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2021年6月23日 (水)

フォレンジック調査の有効性はチームとのコミュニケーションが最も重要と考える

6月10日に開示された(株主への圧力問題に関する)東芝の調査報告書はいろいろなところで話題になっています。その調査報告書では、AIを活用したメール分析が威力を発揮したことが6月12日の日経朝刊で報じられていました。東芝の調査は会社法316条に基づく調査委員によるものですが、一般の第三者委員会調査においても、もはやフォレンジック調査はあたりまえですし、テキストマイニングによる分析も、多くのフォレンジック事業者が行っているものと思います。

昨日まで私が委員として調査をしていた案件でも、大手のフォレンジック事業者のチームとともに2カ月間の調査を進めましたが、いくらAIを活用したとしても、一番重要なのは調査委員とフォレンジックチームとのコミュニケーションです。フォレンジックチームの方々に、調査委員会がどのような対象事実に関心を持っているのか、どのような事実が出てきたら委員会のヒアリングが前に進むのか、といった委員会活動全体の流れを理解していただけるかどうか。いくら委員会から重要な検索ワードをフォレンジックチームにお伝えしたとしても、いくらワード間の関連性をAIで分析したとしても、調査委員会の局面が大きく変わるということはむずかしいと思います。

今回の我々の調査委員会では、ほぼすべての委員会にフォレンジックチームにも参加してもらって、ヒアリングの進捗状況なども理解をしていただき、いまどんなメールが出てくれば、どんな事実が明らかとなるのか、たとえば今から10年前までメールを時系列に並べると、その時系列の流れはどんな重要事実を推認させることになるのか、といったことも、委員会からの指示なくしてフォレンジックチームの判断において調査を進めていただいたので、「このメールをヒアリングで出すことで、もはや言い逃れはできないだろう」と自信をもってヒアリングに臨めました。

もちろんフォレンジックチームの方々はプロとはいえ法律の専門家ではありません。したがって、委員会とのコミュニケーションはとても苦労されることと思います。ただ、100個探し出してくれたメールの中から、たとえ1個でも「お宝メール」が出てくれば、委員会も元気が出てきます。そういった貴重な経験を今回は何度もさせてもらいました(調査委員のほうでも、現時点でフォレンジックチームに何ができるのか・・・といったことへの理解が必要ですね)。

現時点での第三者委員会調査にはフォレンジック調査は不可欠、と言われており、データ解析やAI活用といった最先端の技術を駆使することに光が当たります。ただ、実際に調査に携わる者からすれば、フォレンジック調査にも技術的な限界はあるわけで、むしろ限りある資源を最大限に利用するためには、生身の人間どうしの意思疎通がどれだけできているか、意思疎通を図るスキルをお互い持ち合わせているか、その意思疎通のための時間をどれだけ作ることができるか、というところが大切だと思います(とりわけ今回の調査委員会では、そのようなコミュニケーションの重要性を痛感いたしました。事業者名を出すことは控えますが、本当にお世話になりました)。

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コメント

山口先生は、以前からも「フォレンジック調査」に関してのブログを多くエントリーされていると、記憶しています。

本エントリーも、丁度先生ご自身が長期の調査報告書に携わった直後でのタイミング…(変な例えで恐縮ですが)作り立てのアツアツの料理を食べる様な気持ちで拝読しました。

かつて某書で…リーマンショック時の某証券会社が、捏造に加担した内容を記録した膨大な紙資料を調査される際、証拠隠滅のためにシュレッダーを駆使します。その資料は紙クズとなって処分場に移動されますが、調査員はそれを知り、その山の中から、決定的証拠書類を見つけます(1枚くらいは、一気にシュレッダー作業をする際、処理しきれずに残っている…と)

従来の概念による固形物は、破棄してしまえば消滅しますが、フォレンジック調査の世界では、ITツールの機能:駆使する度合い/格差が、証拠残りのカギ=調査する側/される側の「勝負」の分かれ目なのかも知れません。

DXの普及が急務と言われる昨今ですが、デジタル情報の世界は利便性が正に日進月歩。けれど、(そもそも論ですが)日頃からインテグリティな業務をしていれば、調査に怯える事は不要な訳で、組織としても、目先の利益に流れるより、後から手痛いしっぺ返しの如くの致命的な社会的及び金銭的制裁を負うより、まっとうな業務遂行…当たり前の事を続ける、組織全体の精神的強さを鍛えた方が、(有報数値的にも)メリットがあるのではと、あらためて思ったりしています。

(財務省の有能な職員が、自ら命を絶った、例の問題…民間企業でも同様に多い筈。昭和/平成で頻繁に行われて来た愚行慣習が、令和の時代で根絶的傾向に急進…となる事を願っています・・・。)

投稿: にこらうす | 2021年6月23日 (水) 06時46分

「お宝メール」が出てきたときの委員会の元気、活気は想像に難くありません。

委員会とフォレンジックチーム。

「生身の人間同士の意思疎通」がいかに大事か痛感します。

投稿: 試行錯誤者 | 2021年6月23日 (水) 14時50分

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