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2021年11月25日 (木)

宝印刷D&IRに「ビジネスと人権」に関する論稿を掲載いただきました。

Img_20211124_215252_400SBIと新生銀行が今後の新生銀行の経営支配権について合意に至ったため、新生銀行は買収防衛策を撤回し、25日の臨時株主総会は中止、SBIのTOBに対して反対意見を中立意見に変更することが報じられています。「銀行初の敵対的買収は一転して幕切れの公算が大きくなった」とメディアが報じていますが、これは国or監督官庁(金融庁)のシナリオ通りではないでしょうか。後出しジャンケンのような物言いで恐縮ですが、そもそも議決権行使の結果および理由を金融庁自身が国民に向けて説明する、ということは「ほぼない」と思っていたので、私個人としては予想どおりであります。

さて、宝印刷さんの「D(Disclosure)&IR」2021年11月号に、拙稿「もはや『沈黙』では済まなくなった『ビジネスと人権』への経営判断」を掲載していただきました。「ビジネスと人権」という言葉が企業社会で独り歩きしているようにも思いますが、実は様々な背景があって、いま「ビジネスと人権」に注目が集まっている、その背景を理解しなければ企業としての重要な経営判断は困難である、といった趣旨の論稿となっております。

本日も日経ニュースにおいて「ESG時代の独禁法、環境保護の連携はカルテルか」といったテーマで有識者の意見が掲載されておりましたが、これも環境問題と人権(消費者保護)のバランスをどう調和させるのか、といった視点から検討されるべき問題であり、諸外国の人権思想、環境問題の「実質ルール」と「救済ルール」に配慮した解決策が求められる重要課題です。正解を見つけるということよりも、社会的な課題解決のための良質な問いを見つけて、自社がこれにどう対応するか、そのプロセスを社会に示すことが(これからの経営判断には)必要ではないかと。

データに基づいた解析を中心とした論稿、最先端の著作、論文を多数引用して近時の法・会計ルールの解釈を世に問う労作等、多くの秀逸なご論稿が掲載される中で、拙稿はひときわ「ゆるい」です(笑)。いや、ホントにお恥ずかしいほどユルい。その分、見開き8ページにわたって読みやすいとも言えますので(笑)、「D&IR」をお手に取る機会がございましたら、ぜひご一読いただければ幸いです。

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2021年11月19日 (金)

会社役員の敗者復活戦を支える-会社補償契約のススメ-

ここのところ、事務所にはあまり帰ってきておりませんので、(もろもろの)取材はお受けできない状況です。←〇〇スーパーとか(笑)。決して「愛想が悪い」「居留守を使っている」のではございませんが、ホンマに「貧乏暇なし」ということで悪しからずご了承ください<(_ _)>。以下本題であります。

本日は会社役員、とりわけ上場会社の取締役、監査役の皆様のリーガルリスクに関する話題です。モノ言う株主の急増、コンプライアンス・ESG経営への関心の高さゆえ、近時、上場会社役員の「敗訴リスク」に変化はなくても「提訴リスク」は上昇していることは間違いありません。ということで(?)、会社補償契約への注目度がアップしているようです。

「D&O保険に20億くらい加入していればよくね?」といった気持ちを(最近あまり勉強していない💦)私は抱いておりましたが、旬刊商事法務2278号(2021年11月15日号)のスクランブル「上場企業が早期に会社補償契約を導入すべきわけ」を読んで、(社外取締役として)これは早く会社補償契約を締結しなければ・・・という気持ちになっております。

会社補償契約とは、令和元年改正会社法で新たに規定が設けられたもので(改正会社法430条の2)、役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人)が職務の執行に際して負う損害賠償責任やその防御に要する費用(争訟費用)を会社が負担(補償)する制度です。改正会社法は、会社が役員等との間で締結する補償契約について、補償契約の内容を決定する手続や補償契約に基づき補償する費用等に関する規定を設けました。

補償契約によって会社が補償できる範囲は限られていますが(たとえば株主代表訴訟で敗訴した場合の損害賠償責任については除外)、争訟費用(たとえば弁護士費用)については広く補償の対象となりますので、まさに「提訴リスク急増の時代」にはピッタリです。改正会社法は社外取締役が一定の要件のもとで業務を執行することも認めていますが、会社補償契約は、このような社外取締役の積極的な活動を支えることにもなりえます。

