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2022年2月28日 (月)

有斐閣「ジュリスト」2022年3月号に拙稿を掲載していただきました。

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あいかわらず本業では調査・検証作業が続いておりまして、現地調査等の準備に忙しく、なかなかブログの更新を行うまとまった時間(ブログネタをインプットする時間)がとれません。<(_ _)>コロナと並んで地政学的リスクが顕在化しておりますが、みなさま方の会社でもご苦労されているものと拝察いたします。

さて、最近は告知が多くて恐縮です。有斐閣「ジュリスト」2022年3月号の特集は「コンプライアンスの最前線」でありまして、私も「不祥事に向き合う企業姿勢-ガバナンスと内部統制の視点」と題する論稿を掲載していただきました。ひごろの企業不祥事予防や有事対応支援の業務から感じていることを整理して企業実務家の皆様向けに解説したものです。第三者委員会の効用については、できるだけ最新事情などにも触れているつもりですが、皆様方にご参考になれば幸いです。全国書店にて25日より発売されておりますので、ご興味がございましたらぜひご一読くださいませ。

ちなみに私個人としては、特集記事のうち、なんといっても座談会記事「変化の時代のコンプライアンス」がおもしろかったです。佐々木清隆氏、野村修也氏、松木和道氏、国廣正氏、いずれの方にも(自らの体験に基づいて)企業コンプライアンスの歴史を語る資格があるので共感できるところが多いです。もちろんパネリストの間で考え方の異なる点もあるのですが、いずれの意見も古さを感じさせず、先の読めない経営環境の中でも参考にできるヒントがたくさんありました。

 

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2022年2月22日 (火)

人材価値の開示は本当に投資判断に資するものだろうか?

日経新聞2月19日朝刊に「人材価値の開示、投資判断を左右-日米欧、年内にも新基準」なる記事が掲載されており、上場会社には多様性、社内教育、離職率等の開示が求められるようになる、と報じられています。企業価値向上のためには無形資産に光を当てる必要があるということで「人材」の価値を評価する必要があるそうです。

私見ではありますが、「人材」は「能力」だけでは企業価値向上に結び付かないと思います。「能力」×「ヤル気」=パフォーマンスであり、「ヤル気」を出す組織がなければ「良い人材」であればあるほど「離職率」の高さに結び付くのではないかと。その「ヤル気」ですが、私は「人材」のネットワーク(「助けて」と言える環境)と当該企業の組織風土だと考えます。つまり、いずれも無形資産である「人材」「ネットワーク」「組織風土」が評価基準となることで、はじめて無形資産が投資判断を左右するものになると思います。

たとえば上記記事では、この夏にも情報開示に関する指針が公表される予定だそうで、「女性や外国人社員の比率」「中途採用者に関する情報」「リスキリング等の社員教育」「ハラスメント行為の防止策」などが開示対象になる見込みのようですが、外国人機関投資家が求める人材開示は「従業員の給与水準」「従業員教育のコスト」「事故件数」「離職率」といった他社比較が可能な基準であり(英国シュローダー社)、やや開示対象に違いがあります。

そもそも「人材価値」に投資家が注目しているのは、新型コロナや気候変動、地政学(経済安保)に象徴されるVUCA(不確実性)の時代における企業の経営環境適応力を知りたいわけですから、企業の持続的成長にとって「人材の多様性」を重視するか、「ヤル気を促すこと」を重視するか、そこは企業と投資家の対話によってすり合わせをしていくしかないと考えています。おそらく「人材価値の開示」はそのためのネタになるはずです。

ただ、本当に「人材価値」を開示するのであれば、まずは自社の現状認識からスタートしなければ説得力がないと思います。なぜハラスメントが多いのか、離職率が高いのか、理系大学生からの就職希望ランキングが低いのか。。。だからこそ、どのような人材を育成・採用したいのか、そのような施策として何をしているのか、といった流れがないとエンゲージメントのネタにもならないのではないかと。どこかの企業の「好事例集」が公表されて、これを参考に・・・といった(経営企画や人事部が忙しくなるだけの)流れになるのだけは避けたいですね。

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2022年2月16日 (水)

急速に増え続ける不適切会計事案(まだまだ増える可能性あり)

1月29日リリースのこちらのエントリーでも書きましたが、予想どおり2月に入って上場会社における会計不正事案(不適切会計事案)が次々と公表されております。最近1週間で6社、すでに2月に8社の不適切会計事案が公表されていますね。ここまで急速に増えますと、不正調査を担う専門弁護士、会計士の数が不足してしまうのでは、と危惧しております。さすがに掛け持ちはできません。

