先週に引き続き、ご恵贈いただいた書籍のご紹介第2弾でございます。この週末にご献本いただいたのですが、ぜひともご紹介したい本がこちらです。解説・改正公益通報者保護法 山本隆司・水町勇一郎・中野真・竹村知己著 弘文堂 2021年7月1日初版 3,300円税別。
公益通報者保護法の改正に携わってこられた学者・立案担当者による(まさに待望の)改正公益通報者保護法の解説書です。公益通報対応体制の整備義務が課される常用雇用者300名超の事業者においては必携の一冊といえます。ちなみに帯書きは
改正法の立案に携わった学者・弁護士による解説書-制度および改正全体を概説するほか、改正に至るまでの議論や実務上の疑問点を踏まえ、改正後の全条文を逐条解説。具体的にイメージしやすいようQ&Aも収録。行政法・労働法の議論に基づく考察を行った、公益通報者保護法を真に理解するうえでの必読書
とあります。「著者一同」の皆様からご献本いただいたのは、これまで消費者庁公益通報者保護法制の実効性検討会委員としてのお役目を務めさせていただいたことと、山本隆司先生を中心としたジュリストの座談会に登壇したことからだと推察いたします。400頁を超える解説書をパラパラとめくってみますと、おそれ多くも拙著や私の座談会発言が少なくとも10か所以上で引用されており、少しうれしい(*^-^*)・・・(どうもありがとうございます!)。
本書が「法務担当者必携」と申し上げる意味は、単に新法の逐条解説書だからではございません。ご承知の方もおられると思いますが、今回の大幅な法改正によって条文数が大幅に増えましたが、その条文には「指針」に委ねられるところがあり、さらには条文の文言があいまいな点もあり、「罪刑法定主義の視点から」条文解釈がとても運用面において重要となるからです。つまり(もちろん最終的な条文解釈権は裁判所にありますが)かなり公的な立場から逐条解説によって条文の解釈が示されている、という点が本書の特徴かと(ちなみに「指針」については、消費者庁内の指針策定検討会の報告書が公表されており、本書の各条文の解説の中で指針の解説もなされています)。
しかも、本書には「第2編 逐条解説」においてかなり詳細なQ&Aが示されています。公益通報者保護法は、内部通報制度との関係で誤解されがちな点があるために、そういった誤解しやすい点を理解するために、このQ&Aはかなり有益です。さらには公益通報者保護法を理解するために労働法の視点と行政法の視点から、それぞれ著名な先生による解説が付されているという、まさに改正法を理解するうえでは最高の構成に仕上がっております。
ちなみに、左の図は私がこの5年ほど、内部通報制度の研修の際にPPTでお示しする図です(消費者庁主催の研修でも活用しておりました)。内部通報制度と公益通報者保護法との関係理解のためには、消費者法的視点、労働法的視点、会社法的視点、行政法的視点からの考察が必須です。ご著者の皆様はこのうち、3つの視点から改正法に向き合って解説しておられるわけでして、さらに会社法的視点については田中亘先生が改正法の審議に関わっておられたので、会社法的な視点も盛り込まれた逐条解説がなされていると言っても過言ではありません。したがいまして、内部通報制度の見直し、構築についても有益な一冊といえます。
本書も通読できればベストかもしれませんが、内部通報制度の見直しの際に、必要箇所を参考にするような活用方法でもよろしいのではないかと思います。いずれにしても、本格的な改正審議に5年間携わってきた私からすると、本当に「( ;∀;)ナミダモノ」の一冊であり、(筆者ではございませんが)多くの方に手に取っていただき、自社の内部通報制度の運用や、公益通報対応業務等の体制整備に役立てていただけばと思います。
なお、最後になりますが、本書が「改正に至るまでの議論」や「今後の課題」を詳細に説明している点はとても重要です。なぜなら、法改正にあたっては衆参両議院で附帯決議が示されましたが、その中で今後3年ほどでのさらなる見直しが検討されるようで、その見直しは「改正に至る議論から最後にこぼれてしまった重要なポイント」から見直される可能性が極めて高いからです(とくに公益通報者に不利益な処分を行った事業者へのペナルティは最重要でしょう)。私が「次の法改正」を見越した内部通報制度の見直しをお勧めする理由はココにあります。