぜひ調査委員会の活動内容についても明らかにしていただきたいですね。

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コメント

アクティビスト株主は短期のリターンしか考えていないので(だからこそレピュテーション暴落と債務超過でアップアップの東芝株を大量に買うという火中の栗を拾った)、それらを一掃して、長期投資家であろうファンドの元で再建を図るのは、ある意味当然の行動なんですが、なぜか東芝の経営者は上場維持にこだわっていますね。
無論、上場企業は親がいないから気楽ですが、煩いアクティビストよりは、戦略が合致するファンドに適切な株価で買ってもらったほうが他の株主にも、役職員にも、他のステークホルダーにも良い結果をもたらすと思いますが(少なくとも米国会社の取締役はそう考えるでしょう)。

投稿: 通りすがりの監査役 | 2021年4月27日 (火) 16時08分

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