取締役会における監督機能の発揮と「スキルマトリックス」の関係(素朴な疑問)
週末の日経朝刊(8月28日)では「社外取締役 ESGも主導-統治以外の役割広がる」なる見出し記事が目に留まりました。国内外の上場会社において、社外取締役が「サステナビリティ委員会」「CSR委員会」「コンプライアンス委員会」「イノベーション委員会」「サイエンス委員会」等で活躍する機会が増えている、そういった専門性の高い社外取締役を探すのはたいへんだが、中長期的な企業価値向上の視点から社外取締役が監督機能を発揮することに期待が寄せられている、スキルマトリックスの開示ということにも注目が集まる、といった内容です。
今回の改訂ガバナンスコードでも社外取締役のスキルマトリックスの開示が要請されていますが、これはむしろ(ガバナンスコードが要望している)モニタリングボードではなく、マネジメントボードとしての取締役会と親和性が高いのではないでしょか?おそらく社外取締役候補者としても、求められるスキルの発揮を会社側から要望されれば、重要な経営判断の場における経営指導的な活躍が期待されている、と認識するのが一般だと思います。ということで、そもそも素朴な疑問として「スキルをもってどんな方法で監督機能(モニタリング)を発揮するのか」というところが、いまひとつよくわかりませんし、本当にそのようなことが可能なのであれば、経営者はわかりやすく社外取締役候補者に伝える必要があります。
昨年7月に経産省から公表された「社外取締役ガイドライン」の参考資料2のアンケート調査結果をみても、多くの会社が現実にはマネジメントモデルの取締役会を運用しているわけですから、私はまず社外取締役になろうとされる方は、ガイドラインの求める「社外取締役の理想像」を実践することよりも先に、会社の現実を見据えることが大切だと思います。マネジメントモデルであれば、自身のスキルを(重要な経営判断に活かせるように)存分に発揮すればよいと思います。もしモニタリングモデルの運用がなされている、もしくは移行しようと努力している会社であれば、どのような形で自らのスキルを監督職務に取り入れるべきか、会社側とよくすり合わせをしておくべきではないでしょうか。
※ ちなみにガバナンス・コードや経産省社外取締役ガイドラインが求めている「監督」とは、CEOに対する評価と、CEOの選解任および報酬決定への主導的役割を果たすこととされています。このような「監督」に社外取締役のスキルがどのようなプロセスで反映されるのでしょうか。
そしてもうひとつの素朴な疑問は、社外取締役のスキルに関心が集まり、上記記事にあるように「取締役会の諮問機関」として活躍することに期待が集まるのであれば、そもそも社外取締役である必要はなく、顧問やアドバイザーとなって(社外取締役では困難とされる)業務執行の一端を担うほうが企業価値の向上につながるのではないか、ということです。スキルマトリックスが求められるほどに重要な経営判断の決定に外部専門家が必要とされる時代であれば、社外取締役のような形でなく、もっと業務執行に近いところで活用されるほうが戦力になるのではないかと。
「いやいや、環境や人権、サイバーセキュリティに精通した有識者が社外取締役であることが重要なのだ」とされるのであれば、そういったスキルをお持ちの方が「取締役会において議決権を持つ意味」がわかりやすく社外取締役候補者にも伝えられる必要があると思います。いずれにしても、社外取締役になろうとされる方々は、対象会社の取締役会のモデルがどうなのか、という点を冷徹に認識することが大前提でしょう。そこを飛び越えて、近時のコーポレートガバナンス改革の理想論から「あるべき姿勢」に倣うことは会社にとっても社外取締役にとっても悲劇の始まりのような気がいたします。
ちなみに私にとって「社外取締役にとっての最高のスキル」は、経営陣をどのように監督すれば株主のエージェンシーコストを下げることができるのか、そこを理解することだと考えています(社外取締役と機関投資家との対話において、とても有意義な話題になると思います)。