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2021年7月27日 (火)

企業のESG経営-「E」と「S]はつながる時代へ(オランダの裁判事例とEUにおける環境カルテル)

ワクチン接種も2回目が終了しましたが、おかげさまで目立った副反応もなく、普段通りに淡々と仕事をしております(皆様はいかがでしょうか)。さて、しつこくて恐縮ですが、またまた「ビジネスと人権」に関連する話題です(国際課税の合意問題も、外国公務員贈賄規制の強化問題も、実は「ビジネスと人権」に深く関わることを最近知りましたが、それはまた別途ご説明いたします)。

当職の本業においても「企業における人権原則への適応(人権問題への対応)」を検討する機会が増えましたが、海外では環境問題と人権問題とを関連付ける風潮が出てきたことに、日本企業もそろそろ注意すべきではないかと感じております。世界の金融当局が、銀行や企業に気候変動リスクの開示を求め始めている今こそ「格差是正」や「競争からの阻害(生来的差別に由来する分断)」に関連する人権問題への配慮も必要になるかと思います。

たとえば2021年6月に、オランダの裁判所で画期的な判決が出ました。原告はオランダ在住の市民1万7000人と、その市民を代表したグリーンピースなどの環境7団体で、被告は世界的大手石油企業のロイヤル・ダッチ・シェルです。裁判は、ダッチ・シェルの本社があるオランダのハーグの地方裁判所で行われました。原告である環境団体は、ダッチ・シェルの温室効果ガス削減の取組み及びパリ協定への取組みが不十分だとして訴えました。そして、裁判所はパリ協定への取り組みが不十分で、かつこのことは人権侵害につながるとして温室効果ガス排出量を2030年までに19年比で45%削減するよう命じています(この結果に対して同社は控訴を予定しているとのこと)。

ダッチ・シェルとしては、段階的に削減していくということで、温室効果ガス削減の取り組みも独自に行っていたのですが、それでは不十分だと判断され、一企業の経営方針が司法によりノーを突きつけられた格好となりました。オランダの最高裁は2019年12月20日、国に対して「危険な気候変動被害は人権侵害」と判断して、学術団体が要求していた削減(2020年90年比25%削減)を政府に命じていましたが、上記の判決は、これを企業にも同様にあてはめたものになっています。環境対策への不作為が人権侵害による不法行為と捉えられる可能性を示唆したものといえます。

そしてもうひとつは7月24日の日経WEBで報じられていたとおり、EUの欧州委員会が、ドイツの大手自動車メーカーによる排ガス浄化技術をめぐる合意をカルテルと認めたことです。製品の価格や数量ではなく、環境技術の導入をめぐる擦り合わせが摘発対象となりました。

上記記事の中で、独禁法対応で著名な弁護士の方が「世界がひっくりかえるほどのインパクト。競争法のパラダイムシフトだ」と驚いたほどの内容です。グリーンディール目標の達成を危うくするカルテル行為に対しては対応をためらわない、というのが当局の判断だそうですが、ここでも環境技術の推進を妨げるメーカーの行動は最終的には消費者が損害を被る、といった判断が前提になっていると思われます。

もちろん未だ試論にすぎない点も多いのですが、日本の生産年齢人口の過半数がミレニアム世代となる2025年を迎えるにあたり、環境対策への取組みが人権尊重につながる、という企業哲学を(日本企業も)持つ必要があるのではないか・・・と、最近の事例をみながら考えるところです。

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