性能偽装事件-三菱電機は社内プロベーション制度を導入すべきである
(7月1日午前 花輪さんから有益なコメントをいただきましたので、たいへん参考になるご意見として追記させていただきました。ありがとうございます)
昨日も取り上げた三菱電機の性能偽装事件ですが、本日(6月30日)、三菱電機HPに性能偽装事件の概要が公表されていましたので閲覧いたしました。鉄道車両向け空調設備の出荷にあたり、実際には試験を実施していないのに、自動的に数値を偽装するプログラムを作成していたことや、車両のブレーキや扉の開閉に使う「空気圧縮機」でも不正検査が判明したことなど、新たに判明しているそうで、不正の原因はかなり根の深いもののようです。
ところで三菱電機の対応でひとつ気になるのが「安全性に問題はない」という釈明です。これは少し論点がずれています。同じ不正競争防止法違反行為であったとしても、国の安全基準を(満たしていないにもかかわらず)満たしているかのような表示をしている場合には「安全性は確認されている」という釈明も成り立ちます。しかし、三菱電機の場合は取引先から要求されている仕様を満たしていないのに満たしているかのような表示をしているわけですから「まじめに仕様を満たす検査をしている同業他社との公正な競争が害されたこと」が重大な問題です。したがって釈明するのであれば「我々の性能偽装によって同業他社との公正な競争が害されていないことを確認した」ということを合理的な理由によって開示すべきです。かりに「安全性」を釈明として持ち出したとしても、本件では最終利用者の「安心」には何ら結び付きません。
そして、本日報道されているところによると、三菱電機は外部弁護士による第三者委員会によって原因究明を図る、ということのようです。しかし(昨日述べた通り)これだけ多くの性能偽装事案が社内で見つかるのですから、時間的な制約のある第三者委員会では件外不正も、そして根本原因も解明することは困難であり、最低2年程度は調査を継続する外部有識者による再生委員会を社内に設置する必要があると考えます。そして、その再生委員会を有効に機能させるために、社内にプロベーション制度を導入することを提言いたします。
ちなみにプロベーション(英: Probation)とは、アメリカ法の用語であり、有罪の宣告を受けた者に直ちに刑罰の言渡しをせずに、一定の地域から離れることを禁ずるなどの何らかの制約を課しつつ、一定期間、公的機関(probation officer プロベーション・オフィサー)の観察の下に置くことをいいます。法人に対する措置としても、法人を一定期間保護観察処分として、その期間中の動向や社会的な信用の毀損状況等によって処分の猶予を決定する、とういうものです。
たとえば取締役や執行役員が担当する部門において、当該取締役や執行役員の責任において徹底的に性能偽装案件の調査を行い、その結果として不正が判明してすべて報告された場合には社内における責任は問わない(たとえ問うとしても厳罰は適用しない)。ただし、不正の申告をせず、その後内部通報等によって新たに性能偽装が発覚した場合には取締役や執行役員は退任をしなければならない、というルールを導入します。
当該ルールが適正に運用されているかどうかは、外部有識者によって構成される再生委員会がチェックをして適時適切に開示する、というものです。誠意をもって調査結果を申告すればペナルティを問われない・・・というのは一見するとモラルハザードのようにも思えますが、これまでの三菱電機の度重なる不祥事の発覚からすれば、まずは個人責任よりも組織の構造的な欠陥に着目する、つまり組織としての自浄作用を発揮することに光をあてるべきです。
昨日も申し上げましたが、三菱電機としては、もはや自社のリスクマネジメントとしての対応に固執することなく、業界全体の信用回復のための行動まで「自身の意思で」断行することが「日本を代表する名門企業としての矜持」として要請されていると考えます。
(7月1日午前:追記)
以下は花輪さんからいただいたコメントです。たしかに論点がひとつ欠けていたと思いましたので、追記させていただきます。
いつも興味深く拝見し、いろいろな点で勉強させていただいております。さて、本件は2017年に発覚したN社の検査偽装に続く、K社やM社グループの品質偽装に類似し、顧客要求検査を勝手に省略するものと思われます。従って、論点を一点追加する必要があると感じます。
当時、K社やM社の件は、こちらのブログでも頻繁に取り上げておりましたし、世の中でも騒いでおりましたので、各種業界でも自己調査を行いました。私も、同業の監査部員として自社グループの再確認を2018年に実施いたしました。それが当たり前だったと記憶しております。つまり、今回の当該社も同様に、2018年頃に自社内の調査したがどうかが、当該社の組織体質を問う論点になりうると思います。していたとしたら、見つからなかった理由。していなかったら、しなかった理由。
