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2021年10月29日 (金)

TOYO TIREによる免震偽装物件の取得-社外役員はどう説明責任を果たすべきか

先日ご説明した調査委員会の業務が始まりまして、とんでもなく忙しいのでブログのエントリーも短めとなります。本日はコンプライアンス関連のエントリーですが、日経クロステックのニュースによりますと、(立ち退く必要性がない住人に対して、所有者から建物の取壊しを理由に立ち退き要求が続いていた、と報じられていた)福岡の免震偽装マンション(高級賃貸マンション)を譲り受けた企業が、なんとTOYO TIRE(旧 東洋ゴム工業)であることが判明した、ということでたいへん驚いております。まったく想像を超える事例です。

たしか免震偽装事件が大きく報じられていた頃には「(免震ゴムが使われた物件については耐震補強工事で修復可能、建物の取壊しまでは必要ない」ということだったと記憶しています。おそらく、その会社側の判断は今も変わっていないはずです。その意見をもとに、当該物件の建物所有者も改修する予定だったところが、なんらかの理由で所有者による改修は断念されたようです。

ただ、免震偽装事件を起こした企業自身が(所有者から)建物を買取る、ということは(素直に考えるならば)「やはり改修困難な程度の耐震構造に問題がある」ということを認めたようにも思えてしまいます。ほかにも同様の免震ゴムが使われている建物も存在すると思われますので、TOYO TIREとしても説明責任を果たすことが求められます。とりわけ耐震補強工事で足りるところを建物の所有権まで取得するということであれば、会社の経済的損失を発生させた合理性はどこにあるのか、社外取締役、社外監査役の方々には株主の皆様へ説明することが求められるのではないでしょうか?

おそらく今回のTOYO TIREの経営判断も、もっぱら「企業不祥事の後始末」ということではなく、何らかの「攻めのガバナンス」の一環としてなされたものでしょう。企業統治改革が始まった2013年以降、上場会社を中心に社外取締役が急増していますが、もし自社でこのTOYO TIREのような経営判断が下された場合、その経済的合理性を一般株主にどのように説明するのか、説明ができなければどのような責任を負うことになるのか、ぜひ自分事として考えてみてはいかがでしょうか。

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2021年10月26日 (火)

Facebookの人権侵害問題と日本企業のエシックス・コード(Code of Ethics)への対応

ご承知のとおり、Facebook社が元社員による内部告発で厳しい状況に陥っていますが、ITメディアニュースによりますと「米Facebookの大量の内部文書を持ち出し、同社の問題体質を告発したフランシス・ホーゲン氏に続き、新たな内部告発者が米証券取引委員会(SEC)に内部告発宣誓供述書を提出した」とのこと。今度は2016年の米大統領選へのロシアの関与でFacebookへの批判が高まった際、同社幹部が「議員たちの関心は数週間以内に他に移るだろう。それまで目立たないように金儲けを続ければ問題ない」と発言していた内容だそうです。

上記のホーゲン氏は2019年にFacebookに入社し、誤情報対策チームのプロダクトマネジャーを務めていましたが、当該チームが解散になったことをきっかけに5月に退社しています。内部の問題を告発する目的で、退社するまでに数万ページもの内部データを密かにコピーし、米Wall Street Journalに提供しています。

なお、データには、Instagramが未成年に与える悪影響についての調査報告、イスラム諸国における人身売買への活用を放置している事件の報告などが含まれ、同氏はFacebookがこうした悪影響を知りながら、ユーザーの安全より自社の利益を優先しすぎたと非難しています(データは後にWall Street Journalが一般に公開)。

さて、こういったプラットフォーマーが人権侵害や人権軽視の行動に出ている場合、日本企業としてはFacebookのビジネスアカウントを取得・活用したり、Facebookに広告を出す行為は自社のエシックス・コード(Code of Ethics) に照らして大丈夫なのでしょうか?すでにAppleは「Facebook社のアプリをApp Storeから削除する」と警告していることが報じられています(たとえばこちらの記事)。

以前、自社HPにて同社経営者による民族差別的な表現行為を記載していた某栄養食品メーカーに対して、イオンがエシックス・コードに則って質問状を送付したことがありました。私的にはイオンの姿勢はESG経営として至極真っ当な行動だと思いました(8月3日のこちらのエントリーをご参照ください)。

