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2021年10月 7日 (木)

監査法人交代事例の急増とオピニオンショッピングに伴う「倫理観」

本日は日本公認会計士協会近畿会の組織内会計士委員会主催の研修にてお話をさせていただきました。リアルとリモートのハイブリッドセミナーでしたが、ご聴講いただいた皆様、本日はお世話になりました。ということで(?)、監査法人ネタについて少しだけ書かせていただきます。

今朝(10月6日)の朝日新聞(朝刊・経済面)に「監査法人の交代相次ぐ 変更207社 前年より5割増」なる見出しで、監査法人を変更する上場企業が増えていることが報じられています。コロナ禍による業績の悪化で監査報酬を抑えたい企業側の狙いがあるほか、契約期間が長期化した監査法人を見直す動きが広がっていることが原因とされています。

記事の中で青学の町田教授が「企業側にモラルハザードが生じ、自社に都合のいい監査法人に代えるケースがあるならば問題だ」とコメントされているのはまことにその通りかと。かつて八田進二先生から「会計の世界にセカンドオピニオンはないが、オピニオンショッピングはある」と教えてもらいました。昨今の上場会社側の監査人変更の裏には会社側は「セカンドオピニオン」をもらえるところに変更するのであって、自社に都合の良い会計処理を許容してもらえる(オピニオンショッピングできる)監査人に交代するのではない、という意識が強いように感じます。つまり自己正当化です(悪気がないので倫理観の欠如とはいえないように思います)。要は先の八田先生の名言を広めることが必要かと。

一方で、監査法人側の事情については、私はやや記事とは違う見方をしております。記事では「海外提携先の会計事務所から、採算の合わない監査先を見直すように日本の大手監査法人は求められている」とありますが、「採算」の問題ではなく「不正リスク」の問題ではないでしょうか。新興企業では内部統制が脆弱であり、上場時から監査を継続しているものの、不正リスクが顕在化する前に契約を解消しておこう、という気持ちが強くなるのではないかと。歴史の長い上場会社であったとしても、昨今のガバナンス改革が「資源の最適配分」を強く要請していることもあり、不採算部門における会計不正リスクはかなり高まっています。民事賠償、行政処分のリスクを考えると契約先の見直しを検討する監査法人側の事情もある程度は理解ができるように思います。

「会計監査の在り方に関する懇談会」が金融庁で始まりましたが、そこでもKAM(監査上の主要な検討事項)の適用開始,監査に関する品質管理基準改訂の動きなど,監査法人を取り巻く環境が変化していることから、監査の品質をどうやって向上させるかが議論されるそうです。ポイントとなるのは中小規模監査事務所の監査品質の向上、ということなので、今回の監査法人の交代急増の事実はむしろプラスと考えて、監査品質向上のための良い機会ととらえるべきではないでしょうか。

ただ(先日、こちらのエントリーでも申し上げましたように)何事も失敗を繰り返さなければ「品質の向上」などありえないはずです。監査上の失敗の社会的損失をできるだけ少なくしつつ、その失敗から得たものを社会的資産として共有できるシステムが「監査の品質向上」には不可欠だと思いますね。

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