東洋紡・品質不正事件-出荷先の不適切受領に光をあてた記事
4月16日の日経クロステック「東洋紡、4度の隠ぺい 報告できなかった品質不正」を読みました(有料記事)。自動車部品用に東洋紡が製造している樹脂(プラナック)製品が、チャンピョン品(米国認証機関における試験用に別途製作した製品)で試験をクリアしながら、性能の異なる販売用製品を出荷していた事例でありまして、米国認証機関の抜き打ち検査で発覚したようです。未だ調査は続いているようですが、昨年末の社内調査の内容をとりあげた記事の内容がなかなか興味深い。
東洋紡は2020年10月、米国の第三者機関による認証試験に、実際の商品よりも燃えにくいサンプルを提出する不正があったと発表しておりました。同社が昨年12月に公表した調査結果によりますと、プラナック事業は2010年3月末に印刷用インク大手のDICから譲り受けたのですが、譲渡前の交渉で東洋紡の担当事業部の責任者はDICの認証不正を認識したにもかかわらず、上層部に報告しないまま不正を続けた(不正を引き継いだ)とのこと。東洋紡は、代替品の開発を断念した20年に入って経営幹部に報告され、DICから引き継いだ不正事実が発覚したそうです。
東洋紡より昨年末に公表されたのは調査概要でありますが、品質偽装品を受領した側が「偽装であること」を知りながら受領してしまったことに言及しているところに関心が向きます。上記日経クロステックの記事によれば、出荷元であるDIC社が性能偽装によって認証を受けていたことを東洋紡の担当者はデューデリジェンスによって認識していたにもかかわらず、これを経営陣に報告せずにそのまま製品を受領し、その後は不正を引き継いでしまったそうです。クロステックの記者は「その場でDICに不正事実を告げて、取引を有利に進めればよいだけの話なのに、なぜ経営陣に不正事実を報告できなかったのか」と疑問を抱いています。
なお、調査報告では「おそらく製品を受領する担当者のリスク感覚が希薄だったことが原因」と分析しているようです。たしかに要求基準に満たない品質が判明した場合には(まだ品質偽装事件が頻発していない時期であれば)「この程度なら問題ないか」といった意識だったかもしれませんが、さすがに性能偽装によって米国規格を通した、という場合にまで「リスク感覚が希薄だった」といった分析では済まないように思われます。なぜ問題を認識しながら報告できなかったのか、という点の深堀は私も必要だと考えます。
これまで多くの日本企業において「品質偽装事件」が発覚していますが、出荷する側の問題だけでなく、偽装製品を受け取る側の問題に光をあてた記事は初めてではないでしょうか。当ブログにおいては2017年10月18日付け「神鋼品質データ事件の責任は神鋼だけが負うべきなのか?」、2018年4月3日付け「グループ管理、サプライチェーンにこそ不祥事の『根本原因』があると考える」等で何度も申し上げているように、品質偽装事件は不正を行った企業だけの問題ではないと考えております。偽装製品を受領する側においても、偽装を知りながら受領せざるを得ない事情があり、その事情にこそ光をあてなければ日本企業の品質偽装事件はなくなりません。
近時発覚した小林化工の薬剤混入事件でも社長さんの弁明に出てきましたが「納期を守れず、サプライチェーンを構成する他社に迷惑をかけるくらいなら法令違反や社内ルール違反もやむなし」「効率的な経営を最優先する企業風土があった」という理由は、社内でコンプライアンス違反を正当化してしまうのでしょうか。東洋紡のように、自社の技術が高まれば高まるほど、他社の不正にも気づきやすくなるのですが、サプライチェーン全体の納期を遅延させるくらいなら、他社の不正を許してしまおうと考える、その根本要因はどこにあるのか?それは諸々考えられるところですが、不正競争防止法違反や独禁法違反、景表法違反事件などを本気で防止するためには、他社との協働作業を通じて不正を根絶する取組みが、そろそろ必要になるのではないかと。
| 固定リンク
コメント