今後、さらにFacebookのコンプライアンス問題が明確になった場合、Facebookに対して日本の企業はどのような対応に出るのか。もし何も対応しない、ということであれば「人権侵害を助長する企業」「児童の精神的疲弊を放置する企業」と評判になるかもしれませんし、なによりも自社のエシックス・コードに反する行動と評価されることにはならないでしょうか。

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2021年10月21日 (木)

三菱電機のガバナンスレビュー委員会委員長に就任いたしました。

本日(10月20日)の日経ニュースで報じられたように、当職が三菱電機におけるガバナンスレビュー委員会の委員長に就任いたしました。今年3回目の調査委員会委員長職でございます。今後は同社関連のエントリーは控えますし、かなり本業で忙しくなりますので、ブログの更新頻度も下がることをご容赦ください(なんとか週末の時間を利用して更新する予定ですが、どうなることやら・・・)。

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2021年10月20日 (水)

LINEの個人情報不適切管理問題-経済安保とコンプライアンス経営

本日(10月19日)の日経朝刊2面では、通信アプリ大手LINEの親会社であるZホールディングスが設置した特別委員会による調査報告書の内容が紹介されていました。調査報告書自体は読んでいませんが、中国の関連会社が個人情報を閲覧し、韓国サーバーに情報を保管していたことについて、報告書は「経済安全保障への配慮ができず、見直す体制がなかった」と批判したそうです。

LINEの個人情報の保管方法は日本の個人情報保護法に違反するものではありませんが、データ管理の説明不足で利用者の信用低下を招きました。この点もコンプライアンス問題ではありますが、私は上記報告書で指摘されている「経済安保問題」への配慮不足という点も、今後はコンプライアンス問題のひとつになりうると考えます。欧米諸国では官民が連携して個人情報保護の管理体制の構築・運用に尽力しているなかで、日本のプラットフォーム企業が不適切な管理によって個人情報の漏洩を放置していたとなれば(西側諸国の企業と日本企業との『ゆるいネットワーク』構築の機運を阻害することとなるため)日本企業全体の信用毀損につながるからです。

同様のことは知財・営業秘密の管理体制にも言えます。先日、日本製鉄がトヨタ自動車を特許権侵害で訴えたことが報じられていましたが、「経済安保における日本企業の立ち位置」に注目が集まれば、当然のことながら「泣き寝入り企業」は(自社だけでなく、他の西側諸国の企業の損失につながる不作為として)批判の的になります。「日本企業の知財を盗めば高くつく」といった評判を官民連携で形成していこうとしている矢先、不正競争防止法や特許法を使えない企業は「管理不全企業」との評価が高まることになり、競争法上のハンデを背負うことになります。

毎度申し上げるとおり、経済安保問題に絡む経営判断にはしたたかな計算が必要ですが、以前は「泣き寝入り」自体がコンプライアンス問題に発展することはなかったはずです。社会の風が変わることで「知財や営業秘密の管理ができない企業」「西側諸国の利益をいっさい顧みない企業」として世界的な批判を浴びることとなり、コンプライアンス問題に発展してしまう可能性が高まってきました。イノベーションのための「他の事業者とのゆるいネットワーク」が求められる時代において、知財を含めた情報管理能力は貴重な資産とみなされるようになり、資産流出に歯止めをかけることができない「不作為」は今後許容されないことになるものと思います。

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2021年10月18日 (月)

内部告発(2号通報、3号通報)がなされた場合の社内体制も重要(改正公益通報者保護法11条4項に基づく指針の解説より)

岸田内閣となり「新しい資本主義実現会議」が新たに設置されることになりましたが、今年1月21日のエントリー「会社法制見直しと公益資本主義vs株主資本主義」でも書いた「危機管理会社法制会議」は復活するのでしょうかね?四半期開示制度の見直しが本気で進むのであれば、会社法制度の見直しにも光があたるような気がしますが・・・・以下本題。

さて、先週木曜日に改正公益通報者保護法に基づく「指針の解説」が公表されたことを速報版として書きましたが、内容を精読すると「指針の解説」にも実務上の重要なポイントがいくつか示されていることに気づきました。

本日は、いくつかの重要ポイントの中でも、これまであまり議論されてこなかった点についてひとつだけご紹介いたします。たとえば社内の不正について監督官庁やマスコミからの問い合わせで経営陣が初めて知ることも多いと思います。「誰がマスコミに流したのか?」「いったい誰が〇〇省の担当者にタレこんだのか?」と詮索したくなります。しかしこれは要注意です。

