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2021年8月 5日 (木)

ガバナンス改革はJ-SOX(財務報告内部統制)と同じ道をたどるのか?

昨日(8月3日)の日経朝刊9面に「日経地銀実力調査 再編先行組が健闘-山口は『統治』で低評価」なる見出しの記事が掲載されています。当該記事によりますと、山口FG傘下の山口銀行は、収益力が評価されて総合ランキングでは上位とされていますが、ESG評価は「C」(68位)とのこと。その理由としては「グループトップが、6月の総会後の臨時取締役会で再任を拒否された事案が評価に響いた」そうです(ちなみに再任を拒否された事案の概要は日経ビジネスのこちらの記事が詳しいです)。経営の中枢部分に不安定要素がある、ということが低評価とされたものと推測されます。

しかし、上記事案(6月総会後の社長不再任)は、そもそも元社長の不適切行為に関する内部通報が経営陣に届き、その後は社外取締役(10名中7名)が中心になって社長の再任拒否といった結論になったわけですから、いわば「社外取締役が機能した」と評価できる事案ではないかと。現に7月25日の朝日新聞WEB有料記事「『納得できない』-改革派地銀トップはなぜ解任されたのか」では、金融庁幹部の方も「今回の件はガバナンスが機能した」との評価を下しています。

素朴な疑問ですが、上記日経地銀実力調査の結果からすると、コーポレートガバナンス・コードが理想とする社外取締役の行動をとった企業は「ガバナンスに問題がある」と評価され、「モノ言わない社外取締役」が沈黙して安定的な経営がなされている企業が高い評価を受けるということになるのでしょうか。しかし、私の理解するところでは、今後のいかなる経営環境の変化にも対応できるだけの多様性を備えた取締役会こそ(少なくともESGという視点からは)高い評価を受けるのであって、ガバナンス上の経営権問題が表面化したことをもって低い評価とするのはどうもおかしいように思います。

ちょうどJ-SOXの運用において、会計不正が発覚するまでは「内部統制は有効」と開示しながら、会計上の問題が発覚するやいなや訂正報告書を提出して「内部統制は有効とはいえませんでした」と修正して「ハイ、一件落着」と片付けるのと同じではないかと(これまで、修正によってペナルティを受けた上場会社はひとつもありません)。

つまり、上記のような評価がなされるのであれば「外から言われたことを粛々とこなしておいて、なにか問題が生じればそのときに有事対応で問題を解決すれば足りる」といった企業姿勢を助長することになりそうですし、企業の不正リスクに関する警鐘を社内から鳴らす「オオカミ少年」が育成されないことにつながります。これでは何のためのESG開示であり、エンゲージメントなのかわからなくなります。いわば「J-SOXの二の舞」であり、企業としても「その程度の対応で足りるのか・・・やれやれひと安心」ということになるかもしれません。取締役会の実効性評価にしても、将来的な企業価値との関係で評価を行うものと理解しております。過去に発生した事実から評価を下すというのは、せっかくのガバナンス改革のための知見を無駄にしてしまうことになりそうで、もったいない気がいたします。

それにしても、不祥事が発生すれば「社外取締役は何を見ていたのか、機能していない」と言われ、不祥事防止のために目立った行動に出れば「経営の中枢がゴタゴタしているからガバナンスが問題」と言われるわけですから、いったいどうしたらよいのでしょうかね。。

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コメント

社外取締役は株主の負託を受けて、取締役の職務の執行を監督する、のであれば、取締役を選任する株主総会の終了まで頬かむりしておいて、総会後にクーデターというところが問題なのでは?

J-SOXについては、建前は投資家保護かもしれないが、本音は「経営者が大丈夫と言ってる」という取引所や金融当局の責任逃れのための制度のように思います。

投稿: unknown1 | 2021年8月 5日 (木) 10時38分

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