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2021年9月22日 (水)

顔認証カメラの防犯活用はコンプライアンス違反か?

今朝(9月21日)の読売新聞社会面の記事を読んだとき「これ、JR東日本のコンプライアンス経営の視点から大丈夫なのかな?」と疑問視しておりましたところ、やはり夜の読売新聞ニュースで「出所者の顔認知、JR東が取りやめ-社会の合意形成不十分、と方針転換」なる記事が出ておりました(朝日新聞ニュースでも報じられています)。賛否両論ではありますが、「読売新聞の報道を契機に」ということで、JR東経営陣の素早い対応はさすがです。

朝日新聞の記事内容も含めて申し上げますと、JR東日本は今年7月から「顔認証機能付き防犯カメラ」の作動を開始して、その利用目的も明示していたところ、検知対象者(誰の顔を認証するのか?)については明示していなかったそうです。その検知対象者に「過去にJR東の駅構内で重大犯罪を犯して服役した人(出所はや仮出所者)を含んでいる、ということで、これは不当なプライバシー侵害あるいは不合理な差別に該当するのではないか、といった問題が今朝の読売新聞で提起されました。なお読売新聞の記事ではJR東関係者からの情報提供によるものだそうです(社内でも問題視していた方がおられたのでしょうね)。

JR東は個人情報保護委員会に相談をしながら顔認証システムの設置に踏み切ったそうなので、おそらく国内法(個人情報保護法)に関する法令違反はないと思います。しかしながら「読売新聞の報道内容および外部有識者の意見を参考に、いまだ社会的な合意形成が十分でないと判断したのでとりあえず延期する」とのこと。まさ社会の要請への適切な対応をとる、という意味でコンプライアンス上の経営判断です。

EUのGDPRでは、顔特徴データについては「特別な種類の個人データ」として本人の同意がない限り取り扱いを禁じていること、英国では犯罪多発地域での顔認証データの取り扱いについて「対象が不明確」として違法とする判決が出ていること、米国でも複数の州で顔認証カメラ規制法が成立していること、そしてなによりも「AIと人権」という近時のビジネス上の人権配慮の社会的風潮等から、おそらく日本でも「緊急性」と「最小限度の人権侵害行為」という2点から顔認証カメラの利用に関する法規制が必要、というところが現時点での最大公約数的な意見なのかもしれません。

そういえば6~7年前にJR西日本でも「梅田駅前歩道橋の歩行者顔認証システム」が「きしょく悪い~」ということでいったん中止となりました。たとえ法令違反はなくても社会的な批判を受けることはビジネス上のハンデを背負うことになりかねず、とりあえずレピュテーションリスクを回避する、ということだったと記憶しています。あの問題よりも今回のほうが悩ましいです。最近は「職場におけるワクチン接種の強制問題」も悩ましいですが、「ビジネスと人権」を取り巻く問題は、単純な「法令順守」では割り切れないところでして、本当にむずかしい経営判断が要求されます。

もちろん、「被害者の人権保護」も尊重する必要がありますし、犯罪抑止の視点からは服役を終えた人の顔認証データを例外的に取り扱うことへの合理性も認められるように思います。そのような意味では今朝の読売新聞の記事は有識者の見解を賛否両論取り上げていて、かなり公正なものだったようにも思いますが、それにしても(コンプライアンス問題を取り上げて大企業の経営判断を一瞬で変えてしまう)内部告発(JR東関係者からの情報提供)の威力はスゴイと感じました。

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コメント

「犯罪抑止の視点からは服役を終えた人」は、特別視することは正当化されるのでしょうか。社会復帰は一切できないのでしょうか。
”程度”が問題であることはわかりますが、さらりとそのように書かれると、違和感を感じます。

投稿: ひろ | 2021年9月22日 (水) 07時31分

例えば、某国並みに公共機関、施設など街中の至る所に防犯カメラを設置…と国内で展開したとします。
そうなれば、かつての新幹線車内の無差別放火事件や、先日の都内私鉄での斬り付け事件、又は泥酔者が駅のホームから線路に転落〜はねられ死亡とか、車椅子障害者が困惑している…等のケースの未然防止という事も可能(だった)なのでは?と思ったりしています。

新型コロナ感染拡大中で、いつまでたっても感染経路不明に起因する感染〜中等症患者や重症・死者が減少していかない理由の一つに、陽性反応者の行動履歴を自主申告任せにしている事もある?という懸念が巷でくすぶっています。

又、野党の某党が、事ある毎に個人の自由の侵害と、プライバシー問題に目くじらを立てるのを否定も肯定もしませんが、自然災害や自動車事故とは別の、日常生活を脅かす犯罪予備軍的人間が暗に存在しているのも、JAPANの現状かと。

自分自身や大切な家族が、何の罪も無いのに殺傷事件に巻き込まれる事例も後を絶ちません。

現存する法律、条例の整備に関わる方々の、今まで以上に多面的かつ想像力をフル稼働してのリスクマネジメント構築…より高度な、事件事故防止への社会の流れを願いつつ、山口先生の本エントリーを一読に留める事無く、拝読していきたいと考えています・・・。

投稿: にこらうす | 2021年9月22日 (水) 18時43分

私、2013年くらいから経団連会員企業経営陣への公益通報を、社外取締役各社訪問にて内部告発する際、各社受付の監視カメラに「映る」ように顔の位置を工夫していました。
実名で通報するだけでなく「顔認証」での不正公益通報も強調したつもりです。
現在は首相官邸、経団連の十倉会長、経済同友会の櫻田代表幹事とも情報共有し、日本国における「公益通報者保護制度の実効性の向上」を要請しています。

内部告発で不正が発覚し、公益通報者が脅迫等の不利益を与える経団連会員企業に改革を促し、日本国政府と協力しています。

投稿: 試行錯誤者 | 2021年9月26日 (日) 21時32分

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