改正公益通報者保護法の建付けでは「内部公益通報への対応業務従事者の指定」「内部公益通報への対応体制の整備等の措置」がメインテーマとされています。しかし、解説の指針14頁では、外部公益通報がなされた場合の外部通報者への不利益取り扱いの防止、外部公益通報がなされた場合の「範囲外共有」の禁止、通報者の探索行為の禁止も「公益通報者を保護する体制の整備(その他の必要な措置)」に含まれることが明記されています。以前から、この点は疑問に思っておりましたが、ようやく政府の考え方がはっきりした、といった感想です。

したがいまして、内部告発(いわゆる2号通報、3号通報である外部公益通報)がなされた場合に、当該告発者に精神的苦痛を与えるような行動(パワハラ)や正当な理由なく告発者を探索する行為、告発の事実を認識している者が社内で事実を流布する行為は、役員や労働者自身が懲戒処分の対象となり、また法人自体が行政処分の対象となる可能性が高いということです。「内部通報制度」というと、どうしても社内に通報が届いたときの社内対応を想起してしまいますが、外部へ告発がなされた場合にも、犯人捜しをしたり、告発者が判明した時点で(告発者に対して)不利益処分(ハラスメントを含む)を行った場合には、当該行為者だけでなく法人自身にも処分が下される可能性があることにご留意ください。

すでに申し上げておりますが、通報者への嫌がらせが行政処分や懲戒処分の対象になる、ということは、「内部通報」や「内部告発」という行動に出ることを決意した社員が申告することになるので、企業のレピュテーションリスクが顕在化する可能性は高いはずです。会社にとって不誠実と思われる告発に至った者が誰なのか詮索することまで許されないわけではないと思いますが、いずれにせよ、今後は公益通報への対応業務に問題のある企業がプラック企業と評されるリスクは確実に増えるはずです。

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2021年10月14日 (木)

(速報版)公益通報者保護法に基づく指針の解説が公表されました

(10月23日 一部訂正)

関西スーパーの経営統合問題で伊藤忠食品が関西スーパーに対して質問状を提出したそうですが、伊藤忠食品のHPで質問状の内容を拝見しますと、とても納得感のある内容でした。臨時株主総会の開催日(10月29日)から考えますともうそろそろ関西スーパーからオーケーに対する回答、伊藤忠食品に対する回答が出てくる頃ではないかと思いますが、いかがでしょうか。あっそうそう、議決権行使助言会社の推奨意見もそろそろ判明しますね(以下、本題)。

さて、来年6月1日から施行される改正公益通報者保護法第11条に基づく「指針」の解説が、本日(10月13日)消費者庁のHPにて公表されました。今朝の読売新聞2面に大きく「内部通報に嫌がらせ 処分-役員ら対象(保護強化策 政府明記へ)」とありましたので、もうそろそろ公表されるのだろうかと思っておりました。すいません、仕事がちょっと忙しいのでまだ内容を確認できておりませんが、これは法務担当者にとっても重要な解説ですので、ご一読されてはいかがでしょうか。

改正公益通報者保護法の逐条解説本が出版され、指針の解説が公表されましたので、あとは来年6月の施行までに「平成28年版・事業者向けガイドライン」の改訂版が公表されれば、ほぼ改正法施行の準備は完了ですね。

(10月23日訂正)「一市民」さんのコメントによると、民間事業者向けガイドラインの改訂内容も「指針の解説」に含んだものとなっているので、単独で同ガイドラインを改正する予定はない、とのことだそうです。たしかに指針の解説を読むと、そのようなニュアンスも含まれていますね。ということでエントリーの一部を訂正いたします(ご指摘どうもありがとうございました。)

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2021年10月13日 (水)

経済安全保障政策を意識したESG経営の視点が不可欠と考える

今年7月27日のエントリー「企業のESG経営-『E』と『S』はつながる時代へ(オランダの裁判事例とEUにおける環境カルテル)」において、近時のオランダにおける裁判例をご紹介して「環境問題は人権問題のひとつとして捉えられる時代になるのでは?」と書きましたが、10月8日、国連人権理事会は、清潔で健康的な環境へのアクセスは基本的人権であるとの決議案を賛成多数で可決したそうです(有償版ですが、毎日新聞ニュースはこちらです)。日本は棄権したものの、決議は理事国47か国中賛成43、反対0ということで可決しました。

