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2021年7月16日 (金)

東芝6月定時株主総会の決議取消訴訟は提起されるか?-調査報告書への強い疑問

7月14日の産経新聞朝刊(7面正論-オピニオン)におきまして、上村達夫先生(早大名誉教授)が「ファンドに翻弄される日本企業」と題する論稿を書かれていて、ひさしぶりにドキドキしながら拝読いたしました。メディアはこぞって会社法316条2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書の内容を信じ切ってしまって、さも真実であるかのように報じているが、そこまで調査報告書の内容は信用性の高いものなのか、東芝の6月総会の議決権行使は、あの調査報告書の内容が不当な影響を与えてしまっていて、決議の方法が著しく不当なもの、あるいは多数決の濫用に至っているのではないか、とのご主張です。

当該ご主張の論拠としては「株主による業務・財産調査権」の歴史的背景と他の条文との関係性(3%以上を保有する大株主は総会に関係なく業務財産検査権を行使できるのに、なぜそちらを行使しなかったのか-裁判所を介入させることをおそれたのか)調査者の独立公正性に関する問題点(莫大な弁護士報酬は大株主がいくら出したのか)から展開しておられます。そして、上村先生は東芝の6月総会の決議については総会決議取消の訴えを提起しうる、いや提訴期限(総会から3か月以内)のある取消訴訟のみならず、株式会社の運営機構という公序の毀損として決議無効確認の訴えすら想定しえないではない(無効確認訴訟は提訴期限はありません)、とまで述べておられます。そもそも東芝は「お人よし」すぎるのであり、調査については「不当なもの」として拒否すべきであった、とのこと。

調査者の独立公正性に関する疑問の根拠とされる「調査者の報酬を誰がどれだけ払ったのか開示せよ」との意見については、私の記憶では決議内容が「タイムチャージで換算された調査者の報酬は正当なものとして東芝が支払う、もし払わなければ議案を上程した大株主が払う」というものだったと思います。「東芝は調査に全面的に協力します」とおっしゃっていたので、おそらく全額東芝自体が払ったのではないかと想像しておりますが、違いますでしょうかね?(そうであるならば、調査者の独立性、調査の公正性にはそれほど大きな問題はないような気がいたします)。

ただ、そもそも社外取締役など全く存在しなかったときのエージェンシーコストとして「調査者」制度が出来たにもかかわらず、エージェンシーコストの一部である社外取締役の適格性を調べるために「調査者」が活用できるのか(条文の制度趣旨を超えてるのではないか)、株主との信頼のうえに社外取締役(とりわけ監査委員とか監査等委員)が存在するにもかかわらず、その社外取締役の適格性を調査できる(無制限に社外取締役のメール等を入手して事実認定に活用できる)となれば、そもそも監査制度自体を否定することにならないのか、といった上村先生のご主張には一理あるようにも思いました。

また「商法の大家」でいらっしゃる学者のご意見として「昭和44年のふたつの最高裁判決は、中小企業の実質上の支配者たる個人等の責任を厳しく追及する、事実上の立法といわれたほど」の判決だったそうですが、いまだ最高裁は(事実上の立法といわれるほどの)大規模公開株式会社法理の形成に存在感を示していない(だから存在感を示す良い機会である?)と指摘をしておられて、これも興味をそそる内容です(ちなみに「ふたつの判決」といいますのは最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁と最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁ですね)。

もし東芝の6月総会の決議の有効性が司法の場で争われるということになれば、また新たな事実も出てくる可能性もあり、新たな判例法理が示される可能性もあっておもしろい展開になるかもしれません。ひょっとしてすでにどこかの法律事務所が提訴準備に入っているのかもしれませんが、そもそも「原告」になる方がいらっしゃるのかどうか。いずれにしても「経産省の圧力」vs「ファンドの圧力」が司法の場で議論される、ということになれば世間の関心も高まるのでしょうね。

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コメント

残念ながら産経の記事は読めないのでが。
あれだけ悪事を働いたT社を「お人よし」と言うのは如何なものかと。

投稿: K.F. | 2021年7月16日 (金) 12時02分

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