三菱電機性能偽装事件-機関投資家は「オオカミ少年」はお好きでしょうか?
ブログを熱心に更新するようになったため、三菱電機の件についてメディアの方から取材を受ける機会も増えてきました。その際、これまで社内調査が何回も行われていたにもかかわらず、なぜ今回の空調機器の性能偽装を発見できなかったのか(どう思いますか)といった質問を受けます。しかし、これは難問です。
一般論として、たとえば株主(機関投資家)の方は「オオカミ少年的社内監査」を歓迎しますでしょうか?つまり、「社内の不正は絶対に見逃さない」という思想で、たとえ不正事実が見つからない場合があったとしても「不正あり!」と声を上げて調査を行い、不正は100%発見する会社を希望しますか?その代わり副作用として「ガセネタ」も多くなりますので、監査の失敗が表面化して社内外が混乱することで株価が下落する可能性はあります。「お騒がせ監査役さん」などと揶揄されることもあります。
一方「社内外を騒がせないように、本当に不正の確信がある場合のみ声をあげよ」という思想で、つまり、たとえ不正を見逃すことはあっても、不正が明らかな場合にのみ(現場に迷惑をかけない範囲において)監査部門は摘発せよ、との方針の会社があります。事業部門と監査部門との力の差が大きい会社ではこのような傾向があると思いますが、その副作用として不正が長年放置された後で、突然大きな不祥事となって発覚する、その結果、ステークホルダーの信頼を失う可能性が生じます。
よく「二つの要請をいかに調和させるかがポイント」などと書かれたマニュアル本がありますが、現実的には(私の経験に基づくものですが)「調和を図る」ことは困難であり、オオカミ少年を称賛する経営者がいるかいないか、という点で分かれると思います。「調和させる」ことが可能であるとすれば、オオカミ少年の監査部門を許容したうえで、なんども失敗を重ねて、不正の兆候をいかに効率的に見つけることができるようになるか、その訓練によるスキルアップに期待するくらいではないでしょうか。
ところで企業統治改革が進み、2019年のグループガバナンス(システム)実務指針、2020年の事業再編実務指針、社外取締役の在り方に関する実務指針などに基づき、さかんに「事業ポートフォリオの再編」が促され、どこの企業グループにおいても「資本の最適配分」が金科玉条のごとく経営者に求められています。ということは、事業部門の強い企業であればどこでも「会社よりもわが事業部の存続」ということが関心事となりますので、今後は三菱電機のような性能偽装、品質偽装事件は(どこの上場会社でも)当然に増えるはずです。「攻めのガバナンス」が強調される以上、その代償として「守りのガバナンス」に支障を来すことはやむをえないでしょう。
そうであるならば、私個人の意見としては「オオカミ少年を許容する組織風土」が(株主保護のために)求められるべきではないかと思っております(日本の企業ではかなりむずかしいですが・・・)。
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コメント
日本の企業ではかなりむずかしいですが・・・という懐疑的な結びは悲しいです。
長年の組織的不正が、文字通り「長年」になる理由は、もちろん不正組織が隠蔽工作をしている点が大きいですが、「オオカミ少年(本当にオオカミが来たことに声を上げている公益通報者、不利益に負けず声を上げ続ける公益通報者)を称賛する経営者がいるかいないか」ということが分かれ目です。
「公益通報者」が称賛される企業が増えてほしいです。
投稿: 試行錯誤者 | 2021年7月 7日 (水) 12時58分
いつも拝見しております。日経ニュースで「日経ものづくり」の再構成記事が掲載されています。アンケート調査に回答した640社のうち、40%の企業で品質不正が行われている、とのこと。つまり日本の大企業のうち250社で品質偽装が常態化しているようで驚いています。先生の言われるとおり、これからはもっと増えるとなると職業倫理が心配です。今朝も三菱電機に対して、ニューヨークの地下鉄から偽装に関する質問状が届いたことが報じられていました。「オオカミ少年的監査」というのはどういうものなのか、もう少し詳しく教えてください。
投稿: tama | 2021年7月 9日 (金) 11時36分