日本企業としても、もはや「環境問題は人権問題でもあること」を理解しておいたほうがよさそうです。国連人権理事会の次の狙いは①人権侵害に基づく損害賠償請求に関する緊急管轄の創設、②被害者の選択による準拠法選択に関する特則の制定明記というところにありますので、いよいよ世界レベルでの人権侵害行為や環境問題への不作為に対するハードロー化、つまり救済アクセスの充実が求められることへの企業対応を検討しておく必要があります。この件については抵触法(国際私法)の最新事情も踏まえて、また別途エントリーで詳しく意見を述べたいと思いますが、以下本題です。

前回のエントリーでは、文藝春秋最新号の財務次官論稿について少しだけ触れましたが、本日は同号「アップルとかく戦えり」と題する前公正取引委員会委員長の論稿についての感想です。

日本製鉄の東京製鉄への敵対的TOBについては今年2月のエントリー「日本製鉄→東京製綱・敵対的TOBに関する素朴な疑問」において「公取の事前審査の潜脱行為では?」と疑問を呈しましたが、案の定、公取から厳しい指摘を受けて、日本製鉄は元の持ち株比率に戻すそうです(こちらのNHKニュースが報じています)。このような公取委の対応はかなり厳しいなぁと思いますが、冒頭の「アップルと・・」を読みますと、(論稿はあくまでも前委員長の個人的な見解かもしれませんが)公取委としては今後さらに「公正な競争市場の形成」に向けて積極的な行動に出ることを確信いたしました。

とりわけ「社会主義はデジタルで甦る」というご意見はそのとおりかと。「先端半導体」「一般半導体」の技術をはじめ、国家監視資本主義の実践に必要な技術が中国に流出することで、自由資本主義国家の安全保障が揺らぐ可能性を欧米諸国と日本が共通課題と考え、各国の競争規制当局が足並みをそろえて監視資本主義に対抗する姿勢は、日本企業のコンプライアンス経営に、とても大きな影響をもたらします。中国がアリババやディディ(滴滴出行)に対して競争法によって規制を強めているのと同じ理屈ですよね。

おそらく公式には「経済安保」とは言わないけれど、西側諸国は「公正な競争市場の確保」という錦の御旗のもとで、環境や人権への取組みに熱心でない日本企業に対しては「公正な取引条件の不備」を問題視してハンデを背負わせることが想定されます。

ESG経営をどこまで追求すべきか、といった点について同業他社と協議することの是非はいろいろと議論されているところですが、少なくとも自由資本主義体制が目指す公正な競争条件の形成を阻害する行動(たとえば①品質偽装、②情報漏えい、③営業秘密の侵害に対しての泣き寝入り、④現地公務員への贈賄等)や、GAFAのプラットフォームのように監視資本主義に活用されるおそれのある企業への「事前規制」には要注意ですし、その規制に反する行動へのペナルティは、世界的にとても厳しいものになると予想しています。

少し前までは「ESG」といえば「企業による社会的責任に基づく実践行動」というイメージを持っていましたが、最近は経済安保問題や経済覇権行動に対する後出しジャンケン的な理由付けなど、もっとドロドロした世界をきれいにウォッシングするために活用されるイメージが強くなったように感じるのは私だけでしょうか。

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2021年10月11日 (月)

経済安保問題における企業の「自助」と「共助」

文藝春秋2021年11月号に現役財務次官の「このままでは国家財政は破綻する」との論稿が掲載されました。これに対して大物政治家の方々が「バラマキとは失礼だ」「弱者を見殺しにする気か」「分配で経済成長をすることがまず優先だ」と批判をされています。ただ、この論稿を読むと、決して弱者切り捨てなどとは述べられておらず(コロナ禍における一時的な支援は必要)、分配が経済成長につながらない論拠も日本と海外諸国の例を挙げて説明しているのですから、たとえ財務次官の「個人的な見解」にすぎないとしても、マスコミも「政策論争」として政治家の「反対意見の論拠」を取り上げてほしかった。財政再建と経済成長策との関係は喫緊の課題だけに面白おかしく「時事ネタ」として取り上げるのは残念です(以下、本題)。