2年前から当ブログでも警鐘を鳴らしておりましたが、コロナ禍において会計監査(会計監査人による監査及び監査役監査)が明らかに傷んでしまったので当然といえば当然です。ここ2年ほどご相談を受けていた状況からしますと、今後はさらに規模の大きな上場会社の会計不正事案が発覚することになりそうです。2020年に無理して定時株主総会を6月に断行してしまった会社が多かったので、「ツケ(しわ寄せ)が監査に回ってしまった」結果だと思います(これは「株主への配慮から総会を延期できなかった」ことによりますので、やむを得ないところかと)。

これから社内で会計不正事案が判明する上場会社としては、素直に会計監査人に報告・相談をして、東証の指示どおりに開示すべきです。無理な解釈をしたり、会計監査人に黙ってコソっと修正することで傷口を広げないことが重要です。「経営者関与」「組織ぐるみ」の会計不正事案となりますと、株価への影響が大きく、株主に多大な迷惑をかけることになります(提訴リスクも高まります)。社外役員(社外取締役、社外監査役)さんにも、青天の霹靂とならないように、タイムリーに不正判明の事実を伝えて、できれば対応を主導していただいたほうが「株主受け」は良いと思います。

本件はいろいろと書きたいことがありますが、まだまだ(私が委員長を務めております)委員会の活動が続いておりますので、また少し時間ができたときに自説を述べたいと思います。

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2022年2月14日 (月)

取締役会改革-社長の選解任・後継者計画の実践で「一番大切なこと」を考える

日本の上場会社において、2021年の改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応は、昨年末のガバナンス報告書の開示でほぼ完了したものと思います。大きな上場会社では、外部アドバイザーを交えて、取締役会の実効性評価を行っているところも多いようですが、気になっておりますのが指名諮問委員会(任意の委員会を含む)の実効性です。

社外取締役が過半数もしくはそれに近い構成となる指名諮問委員会が「社長の選解任」「サクセッションプラン」の中心的役割を占める、ということが「勇ましく」推奨されているわけですが、いざ実践するとなると難題にぶつかります。それは「社長に指名された人はいいけど、指名レースに敗れた人はどうなるの?」「指名レースに敗れた人に、何を言えばいいの?」という問題。

これまでの「なんちゃって指名委員会」であれば、社内慣行をなぞるだけでよかったので、社内に波風が立つこともなく、社外取締役にもストレスが溜まることはありませんでした。しかし「後継者育成計画」を立てて、社内候補を6人⇒3人⇒1人と絞るなかで、指名レースが行われるわけですから、当然のことながら「社長レースに敗れた人」が出てきます。「派閥の論理」や「鶴の一声」によってレースが終わればまだしも、指名諮問委員会の評価によって勝敗が決まるとなると、その敗者となった方にはどうナットクしてもらうのでしょうか。

海外では「経営者市場」がありますので、たとえ指名レースに敗れたとしても、他社のCEOとして活躍する場面もありますが、日本にはそのような市場はありません。かといって「指名レースに敗れた」ということがある程度知られた社内に残ったとしてもモチベーションは上がらないし、年功序列が慣行とされる中で敗者復活戦もないはずです。社長指名レースに残るほどの人は、会社にとっても貴重な人材ですが、そのような方が会社に残るにせよ、去るにせよ、会社にとっては大きな損失ではないかと(とくに最終レースにまで残った人であればなおさらです)。つまり、社外取締役が熱心に職務を遂行すればするほど、(有力な経営人材を失うことによって)企業価値が下がるというジレンマに陥るのではないでしょうか。

もしガバナンス改革に熱心な会社で、そのあたりをうまく対処しているところがあれば、ぜひ教えていただきたいところです。「取締役会改革」という方向性には反対しませんが、社外取締役が期待された役割を果たすためには、その前提となる部分に「地ならし」が必要です。その「地ならし」まできちんと配慮しなければ、やはり取締役会改革は「なんちゃって改革」のままで終わりそうな気がします。

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2022年2月 9日 (水)

社外取締役を「お飾り」にしないための処方せん-ダイバーシティとスキルマトリクス

(2月9日13:35 更新あり)

本日(2月8日)の日経産業新聞に、「お飾りにしない社外取締役の在り方」として、企業法務で著名な弁護士の方のロングインタビューが掲載されていました。経営者の「お友達」を排除するための仕組みや社外取締役が独自に情報収集することの重要性を語っておられましたが、共感できる点が多いですね。「社外取締役が能動的に情報を入手する発想は、従来はあまりなかったが、本来はそうすべきだし、もし怠れば経営責任を問われる可能性も心掛けるべき」との意見は全く同感であります。