D&O保険も争訟費用を補填しますが、保険金が下りるまで時間を要するケースもあり、スピーディーな支払いが期待できる会社補償制度にはそれなりのメリットがあります。いわばD&Oと会社補償契約は相互補完機能を発揮する、といっても過言ではありません。D&O保険の免責事由が比較的緩やかにに認められている(たとえば善管注意義務違反となることを認識しながら経営判断に至ったケースには保険は下りない等)ところからみても(金融・商事判例1628号12頁以下 東京高裁判決令和2年12月17日判決)D&O保険だけでは安心できない、というのも偽らざる心境です。海外からの集団訴訟の弁護士費用なども、保険金が出るのかどうか微妙です。

また、「そうはいっても、今まででも実務的には契約を締結していなくても会社補償は可能とされてきたんだから、あらためて契約を締結する必要はあるの?何か問題が発生してから締結すれば足りるんじゃない?」と私は安易に考えておりました。しかし、上記スクランブルを読む限りそんな甘いものではなく、これからは会社法上の補償契約を締結していない限りは、補償は困難になるのではないか、とのこと。最近の会社法セミナーではあたりまえに解説されているのかもしれませんが、勉強不足の私は「ええ!?」と驚いてしまいました。

要は会社・役員間の委任契約(任意契約)の内容について、民法650条3項(役員に過失がない場合に弁護士費用等を会社に請求できる根拠規定)は任意規定なので、役員に過失がある場合でも民法の特約として会社が弁護士費用を補償できると(個々の事案ごとに)解釈することが可能だったわけですが、改正法によって会社補償契約の内容を決定する手続き(取締役会の承認)や補償できる範囲が条文で明確になったので、民法650条3項と異なる内容の補償(特約)を認めることは委任契約の解釈としてはとりえない、というものです。

これが異論の余地なく絶対正しいとまでは申し上げる自信はありませんが、会社法上の会社補償契約はこれまで実務で行われていた民法650条による補償を制度化したもの、もともと利益相反的な契約、といった制度趣旨を前提とすれば、たしかに裁判官がこのように判断してもおかしくないように思います。ということで、社外取締役、社内取締役、監査役等の皆様にとって、健全なリスクテイクを支えるためのインセンティブとして、会社補償契約を会社法上のルールに従って締結することは上場会社のトレンドになるのではないかと。外部から経営者を連れてきたり、優秀な社外取締役を招くためにも「うちの会社では補償契約を締結することがルールになっています」と説明できそうです。

もちろん、補償費用の支払いにあたっては、モラルハザードを防ぐための措置も必要ではありますが、株主や会社第三者からの訴訟提起、行政機関からの法的手続きから身を守り、役員としての「敗者復活戦」の機会を確保することは、これからの上場会社にとって「攻めの経営」のためには不可欠の経営環境ではないでしょうか。

私利私欲を追求するような経営判断は論外ですが、失敗を許容できる組織風土はとても重要だと思います。上場会社の役員の皆様におかれましては、ぜひとも御社の顧問弁護士さんと相談のうえ、会社補償契約締結の必要性についてご検討されてはいかがでしょうか。

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2021年11月15日 (月)

東芝ガバナンス強化委員会報告書が示したコンプライアンス上の視点について

すでに皆様ご承知のとおり、東芝は(独立社外取締役5名により構成される戦略委員会の判断によって)総合電機メーカーとしての看板を下ろして事業をスピンオフし、3つの独立会社とする方針を決定しました。ガバナンス改革の潮流にも乗り、東芝による主体的な判断であることは確かだと思います。ただ、2014年の2名の社員による(会計不正に関する)内部告発が端緒となり、紆余曲折を経てこのような結果に至ったことについて、いろんな思いが湧いてきます。

そして、この報道によってそれほど話題になりませんでしたが、同日(11月12日)、「ガバナンス強化委員会によるお知らせ」として、2020年7月に開催された東芝定時株主総会における「圧力問題」に対する役員の責任(法的責任及び経営責任)を判定した報告書が公表されました。自身の本業にも役に立つものと思い、当該報告書にざっと目を通しました。

当該報告書にはいろいろな論点が含まれていますが、コンプライアンス経営という視点からは二つのポイントがあるように思います。ひとつは取締役・執行役の法的責任(善管注意義務違反)が認められない場合でも「市場が求める企業倫理上の視点」から経営責任を問いうる、ということです。おそらくこのような報告書では、市場が求める企業倫理の中身を対外的にも説得力のある理由で示すことが重要だと考えました。

