経済安保問題における企業の「自助」と「共助」
文藝春秋2021年11月号に現役財務次官の「このままでは国家財政は破綻する」との論稿が掲載されました。これに対して大物政治家の方々が「バラマキとは失礼だ」「弱者を見殺しにする気か」「分配で経済成長をすることがまず優先だ」と批判をされています。ただ、この論稿を読むと、決して弱者切り捨てなどとは述べられておらず(コロナ禍における一時的な支援は必要)、分配が経済成長につながらない論拠も日本と海外諸国の例を挙げて説明しているのですから、たとえ財務次官の「個人的な見解」にすぎないとしても、マスコミも「政策論争」として政治家の「反対意見の論拠」を取り上げてほしかった。財政再建と経済成長策との関係は喫緊の課題だけに面白おかしく「時事ネタ」として取り上げるのは残念です(以下、本題)。
さて、先週のエントリー「ビジネスと人権」問題は「素朴な正義感」で向き合える課題ではない、には多くの反響をいただきましたが、またまた経済安保問題に関連する話題です。
ここのところ、台湾のTSMCの工場誘致(半導体の確保のための政府支援)や警察による企業への経済安保問題アドバイス(機密情報の漏洩防止)等の記事が目立ちますが、もはや現実問題として避けられない経済安保問題に企業はどのように向き合うべきか、かなり悩ましい問題です。大手電機メーカーのように経済安保対策室を設けて、リスクマネジメントや経営企画の一環として取り扱う企業も出てきているのはナットクです。
半導体問題のように、サプライチェーンの信頼関係を確保することで「危機に直面しても半導体を入手できる体制」を整えることが日本の企業にとって最も重要かとは思いますが、「監視資本主義を拡充して個人の人権侵害を世界に拡散させないためにも(先端IT技術の開発にどうしても必要な)半導体の供給体制をコントロールする必要がある」といった「スローガン」を開示する必要がありそうです。単なる米中の経済覇権争いだけではEUの協力は得られないため、やはりここでも「素朴な正義感」ではなく、経済安保問題の渦中にある日本企業の得策として人権問題を持ち出す必要があると思います(これは「自助」の課題)。
そしてもう一つがサイバー攻撃対応や営業秘密侵害防止問題です。政府が経済安保問題の中で神経ととがらせている技術流出の課題です。こちらは上記警察による企業へのアドバイスのように「共助」の施策です。企業のコンプライアンス経営にとって、これからは(良い悪いは別として)政府との連携・協調が求められる(連携しない企業は、リスクマネジメントの観点から情報の非対称性において極めて深刻な事態になる)と考えています。10月10日の日経社会面の記事では、警察が「情報を盗み出す不正者は、どのようにSNSを活用して企業に近づいてくるのか」過去の具体的な捜査事例をもとに、個々の企業にアドバイスをするそうです。もちろん過度の癒着は問題ですが(たとえば「天下り」)、日本企業が経済安保問題をうまく乗り越えるためにも、企業と政府の「共助」がこれからの課題ではないでしょうか。
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