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2021年7月 7日 (水)

機関投資家の皆様、業績が良ければガバナンスなど無関心ですか?-任天堂の株主総会に思う

すでに私の界隈では大きな話題になっておりますが、こちらの電気興業のお家騒動事件については、なかなかスゴイ内容です。さすがオリンパス事件を暴いた記者によるものだけあって、「コーポレートガバナンス改革などと言ってみても、オリンパスの時代から何も変わっていないではないか」といった主張が赤裸々な証拠をもって語られております。まだ続編があるようですので、あらためてエントリーしたいと思います。以下、ひさしぶりのコーポレートガバナンスに関連するお話です。

任天堂といえば2021年3月期(2020年度)連結通期による売上高は約1兆7589億円(前年度比34.4%増)、本業のもうけを示す営業利益は約6406億円(同81.8%増)、ということでコロナ禍においてもすさまじい好業績です。ということで(?)6月29日の同社定時株主総会でも楽しい雰囲気が醸し出されており(たとえばこちらの記事)、コーポレートガバナンスなどなんの問題もない、というところでしょうか。いや、むしろ外国人の社外取締役の就任ということで「ダイバーシティにも配慮している。さすが任天堂さんだ」という声も聞こえてきそうです。

世間では誰も問題視していませんし、私だけがひねくれているのかもしれませんが(たぶん、そうかも)、そんな任天堂の新任社外取締役に米国イリュミネーション社(Illumination Entertainment)のCEOの方が選任されました。イリュミネーション社といえば、来年公開のアニメ映画「スーパーマリオ」を任天堂と共同制作している会社ですよね(たとえばこちらの記事)。

会社法上の社外取締役は「会社と社内取締役との利益相反取引の監督」が重要な職務とされていますので、任天堂の株主総会招集通知(取締役選任議案の参考書類)の中でも「当社とイリュミネーション社との間において、現在利益相反関係に立つ取引はございません」と注書きが示されております。したがってイリュミネーション社のCEOの方が「会社法上の社外取締役」として就任されることについては問題はなさそうです。

しかし、近時の企業統治改革において取締役会に期待されているのは代表取締役の選解任や個別報酬決定プロセスを通じた監督機能の発揮ということです。社外取締役に独立性が求められるのは利益相反関係の有無だけでなく、社長の業務執行を利害関係なく監督できるからではないでしょうか。そうしますと、そもそも来年公開される映画を共同制作している会社のCEOの方は、今後の任天堂とイリュミネーション社との協働事業について(つまり任天堂の重要な業務執行について)監督できる立場にはないと思われます。

もちろん、独立性を持たず、経営のご意見番であったり、社長との共同業務執行者となる「非常勤取締役」さんは上場会社にもたくさんいらっしゃいますし、企業価値向上のためにご活躍されている例をたくさん見ております。したがって、そのような「非常勤取締役」に共同制作者のトップが就任する、ということであれば素晴らしい。

しかし、東証に独立社外取締役として届出をされるのであれば、やはり経営者をきちんと監督できる立場の方でなければ務まらないのではないかと。現在の事業戦略と利益的にも一致した立場の会社のCEOの方は、社長の経営責任を冷静に問うことはできないでしょうし、またいざという時に現在の事業戦略の方向を転換することは期待できないように思います。

最近は国内外の機関投資家の皆様も(上場会社の)コーポレートガバナンスに関するご意見をたくさんお持ちのようですが、なぜ任天堂のこの問題については誰もとり上げないのでしょうか?やっぱり「現在の業績さえよければ10年後、20年後の長期的な企業価値向上など関心事ではない」というのが本当のところなのでしょうか?ガバナンスに意見をするのは「業績が傾き出してから」ということなのでしょうか?ぜひ機関投資家の皆様のご意見を拝聴したいところです(なお、私個人の意見は「業績が絶好調のときこそガバナンスの構築・改変に乗り出すべき、傾き出してからでは遅すぎる」というものです)。

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コメント

臨時報告書を見る限り、件の社外取締役の方は断トツの賛成票を得て選任されたようですね。この賛成票の数がすべてなのかな、と感じます。
個人的には、ガバナンスだけでなく、コンプラについても、業績が良ければ無関心になってしまうのではないか、と勝手に心配しています。いけいけどんどんな空気の中で、かき消されている声がないのか、想像してしまいます。

投稿: unknown1 | 2021年7月 8日 (木) 08時15分

お久しぶりです。
任天堂の件は、Illumination Entertainmentとの取引規模が明記されていて、多くの投資家の独立性基準に抵触しないのが理由ではないかなと臨報を眺めながら思っていました。
ご指摘の通り本来であれば、取引は定量性だけではなくその性質を見て判断すべきだと思います。
任天堂のように自社から見た取引規模だけを開示して独立性に問題はないとする企業(及びその説明で納得する投資家)は多いです。しかし本来であれば相手から見た取引規模(Illumination Entertainmentから見たマリオ映画から得られる売上及び利益)も合わせて考慮すべきだと思います。しかし日本ではそこまでの開示や判断は行われてないのが現状のように見受けられます。

年に1~2本の映画を制作している映画会社にとってはそのうちの1本の共同制作相手というのはとても重要な取引相手なのでは、という指摘に任天堂はどう答えるのでしょうか。

投稿: ty | 2021年7月14日 (水) 19時04分

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