社外取締役受難の時代到来か-商船三井によるダイビルへのTOB
コーポレートガバナンス改革も「形式から実質へ」と言われて久しいですが、昨日(12月27日)の日経ビジネス電子版「商船三井のダイビルTOBに異論『副業・不動産』に統治のメス」を読みますと、独立社外取締役も会社経営陣と真摯に向き合わなければ「提訴リスク」を負う時代になったのでは、と思わざるを得ないですね。機関投資家の方々の意見も正論だけに逃げるわけにはいかないはず。
ご承知のとおり商船三井が上場子会社であるダイビルにTOB(株式公開買い付け)を実施しており、これにダイビルが賛同表明をしているわけですが、AVI、ニューバーガーバーマン、オアシス等複数の海外投資家から異論が相次いでいます。商船三井としては長らく指摘されていた「親子上場」問題の解消を狙ったものですが、買い付け価格にダイビルが保有する不動産の「含み益」が反映されていないという不満があり、ダイビルの特別委員会の説明にも納得がいかない、とのこと(ダイビルの賛同表明に関するリリースはこちら、ニューバーガーバーマンの声明はこちらです)。
上場子会社であるダイビルの財務・法務アドバイザーには大手証券会社、著名大手法律事務所等がついているだけでなく、独立社外役員(社外取締役、社外監査役-企業法務で著名な法律事務所の番頭格の方も含まれています)で構成されている特別委員会も、著名法律事務所やフィナンシャルアドバイザーの支援のもとで活動しており、フェアネスオピニオンも取り付けた上で、実際にも「2000円は安い」と商船三井側に申し入れて2200円まで買付価格を上げた経緯もあります。ダイビル側としては、おそらく意思形成プロセスの適正性はこれ以上ないほどに万全を期して賛同表明に至ったものと思われます。
ただ、それでもダイビルの非上場化にあたっては、(たとえ会社運営は継続するとしても)多数の不動産を保有しているがゆえに「修正簿価純資産法」も加味したうえでの企業価値算定が妥当ではないか、三井不動産が東京ドームを買収した際も、不動産の含み益を評価していたではないか、という機関投資家側の意見が根強く、これに特別委員会側が価値算定の理由を合理的に説明できなければ納得が得られないということで、厳しい対応を迫られています。機関投資家のこのような声は一部の個人株主の意見にも反映される可能性があるため、(たとえ機関投資家は提訴まで至らないとしても、個人株主による)価格決定申立事件や株主代表訴訟等の提訴リスクも浮上しますね。
今回はたまたま親子上場の解消が問題となっていますが、独立社外取締役が(社内取締役の)利益相反状況の中で、独立的な意見形成を図らなければならない場面はとても増えているように思われます。敗訴リスクの回避という意味であれば、プロセス重視の発想でなんとか乗り切れそうですが、本件のように(社内の役員の力を借りずに)判断理由の中身を説明しなければ納得されない、ということになりますと、有事対応だけでなく、平時から積極的に役割を果たしているかどうかが問われることになります。
今回のダイビル株式へのTOBは、東証新市場への移行を目前に控えて「お飾り社外取締役問題」に対して警鐘を鳴らす一件ではないかと。いやいや、私自身も他人事ではないので、自戒を込めて今後の進捗状況を見守りたいと思います(もちろん、ダイビルの特別委員会を構成する社外役員の方々は「お飾り社外役員」ではございません-私のよく存じ上げている方も含まれております('◇')ゞ)