企業不祥事・調査委員会による「再発防止策の提言」には限界がある(と思う)
いよいよ電機屋さんのガバナンスレビュー委員会の仕事も前半のヤマ場を迎えておりまして、平日にブログを更新することはほぼ不可能な状況です。ということで、日曜日に少しだけ更新させていただきます。
少し前の話になりますが、11月29日の日経朝刊「法税務面」に「東芝報告書、3度目の『喝』-ガバナンス強化委員会、企業倫理に反する」と題する特集記事が掲載されていました。同記事では、2020年7月の東芝・定時株主総会「一部株主の議決権行使への不適切な圧力問題」について、2021年2月、同5月、そして11月と、3つの調査報告書が公表されており、それぞれの調査報告書の特色や有識者の評価結果が示されています。
お読みになった方はすでにご存じかと思いますが、3つの報告書の中では、この11月に公表されております「ガバナンス強化委員会報告書」が最もバランスのとれた内容ではないか、との意見が多いようです。ただ、そのガバナンス強化委員会報告書においても、再発防止策の提言内容については「話を一般化・抽象化しすぎで当たり前のことを並べている」「経営陣が具体的に何をすべきかわかりにくい」と有識者の方々から批判的な意見が述べられています。たしかに、この東芝報告書に限らず、第三者委員会が公表する調査報告書において、再発防止策の提言が秀逸と評価されるものはあまりみかけません。
自己弁護に近い話になりそうですが、原因究明については「不祥事発生の根本原因に迫る」という意味において、かなりの労力をかければそれなりに達成できる可能性があります(おそらく、その達成度合いは報告書を精査すれば読者の方々にも理解してもらえるものと思います)。ただ、原因分析に説得力があるとしても、再発防止策の提言内容にも説得力があるとは限らないと考えています。
日弁連ガイドラインに完全に準拠した第三者委員会報告書であれば、最終起案の内容を、委員が会社側に伝えることはないと思いますが、実行困難な再発防止策を提言しても「絵に描いた餅」となってしまうので、多くの調査委員会では、あらかじめ再発防止策を提言する前に、その防止策の実行可能性を会社側と協議することが多いと思います。そこですんなりと防止策が決まればよいのですが、そうはいかないケースもあります。
というのも、不祥事発生を防止する(発生したとしても早期に発見する)ための実践方法は、たしかに不祥事の再発を防止するためには役に立つかもしれませんが、当該実践方法を組織に導入することで、当該企業が20年、30年と事業を伸ばしてきた長所を否定する可能性もあるからです。ときどき再発防止策について会社側と議論していても、「不祥事の防止には有用と思うが、それでは営業活動に多大な支障が出てしまう」「それでは取引先企業に多大な負担を強いることになり、取引先が応援してくれる信頼関係を喪失させてしまう」といった反対論が噴出します。
つまり、不祥事発生時の再発防止策は、会社の良い面も悪い面もすべて理解したうえで「社員が前向きに取り組めるように」作りこむ必要があるわけでして、会社のことを良く知らない調査委員会メンバーが、実現可能な具体性を持った再発防止策を提示することは至難の業ではないかと思うのです。会社としては、むしろ調査委員会には徹底した原因分析までを委嘱し、これをどのように再発防止に結び付けるかは、社内の議論に委ねる姿勢のほうが良いのではないか、と考えています。
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コメント
(山口先生の本エントリー内の「企業」は「大学」にも当てはまる?)
先日の読売朝刊=東京地検特捜部に所得税法違反(脱税)容疑で逮捕された現職トップ…の報道にも、長年トップに君臨してきた人物の側近が「イエスマン」で固められて来た事が不祥事の原因の一つと記されていました。
組織が巨大になり過ぎて、そのトップが不正な命令を下す…けれど側近がそれを良しとしない体制が構築されていれば、悪事は未然に防げる可能性は残る…と思いたい。
上記は、日本最大級の私学:日本大学で先月発生した逮捕事例/報道ですが、創業者でもない人物が、単にアマチュア相撲で強かっただけ(?)で、国技の二文字で語られる角界の食文化や伝統を巧みに利用した面もある様な、大学の私物化と金銭疑惑に、もはや日本大学に自浄力は無いと論じられても否定出来ないのではないでしょうか。少なくとも、「日本」という二文字をつける大学名称を返上、二度と使わせない事を前提に再発防止策を模索するべき…かと。ただ、逮捕された当事者を排除したからといって、残された関係者の息のかかる「再発防止の提言」等では、山口先生も懸念される、改善の限界もあると思います。
上記朝刊では、法学部の学生にも取材=「(かつてのアメフト事件含む?)一連の事件で、世間からのイメージが悪くなり、大学名を聞かれてもなるべく言わない様にしている…」と取材に応じています。今後どんな素晴らしい再発防止策:提言が構築/展開されようと、「日大」の名称が残るかぎり、いつかはやがて、(忘れた頃に)同類の不祥事再発…となるかと。
私学経営もビジネス…ましてや私学助成金や税制優遇を受けている立場なら尚更、企業各社の不祥事と同等かそれ以上の再発防止策が求められている筈なのに、何故か、この国で発生する悪事の類いを正す「不祥事発生時の再発防止策」には、決め手に欠ける点がつきまとってきました。
(「令和は、(産も官も学も)不祥事多発の時代」だと、次世代に汚点を残さない意味でも…)
今年/令和3年に発足した新政権のガバナンス熱意が冷めないうちに、従来の概念から飛翔する発想で、「産官学」の協同体制での再発防止策が、『喝』ではなく『あっぱれ!』という標記で、日経や読売等の紙面に記載される事を願っています・・・。
投稿: にこらうす | 2021年12月 6日 (月) 10時42分