会計不正事件の発覚に備えはあるか-取締役会で共有すべきガバナンス・コード補充原則3-2②
今朝(8月25日)の日経18面記事「会計不正 公表46%減-在宅勤務普及、発見に壁」によりますと、2021年3月末までの1年間で、会計不正事件を公表した企業(上場会社)が25社にとどまり、前年比46%減少したそうです(日本公認会計士協会調べ)。一見すると会計不正事件自体が少なくなったようにも思えますが、KPMG-FASのディレクターの方の話では「不正が減ったのではなく、発見しにくくなった」とのこと(なお「会計不正」とは取締役の横領等の「資金流用」と財務報告への虚偽記載等の「粉飾」の双方を含みます)。
これは当ブログで昨年来申し上げているところと全く同じでありまして(たとえばコチラやコチラ)、当職の受けている相談内容や内部通報者の支援活動等からみても、昨年来のパンデミックに由来する経営環境下での会計不正は間違いなく増えています。また、監査環境の制限により、会計不正は発見しにくい状況となっており、あと1年~3年後に発覚するケースが多いと予想しております(良い悪いは別として、もし軽微なものであれば、いまのうちにコソっと修正しておいたほうが良いですね)。
「当職の相談案件」といった偏った知見からではありますが、会計不正事件が急増しているものの発見ができない状況が生じる要因は3つあります。まず1つめは「コロナ禍における監査の後退」です。品質不正と同様、会計不正も組織内の力学的バランスが崩壊することによって発生する場合が多いのであり、内部監査部門や監査役監査が強い立場にない組織では、どうしても現場の理屈に負けてしまう(簡略化した監査手続きを余儀なくされ、不正リスクは残っているものの泣く泣く監査を終えざるを得ない)。
つぎに2つめは「ガバナンス改革の深化」です。2014年から始まったガバナンス改革は「攻めのガバナンス」が主流であり、上場会社には資本の最適配分が求められます。具体的には採算の合わない部門、子会社の整理、売却です。攻めのガバナンスのしわ寄せが迫る部門、子会社では(誠実な社員の皆様が)自身や家族の生活を守るために「部門一丸となって」粉飾に走るわけで、まさに「組織防衛」なる正当化理由のもとで粉飾を継続することになります。「急場しのぎ」「今だけだから」といった正当化理由も聞こえてきます(後日、粉飾を修復することは困難だと思いますが)。
そして3つめは「社内における不規則コミュニケーションの不足」です(これもコロナ禍ということと関連しますが)。会計不正の情報が(関係者以外に)漏えいするのは「社内の噂話」「飲み会でのココだけの話」によるところが大きいのですが、リモート勤務や飲み会の禁止によって不規則コミュニケーションの場が減っています。したがって「疑惑」を本社が知る機会に乏しい。また、内部通報や内部告発も、ハードな内容の場合には支援者の存在は不可欠でありますが、こういった支援者も不規則コミュニケーションの不足によって見つけにくい状況です。
ということで、会計不正事件は実際には発生しているのでありますが、パンデミックが未だ収束するめどが立たない中で、発覚にはもう少し時間がかかるということになります。そこで上場会社の皆様は、いまから準備しておくべきなのがコーポレートガバナンス・コード補充原則3-2②ⅳに対する対応です(ほとんどの本則上場会社がコンプライしているはずです)。「外部監査人が不正を発見し適切な対応を求めた場合の会社側の対応体制の確立」です。会計監査人に内部告発が届いた場合や会計監査人が自ら不正の疑いを抱いて調査を要請した場合、どのような対応をとるのか、(コンプライを宣言している以上)どこの会社でも確立しているはずです。
もしコンプライしながら体制を確立していない会社、体制は確立していたけれども、有事に対応できなかった会社の役員には、訴訟を提起され善管注意義務違反が認定される可能性は高いと思われます。もちろん不正が大きくなってから発覚する、ということになりますので株主にも多大な損失が生じることになり、会社の信用も毀損されるリスクは高いはずです。改正公益通報者保護法が施行されて、内部通報と内部告発の「制度間競争」が奨励される前に、せめてガバナンス・コード補充原則3-2②への対応(体制の確立)だけはきちんと役員間で共有しておいたほうがよろしいのではないでしょうか。
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コメント
私が行った「公益通報」の場合、直属上司には「監督省には説明してあるから大丈夫だ(不正では無いとの解釈)」と言われ、
経営陣への通報後、コンプライアンス部門には、「内部監査で不正が見つかっていないからメスを入れにくい」と言われました。
現場の「組織的不正」隠蔽のための虚偽説明が通ってしまったのです。
多勢(組織的な被通報者)に無勢(個人の通報者)の悲哀です。
その後、不正が発覚し監督省の特別調査に協力後も、当該部門より脅迫や、経営陣に通報しないという【念書】強要未遂を受けて、政府行政に相談し続けました。
その過程で「公益通報者保護法」の主管庁が消費者庁であることを総務省行政評価局に教えられ、消費者庁の検討会や「通報経験者の不利益実態調査」に参画しました。
経営陣の「善管注意義務」も含め、監督省と当該企業との話し合いを勧めながら長い年月が経ちました。
コロナの影響でコミュニケーション不足になることは「公益通報者」にとっても辛いですが「公益通報者保護制度の実効性の向上」、なにより自分の為にも粘り強く話しあっています。
投稿: 試行錯誤者 | 2021年8月29日 (日) 07時49分