品質偽装が関係する組織は、ISO9000の自己監査と定期監査を受けますが、それらは会計監査のような精度ではありませんので、しっかりと設計したうえで監査をしないと見つからないかもしれません。この点からも、山口先生が常にコメントしているように、内部通報を活発化することが早道かもしれません。
| 固定リンク
コメント
いつも興味深く拝見し、いろいろな点で勉強させていただいております。
さて、本件は2017年に発覚したN社の検査偽装に続く、K社やM社グループの品質偽装に類似し、顧客要求検査を勝手に省略するものと思われます。
従って、論点を一点追加する必要があると感じます。
当時、K社やM社の件は、こちらのブログでも頻繁に取り上げておりましたし、世の中でも騒いでおりましたので、各種業界でも自己調査を行いました。
私も、同業の監査部員として自社グループの再確認を2018年に実施いたしました。それが当たり前だったと記憶しております。
つまり、今回の当該社も同様に、2018年頃に自社内の調査したがどうかが、当該社の組織体質を問う論点になりうると思います。
していたとしたら、見つからなかった理由。
していなかったら、しなかった理由。
品質偽装が関係する組織は、ISO9000の自己監査と定期監査を受けますが、それらは会計監査のような精度ではありませんので、しっかりと設計したうえで監査をしないと見つからないかもしれません。
この点からも、山口先生が常にコメントしているように、内部通報を活発化することが早道かもしれません。
投稿: 花輪 | 2021年7月 1日 (木) 09時45分
東芝同様、過去から国策企業の驕りが随所に見られます。H22年に発覚した宇宙関連事業の鎌倉製作所における、原価監査付契約の工数付替不正での報道発表の不遜もそうです。三菱電機は、ボリュームの点では日本企業に冠たるグループ行動規範を有しています。ウエブサイトを見ていただくとわかりますが、「倫理・遵法行動規範」と「倫理・遵法行動ガイドライン」を合わせると、なんと75ページにも及んでいます。しかし、その内容はほとんどが関連法規の説明に終始しています。翌年には、改訂版が出ますが、具体性に欠ける点では旧版と変わりません。
投稿: Qちゃん | 2021年7月 2日 (金) 16時50分
上場企業の社外監査役をしており、いつも先生のブログで勉強させていただいております。ありがとうございます。外部の弁護士さんによる第三者委員会が設置されるそうですが、三菱電機さんは委員会設置会社であり、一義的には、監査委員である社外取締役による調査権が行使されるべきと考えますが、いかがでしょうか?ご教示下さい。
投稿: 石さん | 2021年7月 2日 (金) 20時54分
上場企業の社外監査役をしております。いつも先生のブログで勉強させていただいております。一点ご教示いただけると幸いです。
三菱電機さんは委員会設置会社ですが、この場合、監査委員である社外取締役による調査権が、先ず行使されるべきと考えますが、いかがでしょうか?
大変立派なCG報告書も公表されておりますが、ある意味日本の看板を背負っているような企業でのこうした事件は、日本の企業統治にもマイナスの影響を及ぼすのではないかと思っています。
投稿: 石さん | 2021年7月 2日 (金) 21時17分
皆様、貴重なご意見ありがとうございます。本日の記者会見を踏まえて続編を書きますので、また参考にさせていただきます。
投稿: toshi | 2021年7月 2日 (金) 22時20分
梅雨の合間の美しい風習=七夕を楽しむ時期…に、綺麗な夜空を眺めるのは気持ちが良いと思っていた矢先に、
過去に「星の数ほどの国内不正」を見せつけられていながらも、今回の三菱電機不正事件は、近年稀に見る極度の悪質度を感じると、波紋が拡大の一途の様です。
(やや異なる視点で恐縮ですが)
某報道で、「三菱電機検査不正、架空データ算出プログラムで組織的偽装か」というタイトル/内容に触れてみると、
このシステムプログラムを、半ば強制的に、三菱グループ各社や取引先に導入(販売も?)でもしていたとしたら…と思うと、ゾッとします。
(「不正部隊育成」的な視点も、工業安全面軽視と同等に罪深い…のでは?)数十年にわたり、不正が横行していたと言う事は、無垢な新卒社員の入社スタート視点での、「社会人/仕事とはこういうモノだ」と、新興宗教での洗脳の如くの、「業務の一つ」として展開していたとしたら、悪夢です。
つまり、正しい社会人/就労/業務規範を知った上での悪行とは異なり、入社間もない社員への罪悪感を麻痺させての、悪事を働かせる為の「日常業務」でもあるとしたら、SDGs/ESGの観点からも、「上場廃止に匹敵」レベルか?とも思っています。
納入先の公共交通車両等への安全性への疑惑以上に、三菱電機マン育成上のモラル逸脱/マンパワー脱線(?)の横行に対し、政府/監督省庁がメスを入れるケースかも知れません。
(ただ…仮に本件が「経産省」管轄なら、別の社会的制裁を求められている様な省庁に委ねるのも、不安が残りますが・・・。)
投稿: にこらうす | 2021年7月 3日 (土) 00時57分