不正発見ではなく不正予防にある「抜き打ち検査」の実効性
9月24日の読売・朝日のニュースによりますと、囲碁の日本棋院は、棋士がAI(人工知能)を使って不正に着手するのを防ぐため、対局中の棋士に対してスマホなどの電子機器を持っていないか、抜き打ちで身体・手荷物検査を初めて実施した、と報じています(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。抜き打ち検査を行う側の理事の方は「本当にいやな仕事。できたらやりたくないが、やむを得ない」とおっしゃっておられますが、「性悪説」に基づく抜き打ち検査は本当にやりたくないです。
大手のジェネリック医薬品メーカーの相次ぐ不正発覚を契機に、厚労省でもジェネリック医薬品メーカー46社に対して「抜き打ち検査」を行ったそうですが、おそらく表向きは「不正発見のため」ですが、実質的には「不正予防のため」ではないでしょうか。本業の不正調査で過去に何度か抜き打ち検査(正確には抜き打ち調査ですが)をやったことがありますが、そもそも抜き打ち検査で不正が発見できるほど甘くないというのが実感です。「不正の発見」が目的というのではなく、「こんな調査があるからやめとこう」と不正の機会を収奪する目的で行うのが正しい姿勢だと思います。「できればやりたくない」と思っている監査部の人たちも「社内から犯罪者を出さないために行うのであり、決して疑いが前提ではない」と自分に言い聞かせておられました。
なお、過去の経験からいくつかコメントを申し上げると、①内部通報者を特定させないためには有効である(一定頻度で本当に抜き打ち調査が行われる、という認識が社員に広まると「誰かが通報したのでは?」といった詮索が行われない傾向にある)、②「不正調査の目的からみて、抜き打ち調査は(社員に対する過度のプライバシー権の侵害ではないか」と誰かがクレームを言い出す(だからこそ、抜き打ち調査があることについてあらかじめ同意してもらう、「不正」ではなく「不正のおそれ」自体が調査の対象であることを伝えておくことが大切。なお、記事のように調査で発見されたモノがあれば、その所持自体をペナルティの対象とすることも一案です)、③抜き打ち調査といいながら実施すると、「抜き打ち」にならないことがときどきある(誰かが先に「抜き打ち調査を行う」という情報を現場に流す・・・これ自体、懲戒モノですが・・・)。
いずれにしても、調査対象となる現場の皆様への説明と協力要請がとても大切です。よほどの重大不正の疑いが存在するのであれば納得されるかもしれませんが、そうでなければ、平時からの「抜き打ちあるよ」といった広報とルール作りは必須かと思います。
余談ですが、最近はフォレンジックス事業者から「テレワーク環境でも抜き打ち調査が可能な情報漏洩防止システム」が発売されています。情報漏洩事件がテレワーク中にVPNを通じて起きるということが増えていて(たとえばこちらの記事ご参照)、情報漏洩事件における被害の重大性にかんがみると、このようなシステムも必要なのかもしれません。
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コメント
首相官邸、菅総理大臣や、経団連、十倉会長に、「公益通報者の名誉と尊厳の回復」を要請し続けています。
2012年、上場企業経営陣や社外役員に「抜き打ち調査」での不正発覚を要請しましたが、コンプライアンス部門に「内部監査で不正が発覚していないのでメスを入れにくい」と言われました。
不正発覚後は威嚇、恫喝、脅迫の嵐です。
日本企業は、おかしくなっています。
首相官邸には支援を受け続けています。
投稿: 試行錯誤者 | 2021年9月27日 (月) 19時26分