TOYO TIREによる免震偽装物件の取得-社外役員はどう説明責任を果たすべきか
先日ご説明した調査委員会の業務が始まりまして、とんでもなく忙しいのでブログのエントリーも短めとなります。本日はコンプライアンス関連のエントリーですが、日経クロステックのニュースによりますと、(立ち退く必要性がない住人に対して、所有者から建物の取壊しを理由に立ち退き要求が続いていた、と報じられていた)福岡の免震偽装マンション(高級賃貸マンション)を譲り受けた企業が、なんとTOYO TIRE(旧 東洋ゴム工業)であることが判明した、ということでたいへん驚いております。まったく想像を超える事例です。
たしか免震偽装事件が大きく報じられていた頃には「(免震ゴムが使われた物件については耐震補強工事で修復可能、建物の取壊しまでは必要ない」ということだったと記憶しています。おそらく、その会社側の判断は今も変わっていないはずです。その意見をもとに、当該物件の建物所有者も改修する予定だったところが、なんらかの理由で所有者による改修は断念されたようです。
ただ、免震偽装事件を起こした企業自身が(所有者から)建物を買取る、ということは(素直に考えるならば)「やはり改修困難な程度の耐震構造に問題がある」ということを認めたようにも思えてしまいます。ほかにも同様の免震ゴムが使われている建物も存在すると思われますので、TOYO TIREとしても説明責任を果たすことが求められます。とりわけ耐震補強工事で足りるところを建物の所有権まで取得するということであれば、会社の経済的損失を発生させた合理性はどこにあるのか、社外取締役、社外監査役の方々には株主の皆様へ説明することが求められるのではないでしょうか?
おそらく今回のTOYO TIREの経営判断も、もっぱら「企業不祥事の後始末」ということではなく、何らかの「攻めのガバナンス」の一環としてなされたものでしょう。企業統治改革が始まった2013年以降、上場会社を中心に社外取締役が急増していますが、もし自社でこのTOYO TIREのような経営判断が下された場合、その経済的合理性を一般株主にどのように説明するのか、説明ができなければどのような責任を負うことになるのか、ぜひ自分事として考えてみてはいかがでしょうか。
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コメント
静岡に本社を置く「タミヤ」という精密模型メーカーは、かつてポルシェのスケールモデルを製造販売するにあたり、わざわざポルシェの実車を購入し、その構造を徹底的に分析し、競合他社との製品競争をリード/購入者の支持を得た…との事です。
ただ、受注販売ではないプラモデル業界においては、一種の賭けの様な部分もあり、そのポルシェ模型の販売は当初赤字だった…けれど、西洋にも購入者が多いタミヤ社は、その各製品の精密度が波及的高評価を得て、現在では業界屈指の存在となっています。
(東洋の、タイヤメーカーの展開する、マンションの免震構造はどこまで正確精密で、支持を得ているのでしょう…)
TOYO TIRE社が免震偽装マンションを、わざわざ買い上げるという行為が、何の目的で進んでいるのか?真相を知りたい所です。
Learn wisdom by faults of others.(他人の愚かさから英知を学び取れ)=「人の振り見て我が振り直せ」の如く?自社が以前に提供した「偽装製品」の将来の被害予測分析等に活かすのなら、その会社の株も買おうかとなるかも知れませんが、他の理由なら、いかがなものか…。
自動車におけるリコール制度は、自社製品の不具合を公表し、一度販売したクルマを回収〜修理して戻すという事で、ユーザーの生命を守るしくみとされていますが、はたして、免震マンションの世界で、上記の様な法整備及び遵守が展開されているのかどうか…。
はるか数百キロ遠方の火山噴火によって発生した大量の軽石が、南国沖縄の港に漂着して漁業全般に重くのしかかったり、安全保障の為の海洋警備船の航行に支障が出る等、何処でどんなリスクが待っているかわからない昨今、アクシデント発生は仕方がないとしても、その後の加害該当企業のインテグリティの存在/実行こそ、持続可能な株式市場を形成する不可欠要素だと思っています・・・。
投稿: にこらうす | 2021年10月29日 (金) 06時06分
売主はREITですからね。
取り壊して建て替えるだけの内部金融がない(配当に関する税制優遇のために、内部留保はできない仕組み)ため、売却により解決するしかないが、第三者であれば相応のdiscountがなされて期間利益を毀損する。
よってTOYOが理屈をつけて、REITの配当・決算に影響を与えないような価格で購入するしか方策はなかったのだろうかと思います。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2021年11月 2日 (火) 18時14分