証券取引等監視委員会の使命とは?ー「市場の守り人」
現役の証券取引等監視委員会委員の方から新刊書をご恵贈いただきました。中央青山監査法人、みすず監査法人、あずさ監査法人の代表社員、理事を歴任された後、2016年12月に証券取引等監視委員会の委員に就任された浜田康氏のひさりぶりのご著書です。
市場の守り人-証券取引等監視委員会の使命(浜田康著 同文館出版 2021年6月初版 3,400円税別)。出版元による紹介文では
公正性・公平性を高め、国内の投資者、海外企業や海外投資者から信頼される証券市場に向けた監視委員会の役割とは?より強力で実効的な機関とするためには何が必要かを検討する!
監視委員会は市場の公正性・公平性を高めるために何ができるのか?どのような権限や責任があるのか、国内外の投資者、消費者から信頼を得られる市場にするために何をすべきか、米国証券取引委員会(SEC)、英国金融行為規制機構(FCA)と何が違うのか(帯書きより)
とのこと。本書は今後多くの会計実務家、研究者の皆様からきちんとした書評が各会計専門誌にて登場するはずですので、内容に関する高尚な論評は会計のご専門の方にお任せして本書の概要のみお伝えいたします。
まず、なぜ私が浜田委員からご献本いただいたのか、と申しますと「内部統制報告制度の課題」のところで私の素朴な疑問を5頁にわたって真摯にとり上げてくださっており、浜田委員が正面から私の素朴な疑問に向き合ったうえで、一定のご理解を示していただき、その結果として証券取引等監視委員会の開示検査課の新たな取り組みに活かしていただいている、ということから、と推測いたします(2013年10月17日付けの拙ブログを本文でも引用していただき、さらには「この山口弁護士の主張内容がちょっとむずかしいので」ということで解説までしていただいております)。内部統制報告制度の運用上の課題については、ここ10年ほどブログでも何度か取り上げましたが、私の意見を(たとえ浜田委員の個人的意見としても)SESCの委員の方に検討していただけた・・・というのは本当にありがたいことです。これからも会社法及び金商法上の内部統制について研究を続ける励みになりました。
さて、本書は浜田氏の「勉強ノート」ということだそうですが、さすが現役の監視委員会委員の視点から、様々な論点について「監視委員会にもっと力を!」ということで浜田氏の個人的見解が述べられています(「もっと力を!」というフレーズは本書ではとても大事です)。最初の3分の1くらいまでは、取引調査課関係ということでインサイダー取引規制の現状を、証券検査課関係ということで金融商品取引業者規制の実状を、そして開示検査課関係ということで上場会社のモニタリングの現状をそれぞれわかりやすい文章で解説されています。中盤あたりからは特別調査課の告発事案に関する考え方(虚偽記載や公正なる会計慣行が問題となる事例等について)が、過去の著名な事件を参考にしながら示されており、我々「不祥事対応」に携わる者にとても参考になりますね。「勉強ノート」という位置づけからか、各テーマとも平易な文章で書かれていますので、上場会社の管理担当者の方、会計士、弁護士等にもお勧めの一冊です。
私も過去に「法と会計の狭間に横たわる諸問題」をとりあげた本を書きましたが、まさに後半部分は(さすがSESCの委員ということで)長年会計実務に携わってこられた方からみた「法と会計の狭間の問題」を丹念に問題提起され、また浜田氏なりの見解が示されています。法人の刑事責任、金商法上の開示責任(粉飾決算)の「再度の無過失責任化」、経営者確認書の罰則条項の創設、課徴金制度の見直し、会計裁判所制度や紛議調停制度の見直し等による被害者救済の拡大等、いずれも当ブログで私も検討したことがある内容が多く含まれています(ちなみに東芝の会計不正事件を取り上げて、今後、会計監査人の意見表明がどのような影響を受けるのか、といったお話しなどは「なるほど」と納得いたしました)。長らく改正されていない「会社法における刑事罰の改正」などにも触れられており、政策提言という意味においても多いに共感できます。おそらく当ブログにお越しの皆様なら関心の高いテーマをたくさん取り扱っておられて、興味をそそられる内容です。
ところで、浜田先生のご著書といえば、このブログを書き始めた頃(2005年)から次々と愛読している3部作がありまして、左の写真のとおり、私の蔵書にはたくさんの付箋が貼ったままであり、今でも参考にさせていただいております。とりわけ中央青山の社員でいらっしゃった頃はカネボウの粉飾事件に関与した監査法人、ということで会計不正事件の真っただ中におられたわけで(2002年「不正を許さない監査」参照)、事件が現在進行形だったときに会計監査人として何を思ったのか、その文章はいまでもはっきりと記憶しております。この「不正を許さない監査」では、中央青山監査法人側で、証券取引等監視委員会による調査に向き合う立場にあった方が、いま逆に委員会側の要職に就かれて何を思うのか、そのあたりを上記「守り人」から推察できるかもしれませんね。先日ご紹介した弥永先生の「監査業務の法的考察」とともに(ようやく好きな本をじっくり読める時間がとれるようになりましたので)本書でもしっかり勉強させていただきたいと思います。
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