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2021年9月 7日 (火)

上場会社には競争法関連に強いCLO(法務担当責任役員)が必要な時代になったと思う

9月6日の日経朝刊(法税務面)では「米贈賄規制に高まる警戒 バイデン政権が摘発再開、各国でリスク-企業、内部統制強める」と題する記事が掲載されていました。DOJが7月に「腐敗防止に関するメモランダム」を公表し、腐敗防止を国家安全保障の中核的な問題と捉えたことから、今後のFCPA執行の厳格化が予想されることが示されています(現に執行事案も出てきた、とのこと)。

記事の中で、米国のFCPA事案に詳しい北島先生が「(海外での贈賄問題を防ぐ方法として)中長期でプロフェッショナルな法務人材を育成することが大事だ」と述べていますが、私もまったく同感です。これだけSDGsや「ビジネスと人権」に関する課題への関心が高まるなかで、カルテルも、営業秘密侵害も、マネロンも、海外腐敗防止もすべて「法の支配」を阻害することへの加担行為と指摘されるようになりましたので、競争法への企業対応は重大な経営課題です。私は(せめてGAFAの100分の1程度の規模でも良いので)日本企業にもCLO(チーフリーガルオフィサー)の選任も検討されてよいのではないかと思っております(マネロンでも腐敗防止でも「日本は劣等生」と世界では烙印を押されていますので、日本企業がピンポイントで摘発されても不思議はないわけです)。

なぜそのように申し上げるかというと、とりわけ不正競争防止法関連(海外贈賄、営業秘密保護、品質偽装防止等)は「自分の身は自分で守らないと、誰も守ってくれない」からです。法違反への法的効果は(日本の場合)刑事罰か民事訴訟だけであり、行政処分は規律が存在しないのです。また海外の不正競争防止法関連でも、司法ではなく行政と闘うのが通例であり(米国では司法取引はDOJとの間で交渉)裁判所の後見的機能には期待できません。競争法対応で躓きますと、そもそもビジネスの競争の舞台にすら上れないことになります。つまり多額の法対応資源を活用することがビジネスの推進に欠かせないからであります。

そもそも日本は「贈賄天国」です。おそらく「贈賄によって相手国の法体系を崩して侵略を図ろう」といった侵略行為を経験したことがないからだと思われます。国連の腐敗防止条約に署名したのは2003年ですが、これを承認したのは2017年です。それもOECDから「もっと熱心に腐敗を摘発せよ」と言われてようやく重い腰を上げたところです。つまり政治家も官僚もマスコミも誰も贈賄が人権侵害につながるという理屈を紹介してくれないため、「ファシリテーションペイメントはあたりまえ」と思っておられる企業が多いのです。先日の総務省幹部への接待問題すら、もはや報道されなくなったことが何よりの証拠です。

また、コンプライアンス・プログラムの実践にしても、マニュアルどおりにやっておけば足りると考えている企業がほとんどかと思います。しかしプログラムの実践がいざという時に効果を上げるためには、どのような目的のためにコンプライアンス・プログラムを実践するのか、そのストーリーが明確に示されていなければ捜査当局には共感されません(発展途上国の人権保護のため?テロを防止するため?犯罪収益の移転を阻止するため?相手国の法の支配を実現して経済安保を実現するため?あるいは海外政府の権力の一部を代替行使して民主国家の支援を行うため?等)。このストーリー作りは、小手先でうまくいくわけがなく、中長期の戦略として実践する必要があります。

私のようなマチ弁は、悔しいですが海外政府との交渉をまとめるようなスキルはありません。しかしカルテルやFCPAの摘発で苦しんでいる法務担当者と社長さんとの「10年以上に及ぶ二人三脚」での対応を近くでみておりまして、もう少し(法務にお金をかけて)予防に力を入れるべきではないかと痛感しております。このような物言いは同業者の方から怒られるかもしれませんが、GAFAがやっているように、大手法律事務所の著名パートナーを高額報酬で引き抜いて「副社長クラス」として法務チームを率いてもらうくらいの会社が出てきてもおかしくないと思っております。

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コメント

【8月末、米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン(GAFA)の株式時価総額が、日本株全体の時価総額を上回った。逆にいえば、わが国企業の株価の低迷が続いている証拠とも解釈できる。その背景には、わが国企業の「新しいモノを作る」能力が劣化し、個々の企業の期待成長率が低下したことがある】…という某報道の見出しに触れつつ、山口先生の本エントリーを拝見しています。

先日より、国内の株価はバブル期の高値…という報道も飛び交うものの、その株価の恩恵を受ける投資家の多くが海外…であれば、一体、国内の企業経営者は、何の為に存在するのか?と思ったりしています。

物事には攻めと守りの両面がありますが、既存の法令遵守類で安住しているかの国内企業が、現在の(これまでの)停滞であれば、
思い切った次の一手が、事態好転の兆しになるかもしれません。
現行法令や良き習慣から逸脱するのではなく、組織における「老害」「保身」の類いから如何に決別できるか?国内が与党総裁選に注目視点が変容する折、候補(検討中含む)者は、旧態依然の派閥呪縛から脱却し、次世代展開の一歩…となれるか否か。
ビジネスの世界も同様かと思いつつ、山口先生の唱える内容に頷いております。(課題が多いとされている、従前のOECDにも歯止めがかかる?)

従来の与党/野党の垣根を越えた…例えば、現在総裁選に出馬を考えている方々が手を組んで新党を結成し政府運営を行なう…。党の三役などに収まり、新たな「日出ずるJAPAN」が仮に実現したら、立法や改正がポジティブに進み、OECD含めた新規広範なビジネス、法務パワーの向上等、世界情勢に適応かつ牽引する社会が発信構築できる…と願いたいものです・・・。

投稿: にこらうす | 2021年9月 7日 (火) 13時37分

申し訳ありません、訂正追加です。
急ぎ誤りODA(政府開発援助)と前記の文面中に、なんとOECDと変換ミスをしてしまいました。
慌て者にて、お詫び申し上げます。

投稿: にこらうす | 2021年9月 7日 (火) 13時44分

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