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2021年8月 3日 (火)

人権尊重、企業は本気か-DHCの不適切文書に批判

タイトルのとおりの日経朝刊(8月2日)の見出し記事はたいへん興味深いものでした。エシックスコードに則って小売り大手のイオンがDHCにとった行動、売れ筋商品を供給する事業者であるがゆえに沈黙を通した他の小売り事業者、さらに(記事では紹介されていませんが)不適切文書で標的にされた大手飲料メーカーの対応など、このDHC文書事件は「ビジネスと人権」を考えるうえでとても参考になります。

当事者企業それぞれの立場でコメントしたいことはたくさんありますが、上記記事を読んで最も印象に残ったことは、不適切文書が世間を賑わせるようになった時点以降のDHCの栄養補給食品、女性用基礎化粧品の売上に及ぼす影響です。記事に添付された分析図によれば、いずれの商品も業績になんら影響がなかったばかりか、むしろ他社よりも売り上げが若干伸びている時期もあります。よく「ビジネスと人権」を語る書籍や雑誌では「最近は企業も人権尊重への配慮が求められるようになった。たとえ法令違反がなくても、人権への配慮を欠く行動は(不買運動などによって)企業の社会的信用を失わせることになる。」と書かれています。

しかしDHCの事例では、たしかに不買運動は一部で起きたものの、実際には売れ筋商品の販売不振につながる結果には至っておりません。ではなぜ売上に影響が出なかったのか・・・。このあたりが実は「コンプライアンス経営」とりわけ「ビジネスと人権」を(経営判断として)考えるうえでのポイントになろうかと思っております。

もちろん悪意のある企業不祥事は避けなければなりませんし、ましてや「差別的表現の容認」など絶対に許されるものではありません。ただ、誠実な企業の誠実な役職員でも不祥事は起こします。不祥事が発覚した時でも、日常業務が不祥事の影響を受けずに済むためには(つまりレピュテーションリスクの顕在化によって事業が影響を受けないためには)日ごろから何をしておくべきか。ここを考えることが「不祥事に強い企業」としての「組織復元力」になります。

このあたりは専門家もメディアもほとんど注意を向けていないところです。ブログのような媒体で簡潔に書けるものではありませんので、また、講演等で詳しく解説をしたいと思います。

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コメント

個人的には、DHCのサプリを長年愛用していましたが、今春、全面的に他社製品に切り替えました。

商品・サービスなどの普及を説明する概念に「ティッピング・ポイント」があります。ある現象が臨界に達すると、爆発するように流れが大きく転換する、という考えですね。

レピュテーション・リスクが顕在化する流れにも、このティッピング・ポイントがあるのではないか、と思うのですが。そうだとすれば、臨界点に達する前に、リスク回避で、信念に基づいて人権に関わる問題発言を続ける経営者を排除するとか、抜本的な対応をとることが求められるのではないのでしょうか。

それにしても、コロナのワクチン接種は、中々ティッピング・ポイントに達しませんな。

投稿: コンプライ堂 | 2021年8月 3日 (火) 08時39分

>実際には売れ筋商品の販売不振につながる結果には至っておりません。ではなぜ売上に影響が出なかったのか・・・。
→当該業界におりますが、小売やメディアが静観したことでメインの顧客層がこの一連の案件に「気づいていない」ように思えます。いやあれだけネットで話題になったのだから知ってるでしょうと思えても、よほど企業コンプラやヘイト案件に敏感なユーザー(メイン顧客層内で)でないとこの件を知らない、まさにサイバーカスケードだとかフィルターバブルだとかそういう横文字世界なのだなと痛感しました。また、DHCユーザーはDHCが好きだから買っているのではないのでブランディングにはそこまで影響が出ていないような。

逆にマクドナルドの不振に繋がった2014年不祥事はすごい勢いで拡散していたので、この差はなんだろうなと本件に絡めて考えています。

投稿: 腐祥子 | 2021年8月14日 (土) 22時31分

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