« 2021年11月 | トップページ | 2022年1月 »

2021年12月29日 (水)

社外取締役受難の時代到来か-商船三井によるダイビルへのTOB

コーポレートガバナンス改革も「形式から実質へ」と言われて久しいですが、昨日(12月27日)の日経ビジネス電子版「商船三井のダイビルTOBに異論『副業・不動産』に統治のメス」を読みますと、独立社外取締役も会社経営陣と真摯に向き合わなければ「提訴リスク」を負う時代になったのでは、と思わざるを得ないですね。機関投資家の方々の意見も正論だけに逃げるわけにはいかないはず。

ご承知のとおり商船三井が上場子会社であるダイビルにTOB(株式公開買い付け)を実施しており、これにダイビルが賛同表明をしているわけですが、AVI、ニューバーガーバーマン、オアシス等複数の海外投資家から異論が相次いでいます。商船三井としては長らく指摘されていた「親子上場」問題の解消を狙ったものですが、買い付け価格にダイビルが保有する不動産の「含み益」が反映されていないという不満があり、ダイビルの特別委員会の説明にも納得がいかない、とのこと(ダイビルの賛同表明に関するリリースはこちら、ニューバーガーバーマンの声明はこちらです)。

上場子会社であるダイビルの財務・法務アドバイザーには大手証券会社、著名大手法律事務所等がついているだけでなく、独立社外役員(社外取締役、社外監査役-企業法務で著名な法律事務所の番頭格の方も含まれています)で構成されている特別委員会も、著名法律事務所やフィナンシャルアドバイザーの支援のもとで活動しており、フェアネスオピニオンも取り付けた上で、実際にも「2000円は安い」と商船三井側に申し入れて2200円まで買付価格を上げた経緯もあります。ダイビル側としては、おそらく意思形成プロセスの適正性はこれ以上ないほどに万全を期して賛同表明に至ったものと思われます。

ただ、それでもダイビルの非上場化にあたっては、(たとえ会社運営は継続するとしても)多数の不動産を保有しているがゆえに「修正簿価純資産法」も加味したうえでの企業価値算定が妥当ではないか、三井不動産が東京ドームを買収した際も、不動産の含み益を評価していたではないか、という機関投資家側の意見が根強く、これに特別委員会側が価値算定の理由を合理的に説明できなければ納得が得られないということで、厳しい対応を迫られています。機関投資家のこのような声は一部の個人株主の意見にも反映される可能性があるため、(たとえ機関投資家は提訴まで至らないとしても、個人株主による)価格決定申立事件や株主代表訴訟等の提訴リスクも浮上しますね。

今回はたまたま親子上場の解消が問題となっていますが、独立社外取締役が(社内取締役の)利益相反状況の中で、独立的な意見形成を図らなければならない場面はとても増えているように思われます。敗訴リスクの回避という意味であれば、プロセス重視の発想でなんとか乗り切れそうですが、本件のように(社内の役員の力を借りずに)判断理由の中身を説明しなければ納得されない、ということになりますと、有事対応だけでなく、平時から積極的に役割を果たしているかどうかが問われることになります。

今回のダイビル株式へのTOBは、東証新市場への移行を目前に控えて「お飾り社外取締役問題」に対して警鐘を鳴らす一件ではないかと。いやいや、私自身も他人事ではないので、自戒を込めて今後の進捗状況を見守りたいと思います(もちろん、ダイビルの特別委員会を構成する社外役員の方々は「お飾り社外役員」ではございません-私のよく存じ上げている方も含まれております('◇')ゞ)

| | コメント (0)

2021年12月24日 (金)

日経「企業が選ぶ弁護士ランキング2021」にて、危機管理部門3位に選出していただきました。

昨日の三菱電機ガバナンスレビュー委員会報告書(第一報)の公表・記者会見を終えて、少しだけ「中休み」の時間がとれましたので、年末年始にブログを再開したいと思っております。少し遅くなりましたが、今週月曜日(12月20日)の日経朝刊にて「企業が選ぶ弁護士ランキング2021」が掲載されておりまして、3年ぶりに3位(危機管理部門)に選出していただきました。ちなみに電子版のほうは企業+弁護士によるランキングで4位となりまして(これは組織票を持たない私の宿命でございます)、こちらも併せて投票いただいた皆様に厚く感謝申し上げます(本当にありがとうございました!)。

