会社役員の敗者復活戦を支える-会社補償契約のススメ-
ここのところ、事務所にはあまり帰ってきておりませんので、(もろもろの)取材はお受けできない状況です。←〇〇スーパーとか(笑)。決して「愛想が悪い」「居留守を使っている」のではございませんが、ホンマに「貧乏暇なし」ということで悪しからずご了承ください<(_ _)>。以下本題であります。
本日は会社役員、とりわけ上場会社の取締役、監査役の皆様のリーガルリスクに関する話題です。モノ言う株主の急増、コンプライアンス・ESG経営への関心の高さゆえ、近時、上場会社役員の「敗訴リスク」に変化はなくても「提訴リスク」は上昇していることは間違いありません。ということで(?)、会社補償契約への注目度がアップしているようです。
「D&O保険に20億くらい加入していればよくね?」といった気持ちを(最近あまり勉強していない💦)私は抱いておりましたが、旬刊商事法務2278号(2021年11月15日号)のスクランブル「上場企業が早期に会社補償契約を導入すべきわけ」を読んで、(社外取締役として)これは早く会社補償契約を締結しなければ・・・という気持ちになっております。
会社補償契約とは、令和元年改正会社法で新たに規定が設けられたもので(改正会社法430条の2)、役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人)が職務の執行に際して負う損害賠償責任やその防御に要する費用(争訟費用)を会社が負担(補償)する制度です。改正会社法は、会社が役員等との間で締結する補償契約について、補償契約の内容を決定する手続や補償契約に基づき補償する費用等に関する規定を設けました。
補償契約によって会社が補償できる範囲は限られていますが(たとえば株主代表訴訟で敗訴した場合の損害賠償責任については除外)、争訟費用(たとえば弁護士費用)については広く補償の対象となりますので、まさに「提訴リスク急増の時代」にはピッタリです。改正会社法は社外取締役が一定の要件のもとで業務を執行することも認めていますが、会社補償契約は、このような社外取締役の積極的な活動を支えることにもなりえます。
D&O保険も争訟費用を補填しますが、保険金が下りるまで時間を要するケースもあり、スピーディーな支払いが期待できる会社補償制度にはそれなりのメリットがあります。いわばD&Oと会社補償契約は相互補完機能を発揮する、といっても過言ではありません。D&O保険の免責事由が比較的緩やかにに認められている(たとえば善管注意義務違反となることを認識しながら経営判断に至ったケースには保険は下りない等)ところからみても(金融・商事判例1628号12頁以下 東京高裁判決令和2年12月17日判決)D&O保険だけでは安心できない、というのも偽らざる心境です。海外からの集団訴訟の弁護士費用なども、保険金が出るのかどうか微妙です。
また、「そうはいっても、今まででも実務的には契約を締結していなくても会社補償は可能とされてきたんだから、あらためて契約を締結する必要はあるの?何か問題が発生してから締結すれば足りるんじゃない?」と私は安易に考えておりました。しかし、上記スクランブルを読む限りそんな甘いものではなく、これからは会社法上の補償契約を締結していない限りは、補償は困難になるのではないか、とのこと。最近の会社法セミナーではあたりまえに解説されているのかもしれませんが、勉強不足の私は「ええ!?」と驚いてしまいました。
要は会社・役員間の委任契約(任意契約)の内容について、民法650条3項(役員に過失がない場合に弁護士費用等を会社に請求できる根拠規定)は任意規定なので、役員に過失がある場合でも民法の特約として会社が弁護士費用を補償できると(個々の事案ごとに)解釈することが可能だったわけですが、改正法によって会社補償契約の内容を決定する手続き(取締役会の承認)や補償できる範囲が条文で明確になったので、民法650条3項と異なる内容の補償(特約)を認めることは委任契約の解釈としてはとりえない、というものです。