さて、先週のエントリー「ビジネスと人権」問題は「素朴な正義感」で向き合える課題ではない、には多くの反響をいただきましたが、またまた経済安保問題に関連する話題です。

ここのところ、台湾のTSMCの工場誘致(半導体の確保のための政府支援)や警察による企業への経済安保問題アドバイス(機密情報の漏洩防止)等の記事が目立ちますが、もはや現実問題として避けられない経済安保問題に企業はどのように向き合うべきか、かなり悩ましい問題です。大手電機メーカーのように経済安保対策室を設けて、リスクマネジメントや経営企画の一環として取り扱う企業も出てきているのはナットクです。

半導体問題のように、サプライチェーンの信頼関係を確保することで「危機に直面しても半導体を入手できる体制」を整えることが日本の企業にとって最も重要かとは思いますが、「監視資本主義を拡充して個人の人権侵害を世界に拡散させないためにも(先端IT技術の開発にどうしても必要な)半導体の供給体制をコントロールする必要がある」といった「スローガン」を開示する必要がありそうです。単なる米中の経済覇権争いだけではEUの協力は得られないため、やはりここでも「素朴な正義感」ではなく、経済安保問題の渦中にある日本企業の得策として人権問題を持ち出す必要があると思います(これは「自助」の課題)。

そしてもう一つがサイバー攻撃対応や営業秘密侵害防止問題です。政府が経済安保問題の中で神経ととがらせている技術流出の課題です。こちらは上記警察による企業へのアドバイスのように「共助」の施策です。企業のコンプライアンス経営にとって、これからは(良い悪いは別として)政府との連携・協調が求められる(連携しない企業は、リスクマネジメントの観点から情報の非対称性において極めて深刻な事態になる)と考えています。10月10日の日経社会面の記事では、警察が「情報を盗み出す不正者は、どのようにSNSを活用して企業に近づいてくるのか」過去の具体的な捜査事例をもとに、個々の企業にアドバイスをするそうです。もちろん過度の癒着は問題ですが(たとえば「天下り」)、日本企業が経済安保問題をうまく乗り越えるためにも、企業と政府の「共助」がこれからの課題ではないでしょうか。

 

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2021年10月 7日 (木)

監査法人交代事例の急増とオピニオンショッピングに伴う「倫理観」

本日は日本公認会計士協会近畿会の組織内会計士委員会主催の研修にてお話をさせていただきました。リアルとリモートのハイブリッドセミナーでしたが、ご聴講いただいた皆様、本日はお世話になりました。ということで(?)、監査法人ネタについて少しだけ書かせていただきます。

今朝(10月6日)の朝日新聞(朝刊・経済面)に「監査法人の交代相次ぐ 変更207社 前年より5割増」なる見出しで、監査法人を変更する上場企業が増えていることが報じられています。コロナ禍による業績の悪化で監査報酬を抑えたい企業側の狙いがあるほか、契約期間が長期化した監査法人を見直す動きが広がっていることが原因とされています。

記事の中で青学の町田教授が「企業側にモラルハザードが生じ、自社に都合のいい監査法人に代えるケースがあるならば問題だ」とコメントされているのはまことにその通りかと。かつて八田進二先生から「会計の世界にセカンドオピニオンはないが、オピニオンショッピングはある」と教えてもらいました。昨今の上場会社側の監査人変更の裏には会社側は「セカンドオピニオン」をもらえるところに変更するのであって、自社に都合の良い会計処理を許容してもらえる(オピニオンショッピングできる)監査人に交代するのではない、という意識が強いように感じます。つまり自己正当化です(悪気がないので倫理観の欠如とはいえないように思います)。要は先の八田先生の名言を広めることが必要かと。

一方で、監査法人側の事情については、私はやや記事とは違う見方をしております。記事では「海外提携先の会計事務所から、採算の合わない監査先を見直すように日本の大手監査法人は求められている」とありますが、「採算」の問題ではなく「不正リスク」の問題ではないでしょうか。新興企業では内部統制が脆弱であり、上場時から監査を継続しているものの、不正リスクが顕在化する前に契約を解消しておこう、という気持ちが強くなるのではないかと。歴史の長い上場会社であったとしても、昨今のガバナンス改革が「資源の最適配分」を強く要請していることもあり、不採算部門における会計不正リスクはかなり高まっています。民事賠償、行政処分のリスクを考えると契約先の見直しを検討する監査法人側の事情もある程度は理解ができるように思います。

