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2021年7月19日 (月)

ビジネスと人権原則の実践-パワハラも公益通報事実として取り扱うべきである

週末は公益通報関連の大きな記事が各紙で報じられていました。ひとつは日本郵便の内部通報体制整備に関する朝日、産経の記事でして、内部通報者の特定につながる情報をパワハラ加害者に伝えていた元役員への社内処分が下された、今後は情報漏洩を防ぐために通報窓口と社内調査担当者を完全に分離する体制をとる、というものでした。

そしてもうひとつは日経ニュース「パワハラ対策道半ば 防止法施行後も被害増」という見出しで、ベルシステム24ホールディングスの通報相談事例が(好例として)詳細に紹介されています。記事の中では恥ずかしながら私が社外役員を務めている会社の事例も「問題事例」として挙げられていまして、ぜひ参考にさせていただきたいと思いました。

ところで内部通報窓口への通報の多くはハラスメント関連の事実ですが、日経ニュースで語られているように2020年6月に施行されたパワハラ防止法には企業や加害者に対する罰則規定がないためか、企業によっては対策があまり講じられていないところもあるようです。しかしながら、ビジネスと人権原則(国連)に基づく「日本版ビジネスと人権に関する行動計画2020-2025」も策定され、さらにガバナンス・コード改訂2021でも「人権尊重への配慮」が盛り込まれるようになりましたので、対策はこれまで以上に「経営者マター」として検討する必要があります。先日、トヨタ自動車のトップが、パワハラによる社員の悲しい事件を知って、すぐに社員のご遺族との和解の席に赴き、二度にわたって再発防止策を説明し、パワハラ加害者には社内で厳罰を課す旨のルール改正を行ったことは有名な話です。

来年施行される改正公益通報者保護法では、公益通報への対応業務従事者の守秘義務違反には刑事罰が科されますし、法人にも(対応体制等整備義務違反として)行政処分が課されることになりますので、パワハラ対策を「経営者マター」として優先順位を上げるためには、パワハラ通報が「公益通報対象事実」に該当するケースが増える、という認識を広く持っていただくことが大切かと思います。朝日や産経で報じられている日本郵便の事例では、パワハラ加害者が「強要未遂」として刑事罰が科されましたので、たとえば職務上必要性の認められない行動を上司から要求された場合には刑法犯に該当する可能性が高いものとして、パワハラ通報は公益通報として取り扱われることが周知されると思います。

また、これは未だ立法論にすぎませんが(日経ニュースにあるように)パワハラ防止法に企業や加害者に対するペナルティが規定されるようになれば、「公益通報対象関連法」にパワハラ防止法が含まれる可能性が高くなるので、これも「経営者マター」として対応することになりそうです。とりわけ今後は「人権デューデリジェンス」の一環として、海外グループ会社を含めたグループ内部通報制度の整備・運用状況を開示する企業が増えますので、グループ会社社員からのパワハラ案件の取り扱いにも留意しなければなりません。

多くの内部通報案件を処理している企業ならおわかりのとおり、近時のパワハラ案件の特徴は、被害者よりも第三者からの通報案件が急増しているという事実です。つまり、パワハラに後ろ向きの企業は、企業にとって必要な人材を流失させてしまうというリスクに直面することになります。その点に少しでも多くの経営者の方々に気付いていただければ、もうすこし内部通報制度への取り組みも進むものと思うのですが・・・

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