経済安全保障がガバナンス・コードにコンプライする上場企業に及ぼす影響について
旬刊商事法務の最新号(2021年7月5日号)の記事(スクランブル)に「経済安全保障とガバナンス」なる小稿が掲載されていますが、私がとても懸念している点が見事に語られています(私はこんなに上手にまとめる能力がありません)。日本政府や欧米諸国(連合)が日本企業に要請する経済安保への協力要請は、ガバナンス・コードが示す「経済合理性」とは相容れない側面を有しており、「(将来的にはガバナンス・コードの改訂において『経済安保』への協力要請も含まれるだろうが)経済合理性と地政学リスクとの間の均衡点を辿りながら個々の企業が米中間を抜け目なく渡り歩ける」のかどうか、との懸念です。まさにご指摘のとおりかと。
先日の東芝における「経産省による議決権行使への圧力問題」についても、経産省からみれば財務省(外資規制-外為法所管)と法務省(会社法所管)を眺めたうえでどちらを重視すべきか、といった判断があったのかもしれません(私のように会社法に馴染みのある法律家からすれば「とんでもない!」という気持ちにはなりますが・・・)。性能偽装で揺れる三菱電機は、すでに「経済安全保障統括室」を設置して経済安全保障リスクへの柔軟な対応を模索し始めていることが上記スクランブル記事でも紹介されていました。2021年4月には経済同友会が、各社に経済安保を踏まえたガバナンス強化を包括的に提言しています。
「真・善・美」を求めて経営をされているユニクロ(ファーストリテイリング)も、新疆ウイグル自治区の工場における労働問題で、かたや中国では不買運動に、かたやフランスでは刑事告訴事件に巻き込まれています(ちなみに法務省の「ビジネスと人権への対応」研究報告書の最初にモデル企業として掲載されているのはユニクロです)。また、個人情報や営業秘密の管理に不備がみつかった企業については、日本だけでなく世界におけるレピュテーションリスクの顕在化を招く時代になりそうです。
ESGもSDGsも、そして「ビジネスと人権原則」も、理念としては賛同いたしますが、経済安全保障の波が押し寄せるなかで、欧米諸国(連合)や中ロの「競争条件の不公平を是正するための戦略」として割り切る必要もあるのではないかと。もちろん気候変動対策のように切実さを増す国際問題もありますが、炭素税や排出権取引といった「外部不経済の市場内部化」によって、あくまでも測定可能な数値で経営上の判断ができるような対策で乗り切るべきと思います(決して、美しい理念の実現意思だけで乗り切れる問題ではないと思います)。
「これだけは絶対に内製化しなければならない産業」「これだけは絶対に優位性を譲れない産業」に対しては、今後国策への協力要請が強まることは間違いありませんし、競争上のアドバンテージをとれる情報は、おそらくそういった協力要請に積極的に応じる企業にしか届かないはずです。総務省接待問題や東芝問題は、大手企業と行政との「とんでもない」癒着が問題になりましたが、一方で行政との適切なコミュニケーションは、「経済合理性と地政学リスクとの間の均衡点を渡り歩く」ためにも不可欠ではないでしょうか(このあたりは、今後の重要な経営判断になるような予感がいたします)。
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コメント
俄かにクローズアップされてきた経済安全保障、反グローバライゼーションの様相を呈しています。しかし、物のサプライチェーンは兎も角、金融のインベストチェーンまで射程にできるかは甚だ疑問ですね‼️
投稿: Qちゃん | 2021年7月 9日 (金) 18時34分