東芝・定時株主総会における圧力問題と行政手続法36条の3
先週金曜日(6月25日)は自身が社外取締役を務める会社の定時株主総会が開催されまして、今年も述べ5分程度は株主の方からの質問にご回答申し上げました。ご納得いただけたかどうかはわかりませんが、想定問答集に関係なく自身の思いを誠実にお話しさせていただきました。ちなみにあとひとつは6月30日です。
さて、先週まで諸々忙しかったので、遅ればせながら週末に6月10日付け東芝「会社法316条第2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書」を拝見いたしました。といっても、ざっと一読させていただいた程度ですが。さすが会社法に定める調査権限者による報告書だけあって、本当に東芝経営陣(元経営陣含む)および経産省に厳しい内容が自信をもって認定されており、とてもおもしろい内容でした。
とくに興味深いのは後半の「圧力問題」です。機関投資家の議決権行使を不当に妨げたということでありますが、もし仮に東芝は経産省に対して外為法違反に基づく権限行使を求めた、つまり行政手続法36条の3に基づく「処分等の求め」を行ったとすれば、本件ではどう評価されるのでしょうか。報告書によると、経産省担当者は東芝側に(機関投資家による要求内容等を指摘したうえで)「申入書」の提出を促した、とありますので、ひょっとすると行政手続法36条の3を念頭に動いていたのではないかと(経産省は何ら説明していないので、真相はわかりませんが・・・)
ちなみに行政手続法36条の3というのは、
第三十六条の三 何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。
2 前項の申出は、次に掲げる事項を記載した申出書を提出してしなければならない。
一 申出をする者の氏名又は名称及び住所又は居所
二 法令に違反する事実の内容
三 当該処分又は行政指導の内容
四 当該処分又は行政指導の根拠となる法令の条項
五 当該処分又は行政指導がされるべきであると思料する理由
六 その他参考となる事項
3 当該行政庁又は行政機関は、第一項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない。
という条文です。改正外為法には「是正措置に関する勧告」という「法律で定めた行政指導」に関する規定がありますので、もし外為法違反の疑いのある投資家の行動があれば、その情報を経産省に提供して適切に指導せよ、処分せよ、といった処分要求は誰でもできますよね(当然、法人である東芝も処分要求は申出書によって可能です)。また、行政手続法の解説書では、処分方針については後日要求者に対して結果を説明すべき、ともありますので、ある程度、東芝と経産省の間で隠密裏にコミュニケーションを図ることも想定された条文です(「逐条解説行政手続法」平成28年5月20日 一般財団法人行政管理研究センター編著 ぎょうせい 280頁)。本件ではこの行政手続法36条の3は適用されないのでしょうか。まあ、しかし報告書で示されたような事実が認められるとすれば(第三者を使って特定の投資家に議決権行使を思いとどまらせることを東芝と経産省で画策していた、という事実)そもそも行政手続法の適用場面ではない、ということかもしれません。ただ理屈の部分はきちんと整理しておく必要があるように思いました。
あと、昨年9月に初めて議決権への圧力問題が海外メディアで報じられてから、一部投資家によって臨時株主総会の開催請求が出される12月までの間に、東芝自身が(もしくは東芝の監査委員会が)第三者委員会を設定できる余地はなかったのでしょうかね。この点については、元監査委員会委員長の方の(第三者委員会を設置できなかった)説明(言い訳?)が報告書にありますが(91頁)、ここで中立・公正な第三者委員会が立ち上げられていれば(とても穿った見方ではありますが)6月25日の議決権行使結果(取締役会議長、監査委員の選任議案否決)のようにはならなかったような気がします。今回、株主の総意次第では、会社法に基づく強力な調査がなされるということがひとつの教訓となったはずであり、今後、不祥事が発生した会社、ガバナンスに問題が発生した会社では、すみやかに独立性の高い第三者委員会を自ら立ち上げることが増えるのではないでしょうか。
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