トヨタ自動車パワハラ事件にみる「ビジネスと人権:行動計画」の重要性
6月8日10:45 最終更新
第三者委員会の業務もあと2週間、ということで、まだ時間的な制約がある中、本日も短めのエントリーで失礼します。今朝(6月7日)の朝日・毎日新聞の1面記事で「男性社員の自殺 パワハラが原因と認定 トヨタ社長が謝罪 遺族と和解」とありましたが、トヨタ自動車の社長さんが(和解の席で因果関係を認めたうえで)上司のパワハラで自死された社員のご遺族に(2度にわたって)パワハラ事件の再発防止策を説明されたそうです。
お恥ずかしい話ですが、企業側のパワハラ調査を担当する者として、大きな企業の社長直々にご遺族との面談に出向き、陳謝をして再発防止策を誓うというのは経験したことがないので、この報道にはたいへん驚きました。政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」(令和2年10月)ではハラスメント対策が重点項目とされていますし、ガバナンスコード改訂2021版でも「人権尊重」が補充原則の中に盛り込まれることになりますので、パワハラ撲滅は企業のリスクマネジメントにおいて優先順位が上がってきたことは間違いないと思います。
少し話は違いますが、5月28日の朝日新聞朝刊(東京版10面)に「投資信託保有者2万人アンケート」の結果として、ESG経営に対する投資家の意識が示されていましたが、50代~70代の投資家が「環境問題の改善、再生エネルギーの普及に取り組む企業」を投資対象とする、という回答が圧倒的に多かったのに対して、20代~30代の投資家は「貧困・飢餓問題、教育格差の是正、ジェンダーフリー、女性活躍推進に取り組む企業」を投資対象とする、という回答が圧倒的に多かったことに関心が向きました。若い方はESGの「S」に関心が高いことが示されています。ハラスメント問題への世代間ギャップは、経営層にとって要注意です。
パワハラを生む企業風土を変えるための一番の特効薬は、やはり社員に共感されるストーリーです。トヨタ自動車のトップ自ら和解の場に出向き、再発防止を誓う、というのは大きな「ストーリー」になりうるものかもしれません。トヨタ自動車の上記記事では、多くの社員が「見て見ぬふり」だったことが報じられていますが、ストーリーによって変えなければならないのは(パワハラ行為そのものよりも)「見て見ぬふり」に徹する多くの社員の意識ではないか、というのが実際にパワハラ調査業務に携わっている者としての心境です。
| 固定リンク
コメント
山口先生の本エントリーの件を、私は夕方のTV報道で知りました。
この様なケースでは、ほぼ毎回、原告側の弁護士コメントが紹介されますが、アナウンサーを経由して読まれた内容(=和解)から、会社側の誠意を感じる対応への高評価を報じていました。
ただ、そこでは、トヨタ社の社長自ら…とまでは報道はされませんでしたので、あらためて驚いています。
豊田社長氏については、水素燃料エンジン(EV、FCVではなく)を搭載したクルマで、耐久レースで自らハンドルを握って参戦していましたが、会見で、「内燃エンジン自動車が無くなると、現存の部品メーカーの製造〜雇用も無くなる…」という面での危惧への対応/模索もしているとコメントされていました。
従来の常識からは…並の上場企業(というと、他社には失礼ですが)とは規模も、社会的責任等の与える影響もケタ違いの「TOYOTA」社のトップの言動に、新たな経営者像の在り方を見ている心境です。
時期的に、株主総会を控えたタイミングでの「パフォーマンス」と揶揄する動きも出ているかも知れませんが、それでも、簡単に真似できる事ではないと感じています。
今年:没後30年となる故本田宗一郎氏の下で腕を振るわれた西田氏の著書に「隗より始めよ」という一冊があり、読んだ事を思い出しています。豊田社長ご本人の行動はもとより、氏を支える周囲の重鎮さん達との連携の良さも感じさせるエピソードの一つかと思っていますが、どこかの国のコロナ禍対策や、オリ・パラの開催是非で紛糾している政府の方々と国民との乖離を目の当たりにしている心境です。
組織で働く者としての満足度は、単に給料・賃金のの高/低だけではなく、在籍する組織の社会的知名度や福利厚生の充実度だけでもなく、世の中を一歩先行する(人間味のある)経営者の下で働く「心の満タン」の度合いこそが、山口先生の本エントリーでも紹介されている様に、(投資家を含め)若い世代の求めている重点項目かもと、感じています・・・。
投稿: にこらうす | 2021年6月 8日 (火) 04時46分
私も、社長自ら謝罪というところは驚きました。
今までは分かりませんが、これからは社員を大切にするという社長のメッセージですね。
他の企業も、もしパワハラがあったら、報告を受けていないと言わずに見習って欲しいです。
投稿: Kazu | 2021年6月10日 (木) 21時52分