これが異論の余地なく絶対正しいとまでは申し上げる自信はありませんが、会社法上の会社補償契約はこれまで実務で行われていた民法650条による補償を制度化したもの、もともと利益相反的な契約、といった制度趣旨を前提とすれば、たしかに裁判官がこのように判断してもおかしくないように思います。ということで、社外取締役、社内取締役、監査役等の皆様にとって、健全なリスクテイクを支えるためのインセンティブとして、会社補償契約を会社法上のルールに従って締結することは上場会社のトレンドになるのではないかと。外部から経営者を連れてきたり、優秀な社外取締役を招くためにも「うちの会社では補償契約を締結することがルールになっています」と説明できそうです。
もちろん、補償費用の支払いにあたっては、モラルハザードを防ぐための措置も必要ではありますが、株主や会社第三者からの訴訟提起、行政機関からの法的手続きから身を守り、役員としての「敗者復活戦」の機会を確保することは、これからの上場会社にとって「攻めの経営」のためには不可欠の経営環境ではないでしょうか。
私利私欲を追求するような経営判断は論外ですが、失敗を許容できる組織風土はとても重要だと思います。上場会社の役員の皆様におかれましては、ぜひとも御社の顧問弁護士さんと相談のうえ、会社補償契約締結の必要性についてご検討されてはいかがでしょうか。
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コメント
師走を前に、「立憲」の文字を党名に入れている野党第一党から4人の党首選挙候補者が顔を揃えた報道に触れましたが、それぞれを支持する労働組合や諸団体の類いが今後どんな様相を展開するのか?と興味を抱きつつ、政治及び立法にどの様な視線を注いで行くのか?と思っています。与党政府の施策に疑問:くすぶり続ける企業からの不満を解消出来るのは、一体いつの事になるのでしょう。
コロナ問題と、企業不正等の荒波に揉まれつつ、多くの人は法治国家という下で生計に苦心する昨今、「わずか一日の議員在籍に百万円余の文書費支給」問題の法改正すら「スッタモンダ」が続いている国政を眺めつつ、企業各社及び諸団体はどの様な経営判断:舵取りをしていくのでしょう。
海の向こうでは、メジャーリーグで20代の大谷選手が、失敗を恐れず取り組んだ「二刀流」でMVP受賞の快挙を成し遂げ、日米の多くの人に生きる希望を与えたり、北欧の少女が、大のオトナが寄って話し合っているCOP26の内容に不十分だと唱えて、多くの若者の支持を得ているのに、幾つかの国内企業(オトナ達)は、ガバナンスに程遠い惨状を、株主はじめステークホルダーに曝け出し続けています。
山口先生の本エントリー内の「D&O保険」関連の文章を拝読中の下、
3つに分社化するTOSHIBA社や、「(銀行の)システム軽視も甚だしい」と金融庁に指摘されトップの引責辞任になった、みずほFGなど(良好な企業経営をしている他の会社に対し)国内ビジネス界では、先行きの不透明さや、不安を煽る会社:経営者が後を絶ちません。
(20代の若者や、北欧の女子高生よりはるかに多くの学識と人生経験をしている筈のオトナ達が、何故こうも不祥事や社会を混乱させる愚挙を続けるのか?…)
令和元年改正会社法はじめ、ビジネス法務の存在に異を唱える訳ではありませんし、法曹界の現状を否定こそしませんが、僭越ながら、歯車の空回りの様なケースも少なくない(?)世情との乖離に近い?…棋界の新たなタイトルホルダー:藤井青年に、良質な「次の一手」を学ばなければならないかも?
国政に携わる人達は日々、良き立法立案に苦心し、知恵を絞っているでしょうし、法曹界関係者も同様でしょう。
けれど、例えば脱石炭関連の法整備やインフラ構築など…それらが(今現在に至るまで)正常に展開していれば、JAPANの産業の雄:自動車/TOYOTA社のトップが、わざわざ事故/ケガのリスクを負ってまで、自らレース場で水素エンジンの必要性をアピールしなくても済むのでは?と思うのは私だけでしょうか。
現存する法令の遵守と有効活用は確かに重要です。けれど、それだけで良いのでしょうか…?
社外取締役、社内取締役、監査役等の肩書きを持つ皆様が、真の良好な「師走」と来年を迎える為に、今一度、私利私欲的保身に走る輩の抑制と絶滅を続けて頂き、時には画期的な「一手」を投入しつつの、良質な社会形成の構築とけん引を…と願っています・・・。
投稿: にこらうす | 2021年11月22日 (月) 14時48分