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2021年9月 1日 (水)

阪神高速子会社「おいちょかぶ」賭博と改正公益通報者保護法

みずほ銀行のシステム障害事案については、なかなか直接の原因がわからない状況が続いているようですが、8月31日に新たに判明した事実として「みずほ銀行ではシステム開発担当者を(本格稼働後に)6割削減していた」そうで、(直接ではないとしても)これが大きな要因かもしれませんね。「ガバナンスは人的資源の最適配分のためにある」と考えれば、本件システム障害事案はまさにITガバナンスの問題ではないかと思います(以下本題です)。

さて、8月31日の各メディアで報じられているように、阪神高速グループ会社(阪神高速パトロール社)の社員が休憩時間に「おいちょかぶ」賭博に興じていたことで64名が処分されたそうです(たとえば読売新聞ニュースはこちらです)。すでに同社は大阪府警にも相談をしている、とのこと(警察への連絡は当然のことですが、結構府警は厳しい対応なんですよね)。

過去に当ブログでも申し上げましたが(たとえばこちらのJR東日本社の事例など)、「賭金はたったの250円、勝っても2500円程度の賭け事になんでそんなに目くじら立てるの?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、私が過去に委員を務めた「反社会的勢力との癒着が問題となった某著名企業の第三者委員会の調査」では、反社会的勢力との接点が社員による野球賭博、それもひとり300円程度の賭金サークルでした。阪神高速グループ会社では、2年前(2019年6月)にも別の子会社で賭けゴルフが発覚して処分される事件がありましたので、「たかが250円、されど250円」ということで厳しい対応がなされたものと思われます。

ところで、今回のおいちょかぶ賭博が発覚したのは今年3月の内部通報が端緒だったそうです。社内における賭博行為(休憩時間における違法行為)は公益通報者保護法上の「公益通報事実」に該当しますので、当該通報者は同法によって厚く保護されるはずです。もちろん通報者探しなど行えば大問題になります。とりわけ来年6月から施行される改正公益通報者保護法では、通報者探しを行った企業(常用雇用者300名以上)は行政処分の対象になりますし、通報窓口担当者や調査担当者が通報者を特定できる情報を漏えいすれば刑事罰になりますので慎重な対応が求められます(公益通報対応業務についての措置義務違反)。

たとえば内部公益通報がなされた場合に、これを放置していたとすれば、今度は国交省や消費者庁、あるいはマスコミに「外部公益通報」がなされる可能性があります。改正法では行政機関への通報は真実相当性に関する立証方法を持たなくても保護の対象となりますし、通報を受け付けた行政機関には新たに「外部通報への対応体制整備義務」が定められましたので、すぐに通報に応答することになります。また、内部公益通報が無視された場合にはマスコミへの通報も保護要件が緩和されますので、内部告発(外部公益通報)の選択肢がかなり広がりました。

もちろん事業者としては内部に通報してもらいたいので、通報者が自分も賭博に参加していたとしても、通報したことで猶予処分(リニエンシー)とすることも考えられます。現に、過去の裁判例でも(大阪市の清掃担当者が河川から拾得した財物を不正に領得していた事例)通報者に何らの配慮もせずに、他の不正行為者と同等の懲戒処分とするのは違法だとして処分が取り消されたことがありました。

ということで、本件のような現場社員による通報は、阪神高速グループ会社のように内部に届くのであればかなりラッキーでして、いきなり監督官庁に届く可能性もあります。「たかが250円くらいで」とは思わずに、今後皆様の会社(グループ会社)でも同様の事態が申告された場合には、速やかに社内調査を進めて、自浄作用を発揮させなければ「身内に犯罪者を抱えてしまう」という不幸な事態になってしまいますのでご注意ください。

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