そしてもうひとつがコーポレートガバナンス・コードが求める役員の行動規範、開示規範に反する行為があったとしても、(そして企業自身が当該コードをコンプライしていると宣言していたとしても)それだけで役員に善管注意義務違反が認められるわけではない、という点を明らかにしたことです。

私は2015年以来、当ブログでもこの点について問題提起しておりましたが、「コード自身はソフトローだとしても、実施すると宣言した以上は、これを実施しなければ善管注意義務違反になるのでは」と言い続けておりました。この点、結論については諸々申し上げたいことはございますが(なかなか詳細に述べる時間的余裕がございませんので)ガバナンス強化委員会報告書を生きた題材として、また議論が進展することを期待しております。

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2021年11月 9日 (火)

関西スーパー経営統合事案に法廷闘争という「第2ラウンド」がありそうですね

(9日午前 追記・更新)

つい先日、「関西スーパーの臨時株主総会-オーケーに学ぶこれからの戦略法務の在り方」なるエントリーにて、オーケー(スーパー大手)の経営者は潔い負けっぷりだな・・と書きましたが、11月8日の日経スクープ記事によりますと、10月29日の関西スーパーの臨時株主総会で決議されたエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)グループとの株式交換契約について、オーケーは9日にも神戸地裁に差し止めの仮処分を申請する方針を固めたそうです。

オーケーは「総会検査役の報告書で明らかになった議決権集票の過程に問題がある」と判断したことが紛争再燃の理由とのこと。たしかに総会検査役の報告書の内容が日経ニュースのとおりであるなら、統合決議の結果がひっくりかえる可能性が出てくるわけですから、オーケー側が経営統合の差し止めを求めて提訴することも納得します。

私の見立てが間違っていないとすれば、関西スーパー、オーケーいずれの陣営もアドバネクス事件の東京高裁判決(2019年10月17日付)の射程距離をどう理解するか、というところをきっちり押さえた上での法廷闘争になると思います。関西スーパーにとって「自分の議決権行使結果を確認したい」と申し出た法人株主が議決権行使書とは異なる内容で議決権を行使する意思を有していないことが明らかだったといえるのか、つまり法的な意味での「出席」はしていなかったと評価できるのかどうか。アドバネクス事件の場合とは状況が異なるように思えるので、とても微妙な問題を抱えているようです。(9日午前の日経ニュース更新版を読むと、総会現場では間違いが起こらないように「十分なアナウンスはあった」とのことで、このあたりも裁判では斟酌されるかも)。

また、議決権の事前行使で「反対」としながら、当日出席して賛成票を入れた株主さんはいなかったのでしょうかね?いったん票読みが終わった後で、個別の株主からの申し出を認めて、その結果を決議に反映させるということになると、会社側の恣意的な総会運営を許すことにならないのでしょうか。

ただ、そもそも僅差となることがはじめからわかっていた株主総会であり、総会検査役まで選任されていたのですから、関西スーパー側が、本件のような株主権行使は普通に想定されていたはずです(実出席者も130名程度の総会なので、本件のようなことが起きないように総会の受付において確認しておくことはできたはず)。関西スーパーの株主総会で、アドバネクス事件のような会社法上の論点が浮上することにとても驚いております。

それにしても株主総会の検査役は重要な役割を担っていることがわかります。

(9日午前追記)こちらの毎日新聞ニュース(有料版?)を読むと、さらに緊迫の現場の様子がわかります。これはたいへんですね。

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2021年11月 8日 (月)

経営法友会50周年記念シンポジウム(開催直前のお知らせ)

最近のM&A事案に関する報道、経済安保問題に絡む「ビジネスと人権」に関する話題など、ブログを更新したいネタがたくさんあるのですが、なかなか更新できずに失礼しております<(_ _)>。

ところで経営法友会さんが50周年を迎えられたとのことで、まことにおめでとうございます。本来ならばもっと早くご紹介したかったのですが、直前になってしまいました。本日(11月8日)13:00より「経営法友会50周年記念シンポジウム」がWEB形式にて開催されます。どなたでもお申込み可能とのことですが、10:00が期限ということです(間に合わなかった方、どうもすいません!)