記事にもありますように、今年は大きな企業(上場、非上場含め)の調査委員会(正確には評価委員会も含まれている)の委員長を3社務めましたが、東京の大手法律事務所の先生方との連携でなんとかここまで大過なく仕事を進めることができました。1年の半分くらいは「委員長!」と呼ばれていたので、そのように呼ばれることに慣れていく自分に若干コワさを感じております。現在務めております三菱電機のGR委員会(委員長)のお役目も3月か4月ころまでは続きそうなので、委員・委員補佐の皆様とのチームワークで、これからも頑張ってまいります<(_ _)>。

ところで全然話は変わりますが、本日(24日)午前11時に日経電子版(有料版)で配信された「関西スーパー争奪の教訓 裁判招いた株主以外の意外な票」はとても興味深いですね(同日午後、記事の見出しが「関西スーパー争奪の教訓 議決権行使、ある株主の反省」に修正されました)。裁判が確定し、オーケーさんが株売却に動く中で、本件への世間の関心が薄れていることは間違いありません。しかし、この記事にあるような状況は私が最も懸念していたケースであり、また、オーケー側も「(賛成したい立場の株主の真意が尊重されるのであれば)否決したい立場の株主の真意と外形的な投票行為との齟齬はどうするのか」と反論していましたから、記事のようなケースで株主の真意を会社側がくみ取っていればどれほど投票結果に影響が出ていたのか、知りたいところです。

| | コメント (1)

2021年12月17日 (金)

ESGをめぐるビジネス上の諸問題への対応(セミナーのご紹介)

いつもタイムリーな話題で「今年はどんなテーマで開催されるのだろう」と気になるCSR普及協会さんが、来年1月25日にこちらのセミナーを開催するそうです(昨今、当ブログで一番取り上げるテーマです)。「やっぱり、そうだよなア」と思ったので、ご紹介いたします。

ESGをめぐるビジネス上の諸問題への対応(2020年1月25日14:00~17:00 WEBセミナー)

近年、ESGについては、環境問題だけでなく、人権問題をきっかけに企業がサプライチェーン・商品供給の見直しが迫られるなど、ビジネスと人権をめぐる問題がクローズアップされる機会が増えています。(中略)本セミナーでは、ESGをめぐるグローバルな議論にも精通し、ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会の構成員である登壇者による基調講演とともに、サプライチェーンを中心にビジネスと人権をめぐる問題に取り組んでおられる企業担当者、弁護士をパネリストとして、ESGをめぐる現時点での状況の整理と共に、今後、国内外において検討・留意すべきビジネス上の諸問題、内部統制について議論いたします。

とのこと。基調講演をされる第一生命ホールディングスの銭谷さんは、私も面識がありますが、歯切れがよい語り口でメディアでもESG関連のご発言をお見かけします。日経ニュースでは「ESGの光と影」として、ようやく「影」の部分も取り上げられるようになりましたが、まさに「投資家から見たESG経営の現在地」を理解するたいへん良い機会になりそうですね。パネルディスカッションでは、銭谷氏に加え、実務家の立場からNECの方にもご参加いただき、普及協会の主要メンバーの方々とともにESGと内部統制に焦点をあてて討論が行われるそうです。

当ブログで先日ご紹介した「D&IR」誌の拙稿でも述べましたが、「ビジネスと人権」のテーマはいろんな切り口があります(企業価値向上との相関関係の検証、AIと人権-「カネ」につなげるための技術開発と人権思想との調和、経済安保-国家協働による企業規制、官民連携-共助の精神と新しい資本主義、巨大企業規制-グローバル企業への競争法の活用等)。また、日本ではソフトローとして活用されるのか、ハードロー化するのか、というあたりも(政治との絡みもありますが)最近は気になるところです。

どの切り口から取り上げるのか、明確にしなければ議論が総花的なものになってしまって、企業実務に役立たないように(私的には)考えています。おそらく、登壇者の雰囲気では(人権問題への配慮が)企業価値向上につながるのかどうか、といった視点が中心になるものと思いますが、ぜひ実り多いシンポが開催されることを期待しております。ぜひ、ご興味のある方は、有料ではございますが(2,000円)ご視聴されてはいかがでしょうか。

| | コメント (0)

2021年12月16日 (木)

HISグループ補助金不正問題について

この2か月ほど、東京・大阪間を往復しているうちに、すっかりブログネタから遠ざかってしまいました。💦10日間もブログの更新が滞りましたが、病気とか元気がなかったからということではございませんので、どうかご安心を(誰も心配してない?)。

とくに関西スーパーの株式交換差止仮処分の一連のネタは、気が付いたら最高裁の決定が出てしまっており、完全に法務の話題から取り残されてしまっております( ;∀;)。ただ、こちらのエントリーでも少し書きましたが、日経インタビューによるとオーケーは2023年にも関西に大量出店するとのことですが、オーケーの存在感(脅威を含めて)をこれほどまでアピールした一連の裁判は、同社の企業価値をかなり高めたのではないでしょうか。