「会計監査の在り方に関する懇談会」が金融庁で始まりましたが、そこでもKAM(監査上の主要な検討事項)の適用開始,監査に関する品質管理基準改訂の動きなど,監査法人を取り巻く環境が変化していることから、監査の品質をどうやって向上させるかが議論されるそうです。ポイントとなるのは中小規模監査事務所の監査品質の向上、ということなので、今回の監査法人の交代急増の事実はむしろプラスと考えて、監査品質向上のための良い機会ととらえるべきではないでしょうか。

ただ(先日、こちらのエントリーでも申し上げましたように)何事も失敗を繰り返さなければ「品質の向上」などありえないはずです。監査上の失敗の社会的損失をできるだけ少なくしつつ、その失敗から得たものを社会的資産として共有できるシステムが「監査の品質向上」には不可欠だと思いますね。

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2021年10月 4日 (月)

「ビジネスと人権」問題は「素朴な正義感」で向き合える課題ではない

先週の週刊東洋経済、そして今週の日経ヴェリタスと、続けて「ビジネスと人権」に関する特集記事が組まれています。いずれの特集でも英国保険大手アビバ・インベスターズ等世界の機関投資家が参加する格付けCHRB(企業人権ベンチマーク)の評価結果を引用して、日本企業の人権問題対応への評価が極めて低いために、日本企業と海外機関投資家、取引先との信頼関係が今後も維持しうるものかどうか、懸念が表明されています。

ちょっと気になりましたのは、特集記事の中で、いずれも人権DD(デューディリジェンス)の必要性に触れて、サプライチェーンにおける人権侵害の監査(調査)を行うこと、日本企業の外国人技能労働者(実習生)の労働環境に配慮すること、海外進出先における人権侵害を助長するような行動は慎むことなどが取り上げられていることです。「ビジネスと人権」を語るうえでのまさに旬の話題です。

国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」が各国で国内法化されている時代において、グローバル経済に取り残されないためにも、先に挙げたような問題に取り組むことが大切であることは間違いありません。ただ「SDGsの時流に乗れ」とばかりに「正義感」をもって取り組むのはちょっと違和感を覚えます。

各企業において、社内で人権問題に取り組むための人的・物的資源には限りがあります。ビジネスにおける人権侵害リスクを正しく評価して、その取り組みを開示することがなぜ必要なのか、そこにはいくつかの異なった視点があるため、どのような視点で取り組むべきかをあらかじめ考えておかなければ社内資源の効率的な活用は困難ではないでしょうか。企業価値算定のモノサシとして、財務諸表に載らない無形資産(人材、ネットワーク、組織文化)への比重が高まる中で、「ヒト、モノ、カネ、情報」の流れを助長するもの、阻害するものは何か、各社の置かれた環境に配慮しながらじっくり見極める必要があると考えます。

たとえば①SDGs対応が目的なのか、②純粋に企業価値向上が目的なのか(コストの低減等)、③経済安保問題への対処なのか、④巨大IT企業規制の影響によるものなのか、⑤新自由主義からの脱却を図る政府と企業との連携が目的なのか、⑥DX、AIの発展の前提となる人権・倫理の国際的合意が目的なのか、「ビジネスと人権」を語る視点が変われば企業の取り組む内容も変わってきます。

いずれにしても海外諸国は「取引の公正」を条件として、日本企業に強い立場で「ビジネスと人権」問題を語ろうとすると思います。自社がどのような目的で「ビジネスと人権」について語らねばならないのか、自社を取り巻く経営環境をよく理解したうえでの対応が求められることをきちんと理解する必要があります。このあたりは、某ディスクロージャー誌に近時論稿を掲載する予定なので、そちらでは詳しく解説をいたします。

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2021年10月 2日 (土)

金融財政事情に「デジタルフォレンジックス調査」に関する論稿を掲載していただきました

Img_20211002_164316 週刊金融財政事情10月5日号におきまして「不祥事調査で脚光を浴びるデジタルフォレンジックス調査の光と影」と題する論稿を掲載していただきました。企業不祥事が発生した場合にDF調査が「魔法の杖」のように扱われるケースが多いのですが、実はAIと人間の協働作業であり、そこには一定の限界がある、という内容です。全国書店で販売されておりますので、ご興味がございましたら是非ご一読ください。

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