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2021年4月 2日 (金)

監査機関の一元的統合に関する課題にどう答えるか?

昨日(3月31日)、金融庁のHPにて、3年ぶりの改訂となるコーポレートガバナンス・コード改訂(案)が公表されました。日経や読売の事前報道でほぼ全容を知っておりましたので、内容は予想どおりでした。

ただ、よく存じ上げている方からメールでいただいた意見(感想)として「フォローアップ会議では3つの統治機構を一元化するべしとの意見が何人かの意見から出ました。方向としては委員会設置に向かうと思いますが・・・」といったコメントが気になりました(私は審議経過について、あまり知りませんでした)。監査役制度に関するフォローアップ会議での議論がかなり薄かったことは理解しておりますが、監査役制度はもはや不要(会社法上の機関形態を指名委員会等設置会社に一本化して監査委員会制度に移行すべき)、という方向性なのでしょうか。

もし機関投資家からみて「監査役制度」に魅力がないのであれば、広い意味で(会社法の理屈は抜きにして)監査役も取締役会の監督機能を担う一環として捉えて、取締役会の多様性の構成要素として説明する工夫をしてみてはいかがでしょうか。月刊監査役4月号では、MHM法律事務所のM先生が「監査役とスキル・マトリックス」なる論稿で、監査役も(新たなガバナンス・コードで開示が要請されている)スキル・マトリックスの対象とすべきか、といった問題提起をされていますが、ぜひガバナンス・コードへの対応として、常勤、社外を問わず監査役の特性(属性)についても積極的に開示すべきと考えます。

また改訂ガバナンス・コードでは、取締役や監査役の情報入手の重要性との関係で「内部監査部門の充実」に光が当たっていますが、なぜ監査役専属スタッフの活用については記載がないのでしょうか。キャリアパスの一環として監査役室に専属勤務するスタッフの存在は、監査役制度の実効性を高めます。たとえば私が社外監査役を務める会社では、現在4名の監査役会専属スタッフが在籍していますが、そこから見える監査役の役割は明らかに(内部監査部門と連携する監査役の役割とは)異なります。そのようなガバナンスの状況が開示されないことは、投資家にとってはとても「もったいない」と思います。

社外取締役に経営者の監督機能を果たしてもらうことでエージェンシーコストをできるだけ少なくしたい、会計監査人や内部監査人が別に存在するのだから、それ以外の監査コストはできるだけ低減したい、という機関投資家の気持ちからすれば、「監査は取締役・監査委員の会合で代替できるのではないか」「情報収集は優秀な内部監査部門と連携すればよいのではないか」といった素朴な疑問が湧いてきても不思議ではないでしょう。といいますか、最近のガバナンス改革の流れからすれば、そういった意見が今後も強くなるような気がします。

しかし内部監査部門に優秀な人が集まれば集まるほど、人事評価の対象は「指導機能」であり、「保証機能(不正を探すこと)」から離れることになります(優秀な社員が集まる経営管理部が不正を全く見抜けなかったことは、東芝事件の第三者委員会報告書でも記載されていました)。監査役へのダブルレポートと言われますが、そもそも監査役が欲しい情報とCEOが欲しい情報とは当然異なるわけですから、監査役専属スタッフの収集する情報とは明らかに異なるわけです。

社外取締役が期待された役割を果たしているか、対話の際に説明する会社の業績情報に信用性があるといえるか、そういった市場に参加する競争条件に問題がないガバナンスであることを担保できるシステムとしては、年に数回開催される米国のような監査委員会ではなく、年16回程度開催される監査役会のほうが適切ではないか。そして監査役会制度のあり方は(もちろん実効性が評価されなければならないわけですが)最終的には投資家のエージェンシーコストを下げることにつながるものと考えます。

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コメント

山口先生、ご無沙汰しております。私も3/31のフォローアップ会議を視聴しましたが、統治機関の統一についての議論に熱は感じられませんでした。以前、CIA研究会で、監査役協会の監査役スタッフ役割に関する報告をベースに成果物を出しましたが、法的に監査役の業務執行(人事評価など)を明確化して、内部監査機能と監査役スタッフの機関統合を模索すべきと考えます。

投稿: qちゃん | 2021年4月 2日 (金) 14時57分

監査室との連携とは異なる監査役専属スタッフの重要性についてはご指摘の通りと思います。私も数年前までは監査役専属スタッフをしておりました。監査室はCEOに忖度し、本質に迫る情報を監査役に十分提供しないこともたびたびありました。そうした際には、社内の事情を熟知する専属スタッフからの情報と提案が監査活動に資する面が多々あったと思います。専属スタッフの活用がガバナンスコードに記載されなかったことは私も残念と思います。
生え抜きである専属スタッフは、社外監査役と会社との板挟みになり苦しいこともありましたが、社外監査役の英知から目から鱗の経験をしたことが何度もあります。専属スタッフが、監査役監査の実効性に資する面や専属スタッフ本人のキャリアパスとしての重要性が認識されることを望みます。

投稿: YA | 2021年4月 3日 (土) 12時53分

原則2-5、【内部通報】、補充原則2-5①については改訂がなく、引き続き「経営陣から独立した窓口」(社外取締役や監査役)を整備すべきであるとしています。

上場会社の社外取締役、社外監査役が実効的かつ積極的にに「公益に資する」こと、「通報者を秘匿する」「通報者を不利益から保護する」ことに精進してほしいです。

実際に本原則に沿って通報行動した結果を振り返り(思い出したくことにも向き合って)ながら、新年度にあらためてコーポレートガバナンスの推進を望みます。
山口先生、本年度もよろしくお願いします。

投稿: 試行錯誤者 | 2021年4月 4日 (日) 09時00分

指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社と異なり取締役を兼務しない独立した立場の監査役は、取締役会における議決権を有しません。自らが決議した取締役が自らの決議事項の執行状況を監督するのと異なり、監査役は、取締役の職務執行について客観的な監査が期待できることに有意があると思います。

投稿: TS | 2021年4月 4日 (日) 10時38分

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