そんな中でも、ひとつだけ気になるのがHISグループ会社による補助金不正受給問題です。これだけ名門の企業(グループ会社)で起きたとんでもない問題の発覚ということで、調査委員会を立ち上げて説明義務を果たすことは当然だと思うのですが、調査委員会の構成をみますと社内CFOの役員さん、社外取締役の方が委員として含まれています。

うーーーん、同社の現状だと完全に利害関係のない弁護士、会計士による「日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会」の設置は必須のように思えるのですが(何か特別な事情があるのでしょうか、たとえばまだ不正行為の全容が把握できていないとか、とりあえず決算への影響についてのみ把握するため、とか)。。。もちろん、就任された方々は中立公正な立場で調査業務にあたるであろうことはよく理解できるのですが、「社外役員が選定した第三者委員会委員のみで構成される」という見栄えがないと、なかなか公表される事実をステークホルダーに信用してもらえないのではないかと、老婆心ながら思った次第です。

| | コメント (0)

2021年12月 6日 (月)

企業不祥事・調査委員会による「再発防止策の提言」には限界がある(と思う)

いよいよ電機屋さんのガバナンスレビュー委員会の仕事も前半のヤマ場を迎えておりまして、平日にブログを更新することはほぼ不可能な状況です。ということで、日曜日に少しだけ更新させていただきます。

少し前の話になりますが、11月29日の日経朝刊「法税務面」に「東芝報告書、3度目の『喝』-ガバナンス強化委員会、企業倫理に反する」と題する特集記事が掲載されていました。同記事では、2020年7月の東芝・定時株主総会「一部株主の議決権行使への不適切な圧力問題」について、2021年2月、同5月、そして11月と、3つの調査報告書が公表されており、それぞれの調査報告書の特色や有識者の評価結果が示されています。

お読みになった方はすでにご存じかと思いますが、3つの報告書の中では、この11月に公表されております「ガバナンス強化委員会報告書」が最もバランスのとれた内容ではないか、との意見が多いようです。ただ、そのガバナンス強化委員会報告書においても、再発防止策の提言内容については「話を一般化・抽象化しすぎで当たり前のことを並べている」「経営陣が具体的に何をすべきかわかりにくい」と有識者の方々から批判的な意見が述べられています。たしかに、この東芝報告書に限らず、第三者委員会が公表する調査報告書において、再発防止策の提言が秀逸と評価されるものはあまりみかけません。

自己弁護に近い話になりそうですが、原因究明については「不祥事発生の根本原因に迫る」という意味において、かなりの労力をかければそれなりに達成できる可能性があります(おそらく、その達成度合いは報告書を精査すれば読者の方々にも理解してもらえるものと思います)。ただ、原因分析に説得力があるとしても、再発防止策の提言内容にも説得力があるとは限らないと考えています。

日弁連ガイドラインに完全に準拠した第三者委員会報告書であれば、最終起案の内容を、委員が会社側に伝えることはないと思いますが、実行困難な再発防止策を提言しても「絵に描いた餅」となってしまうので、多くの調査委員会では、あらかじめ再発防止策を提言する前に、その防止策の実行可能性を会社側と協議することが多いと思います。そこですんなりと防止策が決まればよいのですが、そうはいかないケースもあります。

というのも、不祥事発生を防止する(発生したとしても早期に発見する)ための実践方法は、たしかに不祥事の再発を防止するためには役に立つかもしれませんが、当該実践方法を組織に導入することで、当該企業が20年、30年と事業を伸ばしてきた長所を否定する可能性もあるからです。ときどき再発防止策について会社側と議論していても、「不祥事の防止には有用と思うが、それでは営業活動に多大な支障が出てしまう」「それでは取引先企業に多大な負担を強いることになり、取引先が応援してくれる信頼関係を喪失させてしまう」といった反対論が噴出します。

つまり、不祥事発生時の再発防止策は、会社の良い面も悪い面もすべて理解したうえで「社員が前向きに取り組めるように」作りこむ必要があるわけでして、会社のことを良く知らない調査委員会メンバーが、実現可能な具体性を持った再発防止策を提示することは至難の業ではないかと思うのです。会社としては、むしろ調査委員会には徹底した原因分析までを委嘱し、これをどのように再発防止に結び付けるかは、社内の議論に委ねる姿勢のほうが良いのではないか、と考えています。

| | コメント (1)

« 2021年11月 | トップページ | 2022年1月 »