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2022年1月17日 (月)

企業における人権対応の重要課題は「救済メカニズムの実践」にある

1月15日の日経デジタル記事(法務・ガバナンス)に「取引先の人権リスク調査、実施4割弱 質には課題も」との見出しで、取引先などでの人権侵害のリスクを調べる人権デューデリジェンス(人権DD)を実施する企業が増えていることが報じられています。国内主要企業への日本経済新聞社の調査では、すでに回答企業の4割弱が人権DDを実施しているそうですが、有識者からは「実施率や調査の質の点で課題は多い」と指摘する声も多いとのこと。

ご承知のように、欧米で人権DDを求める法令が相次いでおり、日本企業も対応は急務ですが、「やらされ感」による対策がほとんどではないかと思います。国連指導原則、OECD多国籍企業行動指針、ILO多国籍企業宣言等をもとに対策を検討するのであれば、対策の重要ポイントは(1)人権方針の策定、(2)人権デューディリジェンスの実施・運用、(3)救済メカニズム(苦情処理・問題解決制度)の構築・運用ということになりますが、このうち(1)と(2)は「やらされ感」でもなんとかなりそうですが、(3)については本気で人権への取り組みが持続的成長につながると考えないとむずかしいと思います。デューデリジェンスの結果として、調達先の問題行為が疑われた場合に、その排除へのイニシアチブをとるだけの勇気があるのか、ないのか。

上記日経記事で紹介されていた先進的な取組みを行う5社のうち、この(3)まで「やっています!」と宣言しているのは花王さんだけのように読めました(インドネシアのパーム油農園労働者からのスマホによる苦情受付を2022年から開始)。おそらく花王が始める「苦情受付」までやらないと国連の指導原則にある「マルチステークホルダー・エンゲージメントの実践」とは評価されないのではないでしょうか。

もし機関投資家や銀行が(フィデューシャリー・デューティーの一環として)企業のESG評価を行うのであれば、企業が(3)について言及しているかどうかを(同業他社との比較において)チェックすることで効率性を向上させるような気がいたします。結局のところ「人権DDをやっています」と開示しても、「ではDDの結果として、問題があればどうするのか」というところへの答えが用意されていなければ、DDの本気度が伝わらないと思います。

 

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