企業のESG経営-「E」と「S]はつながる時代へ(その2-グリーンウォッシュ)
7月27日の拙ブログにおきまして「企業のESG経営-「E」と「S]はつながる時代へ(オランダの裁判事例とEUにおける環境カルテル)」と題するエントリーを書きました。その中で、NPO団体(Friend of the earth Netherlands)等を原告、オランダ・ダッチ・シェルを被告とするオランダの裁判に触れましたが、「月刊世界」9月号の「脱石炭から脱化石燃料へ」と題するNPO団体の方の論稿では、この裁判に関する詳しい説明がなされていました。ちなみに月刊世界の今月号の特集は「企業を変える-気候・人権・SDGs」でして、最近「ビジネスと人権」に関する関心を高めております私としては、たいへん興味のある論稿ばかりでした。
なお、2018年6月当時のFriend of the earth Netherlandsの提訴内容ですが「ロイヤル・ダッチ・シェルは再生可能エネルギーへは5%しか投資せず、95%を石油ガスに投資している現状を改めよ。その理由は、同社の事業により、気候変動が大きくなり、特に世界中の貧困層に洪水等のリスクにさらしている、同社の累積二酸化炭素排出量は世界の排出量の2%を占めており、国際的義務、人権保護、有害過失に関する法律違反等の観点から同社の責任は極めて重い」というものでした。
この提訴に対してオランダの地裁が下した判断は「人権保護の観点で、危険な気候変動による影響から人々を守る必要があるということに国際的なコンセンサスがある、よって企業は人権を尊重すべきという観点から気候変動対策をとるべきである」というというものです(なお、ダッチ・シェルは判決に不服として控訴しています)。
ところで本日(8月9日)の日経や朝日のニュースでは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年に1.5度に達するとの予測を公表した、と報じています(9日深夜の日経WEBニュースでは、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「第1作業部会第6次報告書」の要旨も掲載されています)。
今後、10年ほど前倒しで温暖化対策をとる必要性があるのではないかとも思えますが、もうひとつ公表内容で重要なのが「人間活動の温暖化への影響は『疑う余地がない』と断定した」とのこと。これまでは「温暖化に影響を及ぼしている可能性が高い」でしたが、今回は「疑う余地がない」です。「人間が引き起こした気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象や気候の極端な現象に既に影響を及ぼしている」とも明記されています。上記のような環境被害訴訟において気候変動と企業活動との因果関係が認められる可能性が高まったものと思われます。
そして企業コンプライアンスの視点から考えますと、環境経営を推進する企業にとって「自社の取組みが、どの程度気候温暖化に影響を及ぼすのか」といった説明が、今後、より重要になってくるのでしょうね。逆に言えば掲げている削減目標と、その目標達成に向けたプロセスとの整合性がない場合(到底達成困難と世間から評価された場合)には「グリーンウォッシュ企業」としてダイベストメント(投融資の引き上げ)の対象になってしまうおそれがあります。
グリーンウォッシュとは、特に環境NGOが企業の環境対応を批判する際に使用することが多く、上辺だけで環境に取り組んでいる企業などをグリーンウォッシュ企業などと呼ぶ場合がある(出典 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
ちなみに上記「月刊世界」の二つの論稿に「グリーンウォッシュ」に関するNPOの考え方が示されていましたが、日本政府が推進しているようなトランジッション(脱化石燃料への計画的な移行-たとえばCCSやアンモニア・水素の混焼など)も、パリ協定の実現に向けた目標との関係ではグリーンウォッシュであると述べられています(主張しておられるのは、一昨年、みずほフィナンシャルグループで34%の賛成票を得た株主提案者の方です)。
各国の政治的な思惑もありますので一概に「遵守すべき」とまでは申しませんが、IPCCの新たな公表内容や「気候変動対策は人権保護」という発想の高まりによって、今後「グリーンウォッシュ」は企業コンプライアンス上の課題(レピュテーションリスクの顕在化)として浮かび上がるのでしょうね。
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