顧客/取引先を満足させる(正しい物を作れる、高度な技術を持ちながら)業務の流れが、いつのまにか逸脱している…外観では(粗悪品と)判りにくい製品なら尚の事…なのでしょう。その背景の一つに、製造コストの軽減=儲けを生む要素という構図若しくは手間を省きたい誘惑などが上げられる…が、山口先生の本エントリーの中で語られている「病巣」の様に感じています。
(某、新型コロナウィルスのワクチンも、特効薬ではない事を逆手に取っての、(効能を満たしていなくても)「とにかく、出荷しろ!」という声が、某国某社/製薬会社の現場から聞こえて来そうです)
小林化工社の社長弁明:「納期を守れず、サプライチェーンを構成する他社に迷惑をかけるくらいなら法令違反や社内ルール違反もやむなし」を、仮にプロ野球における投手=打者の頭部への危険球や、オーガスタでの競技中にインチキによるスコアアップ…等を繰り返したら、サッカーにおける「レッドカード(退場!)」でしょう。
先日、図書館で目にした「13歳からの道徳教科書(道徳教育をすすめる有識者の会)」の改訂版が出るとしたら、未来永劫登場しない(出来ない?)様なビジネス展開を展開する企業群、それを淘汰出来ない国内のビジネス法務って、一体なんなのでしょう?と、物心がつき始める若年層に胸を張れない現世が、本来なら「否」日常なのに、日常(=GDP)と化している…。
接種予約をした市民が、キャンセルした事によるコロナワクチンの廃棄という報道に、多くの人が「もったいない」と感じたでしょうが、インチキが判明したら自らの値打ちが急落する事の方が、よっぽど勿体ないと思いますけど…。
ものづくりビジネスの上で、サンプル提出の段階で「これを量産したら、とてもじゃないが採算は合わない/本業の利益を食いつぶす」と思っていても、取引先の要望を一時的に満たさないと、業績にカウントされない=給料も上がらない=株主を有価証券報告書上で満足させられない…というのがJAPANの大方の現実であれば、「なんちゃって国産ワクチン」の類が出回っても(接種券が届いても)喜べないどころか、怖い…です。
けれど、「中身」はどうあれ、うわべだけの良品出荷による経済効果でも、売上増加〜財務上の利益〜納税すればそれでよしと、某省が黙認しているのなら、不正/偽装という猛火の火消しに翻弄されている別の某省なんて「やってられないわ!」と、職場のやる気減衰や、公務員のなり手希薄の起因を誘発している(?)かも。
世界のコロナウィルス感染者の国別発症数値にも、依然として、経済大国の名が上位に連なり、パレート分析がここでも成り立っていますが、そこに日本の2文字は含まれず「感染者数小(少)国」です。真偽はともかく「感染者数値偽装」と疑問視されているのが、欧米諸国のコロナワクチン製薬会社のCEO氏達の「東洋の島国評価」であれば、(国内における小規模自治体の如く)いつまでたっても希望するワクチン数が輸入される筈もないかもしれません。
コロナウィルスの事を時節の挨拶に盛り込まないと、今の世の中のビジネス文書で通らない(?)プチ心境で恐縮ですが、ビジネスにおける「インテグリティ先進国」を上場企業の経営者層が本気で唱え実践する事が、結果的に、脱炭素社会構築の早道であり、正しい株主が真に求めるリターンを提供する王道的ではないかと、思っています・・・。
投稿: にこらうす | 2021年4月20日 (火) 06時29分
「羊頭狗肉」を売る者がいて、それを承知で買う者がいる。古い例ですが、2007年の東洋ゴム工業(現 TOYO TIRES)断熱パネル事案を思い出しました。
イタリアからの技術導入に失敗したことを糊塗するために、担当事業部が採った策が、国交大臣認定の不正取得でした。この場合、イタリアの技術自体は正常なものだったようですが、それが日本の建築基準に適合していないことに気づかないまま、導入を決めてしまった。
一連の不正が発覚してから8年後の2015年に、免震ゴムの不正が発覚。再発防止策失敗のお手本、のような事例ですが。羊頭狗肉文化は根強いと、想定すべきでしょう。
投稿: コンプライ堂 | 2021年4月20日 (火) 09時24分