ガバナンス改革で品質不正は間違いなく急増する(日経ものづくり調査より)
三菱電機の事件をきっかけとした記事だと思いますが、7月9日、日経ものづくり調査アンケートの結果が日経ニュース(会員記事)に掲載されました。アンケート回答企業641社の中で、なんと256社が「うちの会社もしくは取引先」の品質不正を見聞きしている、と回答しています(さらに641社のうち1割程度の回答では「当該不正はいまだ発覚していない」とのこと)。「自社もしくは取引先の品質不正」とありますので、4割の会社で発生しているとまでは言えませんが、相当多くのメーカーで品質不正が常態化していることがわかります。
「日本の製造業の高い品質」は本当に誇れるものですが、一方でこれほど多くの企業において品質不正が日常茶飯事になっていることも「負の一面」として直視する必要があります。当ブログで過去に何度も申し上げているとおり、これは当然の数値です。製品が販売される地域においては明らかに過剰な要求仕様であるにもかかわらず、納品先に何もモノが言えない、納品先企業の購買担当者も(うすうす不正に気付きながら)サプライチェーンの製品化スピードを下げるようなクレームはつけない、コストに見合う品質改良をしようにも人的資源が存在しない、ということから、「安全性に問題がないかぎり、要求仕様を満たしていなくても問題はない」「社内ルールには反しているが、違法行為ではない」といった「自己正当化」が横行してしまいます。
そして、7月6日のエントリーでも申し上げましたが、企業統治改革が深化すればするほど、日本企業とりわけメーカーでは品質不正が急増するはずです。まず一つが「社外取締役の増加」との関係です。私が過去に対応した事案でも、社外取締役が自社の不正に真摯に立ち向かう姿勢を示すケースはとても増えています(マスコミでは「役に立たない社外役員」ばかりがおもしろおかしく取り上げられていますが、現実には社内役員と対決することのほうが圧倒的に多いです)。品質不正の事実を知った社外取締役は、これを糾弾し、是正を促します。さすがに複数の社外取締役から「過去からの決別」を促されると対応せざるを得ません。したがって品質不正は是正されるわけです。
しかし、是正はされますが、過去の5年、10年の不正については顧客にも、監督官庁にも、ましてや消費者にも開示しません。社外取締役も含めて「過去には安全性に問題のある事件が発生したわけではないし、これからは要求仕様どおりの製品を納品するのだから、是正さえきちんとすれば(過去の問題について)報告や開示までは必要ないではないか」といった空気が取締役会に漂います。私がダスキン事件を例に挙げて「過去の不正についても開示が必要」との意見書を出しても、さらに内部通報や内部告発のリスクを示唆したとしても、ほとんど役員会では通りません。そのときに挙げられる理由が「社外取締役も納得しているから」というもの。社外取締役が増えることによって、この「お墨付き効果」が上がるわけです。つまり現場における品質不正は減るかもしれませんが、組織ぐるみの品質不正(過去の不正の隠ぺい)は増えると考えます。
※なお、社外取締役が増えるとレピュテーションリスクを顕在化させるような重大な不祥事が増える、という実例もありますが、長くなりますので、本日は割愛いたします。
つぎに、すでに7月6日のエントリーでも述べましたが「攻めのガバナンス」が重宝されれば、事業における選択と集中が社内で促進されます。上記日経ものづくり調査結果からも明らかなとおり、ただでさえ既存事業の技術者が新事業の研究開発に振り分けられている中で、既存事業の品質見直し(故障率の低さ、歩留まり率の向上)に向けて割くべき人的資源は不足しています。したがって、コストを下げるために要求仕様を見直すことに関する(取引先との)協議など到底できないのであり、その結果として「切り捨て事業」の対象となることを避けるためには(現場では)品質不正に走るしかないわけです。
その結果、「誰にも迷惑をかけてないし、そもそもどこが悪いの?」といった感覚が事業部門やグループ会社に浸透します。「こうやって世間から騒がれて『不正』と言われれば『不正』かもしれないけど・・・」といった感覚です。企業統治改革の一環として経産省からは「事業再編実務指針」や「グループガバナンス実務指針」が出されているわけですが、資源の最適配分を促すこれらの指針が日本企業の現場感覚と大きなズレを生じさせてしまうわけですから、品質不正に拍車をかけるのは当然の結果となります。
こういった問題への打開策を私は3つほど講演等で提言しておりますが、その内容についてはまた別の機会に申し上げたいと思います。なお、先に述べた
「過去には安全性に問題のある事件が発生したわけではないし、これからは要求仕様どおりの製品を納品するのだから、是正さえきちんとすれば報告や開示までは必要ないではないか」
といった考え方について、御社では平時に取締役会で議論をしておいたほうが良いと思います。有事のために、ひとりひとりの取締役の考え方を述べてもらうべきです。
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