企業監査を社会インフラにするためには「協働」が不可欠と考える
5月14日の日経朝刊の社説「リスク直視した企業監査を」を読みました。2021年3月期から金商法監査にKAM(監査上の主要な検討課題)開示が導入されることをきっかけに、リスクを向き合う企業監査の実現を目指せ、との内容です。新しい制度の導入によって、会計監査への関心が高まることはとても有意義なことで、社説においてKAMが取り上げられることは喜ばしいと思います。
ただ、2008年に施行されたJ-SOX、2014年3月期決算から採用された監査における不正リスク対応基準のときもそうでしたが「会計監査に携わる方々が頑張ることによって、より価値の高い監査制度が導入できる」と誤解されてしまうのではないかと危惧します。会計監査の品質が高まれば(それだけで)ディスクロージャー制度の向上につながる、というのは幻想にすぎないと断言します。
なぜなら、会計監査が社会インフラとしての有用性を高めるためには、(企業側:ガバナンスの向上)→(監査人、監査役等:新しい制度の運用)→(情報利用者:会計リテラシーの向上)という連鎖が不可欠だからです。とりわけガバナンス改革が進み、機関投資家と企業とのコミュニケーションが促進される現時点では、J-SOX、不正リスク対応基準が策定された頃にもまして、上記のバリューチェーンが重要になります。
ちなみに平成16年以来、いくつかの上場会社で社外役員を務めてきた当職として、「KAMが社会インフラとして有用性を高めるための必要条件」と考えているのは、①ステークホルダーがKAMを投資判断に活用することで「エージェンシーコスト」を低減できるような実務慣行が形成されること、②社長が管理会計だけでなく制度会計への関心を高めること(最低でも会計監査人から提案される「有報提出時の確認書」の中身について「なぜ、この項目について確認しなければならないのか」理解すること、③経理部門が(課税や損益について)1円でも会社に貢献する意欲を持ち、会計監査人と正々堂々と渡り合える気概と能力を持つこと、であります。
ちなみに上記②の「経営者の制度会計への関心」ですが、将来見積もりや引当金計上、費用と収益の時間的対応関係等、いずれも役員会では「正常性バイアスの塊」になっていますよね(笑)。社内で「職業的懐疑心」を持つ人が声をあげられるかどうか・・・、ここが海外企業との「経営哲学の違い」のような気もしております。
間違っても「会計上のリスクを詳細に開示することが、不正リスクの高い企業であること、損失の可能性が高い企業であることを示す」といった誤解だけは生じさせないためにも、ガバナンス×企業監査制度×投資家の会計リテラシーの三位一体でKAMの活用を図る必要があります。そうでなければ、私はJ-SOXの二の舞になってしまう(会計監査人と内部統制部門、監査役等だけの関心事、現場のルーチンワーク化、開示情報の「金太郎飴化」、内部統制の有効性に関する「後だしジャンケン開示」など)と思います。
なお、最近の会計監査の話題としては会計監査人のローテーション制度の導入問題もありますが、そちらへの当職の考え方はまた別エントリーで書かせていただきます。
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