先週2月2日、私も(社外取締役として)エンゲージメントのオファーを受けておりました海外の大手機関投資家と1対1でのWeb-Meetingに臨席いたしました(なお、取締役会事務局1名、通訳1名も入りました)。意見交換の内容については詳しくお話できませんが、冒頭「法律資格者であり、ガバナンスに詳しい山口サンと話がしたい」との説明を受け、約80分ほど、ESG経営やガバナンス、今後の「収益を上げるべき事業領域」を中心に対話が続きました。

途中で何度か投資家の要望に対して(生半可な約束は厳禁と思い)「お茶を濁す」場面もありましたが、(次に指名される機会があれば)自身の立場で「ほしい」と考える会社情報を収集し、それを自分なりに咀嚼したうえでの「Yes」「No」を明確にしておく必要があると思いました。また、海外投資家とのエンゲージメントを通じて「なるほど、ダイバーシティやスキルマトリクスはこういう場面で役に立つのだな」と、感じましたね。

投資家は単に社外取締役と話がしたくて貴重な時間をエンゲージメントに使うのではなく、投資家が将来価値判断に必要と考える会社情報を収集し、不足があればそれを「社外取締役に対する行動要請」へとつなげたい、という思惑が強いはずです。取締役会構成員の多様性(ダイバーシティ)が強く要請されるのは、経営面でも、株主による監視の面でも、それぞれの社外取締役が情報収集を能動的に行う場面で初めて活かされる。また、スキルマトリクスがあれば、どの社外取締役にアポイントをとれば有用な意見収集や要望を出せるか、投資家にとってもたいへん便利です。

(追記)ある運用会社の方から「このような視点で社外役員とのエンゲージメントに臨むことは機関投資家に課されたフィデューシャリー・デューティーとして当然」との意見をいただきました。ありがとうございます。

2021年12月末時点における上場会社の「改訂コーポレートガバナンスコードへの対応状況」が1月26日に公表されましたが(東証)、企業の中核人材への多様性確保にコンプライしている1部上場会社は全体の66.8%です。本当に社外取締役が情報収集に熱心であれば、人材の多様性やその開示(スキルマトリクス)は会社経営にとってプラス思考でコンプライできるのではないでしょうか。

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2022年2月 2日 (水)

内部通報認証制度(自己適合宣言登録制度)の見直しについて

すでにご承知の方もいらっしゃるかとは存じますが、消費者庁は、今年6月に改正公益通報者保護法が施行されるにあたり、内部通報認証制度(自己適合宣言登録制度)の見直しを図ることになりました(消費者庁のリリースはこちらです)。これに伴い、現行制度は当面休止されることとなったため、2019年2月より指定登録機関となっていた商事法務研究会は1月末日をもって業務を終了されたそうです(商事法務研究会のリリースはこちらです)。

SDGsへの関心が高まる中で、WCMSマークを取得する予定で頑張っておられた上場会社も多かったと思いますので、検討中の会社の方々はちょっと驚かれたと思います。ただ、改正公益通報者保護法が施行されますと、常用雇用者が300名を超える事業者については、内部公益通報への対応業務に関する体制整備義務が発生し、義務違反には消費者庁による行政処分が明記されています。また、改正法の一部を構成する「指針」も公表されましたので、「内部通報制度の認証」と法規範(およびその解釈)との齟齬を避けるためにも、新たな認証は控えるべき、とされたことが推測されます(あくまでも、私個人の推測です)。

また、私が消費者庁の公益通報者保護制度の実効性検討会の委員を務めていた頃から言われていましたが、通報制度の実効性向上のための施策としては、①認証制度、②民間事業者ガイドライン、③法改正という「三つの矢」で進めましょう、ということでした。このたび、③によって実効性向上を図ることとなりますので、①については「実効性向上の役割を一定程度果たしたもの」として休止する、ということかもしれません。とりあえず「自己適合宣言登録制度」という過渡期の制度でしたので、見直し後は「純粋な第三者による認証制度」を導入することが検討されるかもしれません(もちろん、私個人の推測にすぎませんが)。

いずれにしましても、内部通報制度の充実に向けて、認証制度のむずかしい登録手続きをこれまで担っていただいた商事法務研究会の関係者の皆様には本当に感謝しかありません。(消費者庁との関係があるので難しいのかもしれませんが)3年間の実務をどこかで「公共財」としてご紹介いただければありがたいなぁと(勝手に)思っております。

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