私も新幹線の移動時間に拝聴したいのですが、(もし可能であるならば)飯田教授(東京大学)の「ルール破りの効用」だけでもライブでお聴きしたいです。おそらく法と経済学、法社会学の見地からのご発表ですが、これからの企業法務にとって大切な視点のような気がしております。プログラムが発表されておりますので、ご関心のあるプログラムだけでも拝聴されてみてはいかがでしょうか。

また後日、感想など拙ブログにて書いてみたいと思います。

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2021年11月 5日 (金)

中根千枝先生のご著書にはお世話になりました・・・

Img_20211105_202453_512「タテ社会の人間関係」ほか、中根千枝先生のご著書は私の仕事上でのバイブルであります。何度読み返したか、わかりません。

自分自身を客観視する、というクセも中根先生の本を読んで身についた気がしますし、なによりも「正解よりも問いを見つけることが大切」ということを、常に心掛けるようになりました。一番新しい「タテ社会と現代日本」の続編が読めなくなると思うと残念です。

94歳で「老衰」で亡くなられた、とのことで、長寿を全うされたのですね。謹んでご冥福をお祈りいたします。

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2021年11月 2日 (火)

関西スーパーの臨時株主総会-オーケーに学ぶこれからの「戦略法務」の在り方

週末の日曜日(10月31日)、妻と一緒に投票を終えて、相も変わらず天王寺に買物に出かけまして、近鉄百貨店の「バッファローズ優勝記念セール」でお値打ち冬モノを購入してまいりました。その後(これもいつも通りですが)あべのベルタの関西スーパーにも出かけましたが、こちらは「株主総会勝利記念セール」はやってなかったみたいで、いつもの風景でした。(=^・^=)ホント、隣のイトーヨーカドーとの共存共栄は、老舗の関西スーパーあべのベルタ店における「品ぞろえの妙」としか言いようがありません(笑)。

それにしても10月29日(金)の関西スーパー臨時株主総会はずいぶんと盛り上がりましたね(全国紙でも大きく取り上げられていましたね)。議決権行使について2時間以上かけて集計されましたが、会社案への賛成が66・68%という信じられない僅差だったそうです。可決には出席株主の3分の2以上の賛成が必要で、そのラインをわずかに上回る結果となったわけで、H2Oリテイリングとの経営統合が成立し、オーケーはTOBを断念することになりました。

関西スーパーが取引先株主らに対して「出席せずに議決権行使を棄権してほしい」と要請していたことが日経ニュースで報じられていましたが、もしそうだとするとガバナンス・コードとの関係では若干問題があるように思いました。ただ、私のような「場末の弁護士」のそんな懸念をふっとばしたのがオーケーの経営者の言動でした。こんな僅差による敗北は受け入れがたいのでは?不服申し立てはしないのか?との記者からの質問に対して、オーケーの経営者は「しっかりと総会検査役にみてもらったのだから(結果は受け入れる)」との発言(10月30日 産経新聞朝刊関西版のインタビュー記事より)。経営支配権を争う当事者(しかも負けたほう)から総会検査役へのリスペクトの言葉など、今まで聞いたことがありません。

オーケーは、たしかに総会では敗れたかもしれませんが、今回の一連の「TOB予告作戦」によって実質的には大きな勝利を収めたのではないでしょうか。なんといっても関西の消費者にオーケーというスーパーの存在、およびその特色を周知させました。どんなに広告費用を出すことよりも、大きな宣伝効果が得られました。また、オーケーのTOB予告価格の提示により、関西スーパーは、H2Oとの統合効果について(イズミヤやオアシスとのシナジーも含めて)対外的に説明することを余儀なくされました。統合効果についての実効性には疑問も残りますが、オーケー側にとっては(自らの手の内を見せることなく)首都圏のスーパーが関西市場への進出の足がかりがつかめたことはとても意味のあることだと思います。

オーケーの撤退により、週明けの関西スーパーの株価はかなり落ち込んでいますが、経営統合が市場の好感を呼ぶとすれば、関西スーパー株を高値で売って、次の投資に振り向けることもできるわけで、結局のところほとんどお金を使うことなくオーケーの企業価値を大きく向上させたといえます。今回のオーケーの関西スーパーに対する7月ころからの一連の行動を俯瞰するに、法務を「守り」に使うのではなく「攻め」に活用する・・・いわゆる「戦略法務」のお手本を、現在進行形で学ばせていただいたように思います。

徹底的に闘い、潔く撤退する(結果として一定程度の株主の賛同も得られた)というストーリーは、企業の社会的評価を毀損することもなく、ステークホルダーとの信頼関係を毀損することもなく、結局のところオーケー経営者のしたたかさを痛感する事案だったといえそうです。

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