「社外役員特化型D&O保険(会社役員賠償責任保険)」は必要と考える
今年も日本監査役協会の研修講師を担当させていただいておりまして、「攻めと守りのガバナンスを支える会社役員賠償責任保険と会社補償契約」とのテーマで講演いたしました。しかし、この16年間でもっとも低調です(笑)。いつも企業不祥事や有事のガバナンスをテーマにすると満員御礼の日が続くのですが、今年はホントに聴講される監査役員さんが少なくて閑古鳥が鳴いております(´;ω;`)。聞くところによると「サイバー保険」に関連する講演も集客力が低いそうで、会社役員の皆様の「保険や補償ということへの関心」がやや低いことを知りました。
ということで、少しへこみぎみだったのですが、旬刊商事法務の最新号(3月25日号)にて、オリックス グループ人事部報酬チーム兼グループ総務部 担当部長でいらっしゃる山越さんの論稿「社外役員のリスクと特化型D&O保険」を拝読して、「うんうん、そうだよなあ」と少し元気が出ました。業務執行役員とは別に社外役員(社外取締役や社外監査役)だけに特化した会社役員賠償責任保険を締結することも検討する必要があるのではないか、とのご意見はまさにそのとおりかと。
山越さんの上記ご論稿に書かれているわけではありませんが、私が会社役員全体を通して保険や補償契約に関心を持っていただきたいと考えているのは、以下の4つの理由(役員責任をめぐる近時の経営環境の変化)からでして、敗訴リスクはあまり高くなくても、提訴リスクは確実に高まっており、弁護士費用を含めた個人負担についての付保は必須の時代ではないかと思うからです。とりわけ社外役員は「保険に加入しているから安心」「責任限定契約を締結しているからリスクを回避している」では済まないのではないかと。
まずひとつめは「世間を騒がせる企業不祥事の頻発」により、会社自身が自浄作用の一環として不祥事発生当時の役員を提訴することが増えていることです。つぎに国内外でのM&A(組織再編)が急増し、支配権の交代によって旧経営陣が提訴されるリスクが増えていることです(これは上場、非上場にかかわらず役員のリスクです)。3つめにモノ言う株主(機関投資家)が、その背後の実質株主への説明責任を果たさねばならない状況が増えているということ(つまり、どれだけ回収できるかわからないが、役員を提訴して司法判断を仰ぐことで説明責任を果たす、ということ)です。4つめは役員を提訴する株主の「代表訴訟のハードルが低くなってきた」ことです。証拠収集には公益通報が活用されることが増えていますし、原告側訴訟代理人の力量も変わってきたことによるところかと思います。
ほかにも損害賠償債務が「不真正連帯債務」であるがゆえに、責任限定契約は求償権に対抗できないのではないか、といった論点もありますが、ここでは法律論については言及いたしません。いずれにしても、こういった問題に社外役員はどのように対応されているのでしょうか。以前にも書きましたが、私はニッセンホールディングスの社外取締役を退任する際、D&O保険についてはランオフ・カバー条項を付けていただきましたし、さらに念のため会社側と補償契約(役員退任後も一定期間は補償する)を締結しました(幸い、法人が消滅することはなかったですし、リーガルリスクが顕在化することはありませんでしたが・・・)。
大株主から社外取締役が選任されることが増えて、社外取締役や社外監査役も「一枚岩」ではなくなってきた時代となりました。社外役員ではありませんが、会社から(辞任要求を拒否した)常勤監査役さんが損害賠償請求訴訟を提起される事件も最近の判例時報に掲載されています。これだけ取締役会改革が進んでいる状況ですから、役員間や株主との間で意見の食い違いが裁判沙汰に発展することが増えても当然です。したがって会社側の保険料負担で「社外役員だけを被保険者とする会社役員賠償責任保険」を締結することも、約款(社外役員特別枠特約)だけでは対処しきれない部分をカバーするものとして検討する必要があるように思います。また、(社外役員に限った話ではありませんが)この3月総会までに、ネットで確認できるだけでも40社ほどの上場会社(比較的大規模な上場会社が多い)が役員と補償契約を締結していることが確認できますので、会社補償契約の活用も検討すべきです。
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コメント
日露戦争においてJAPANが勝利した大きな要因の一つに、当時の政府が、異国資本の金融機関から(たまたま運良く)軍資金を確保出来た事にあるという史実に触れると、その後の第二次世界大戦〜被曝を経験しての敗戦から這い上がった戦後の経済成長という金字塔も、国内経済は何らかの「無謀な背伸び」を繰り返して来た…というのが実態で、令和の現在、加速度的に、そのメッキが剥がれて来たと、僭越ながら感じる事が増えています。
上場企業の範囲においても、良質な企業を上回る数の「不祥事連発企業」が現存している実情は、純金で出来ていると思っていた仏像が実は真鍮製だったり…と。その企業も内実は、社員全員が悪態をついているのではなく、インテグリティな社員を上回る、一部のデタラメな権力保持者の悪行が、真面目な機関投資家を欺く行為を繰り返して来た末路=現状ではないでしょうか。
一般的に保険と言う商品は、(生保などは)自然災害等の不可抗力に備えるリスクマネジメントの一つですが「(故意の)世間を騒がせる企業不祥事」にも備えなければならない様なビジネス社会を増大させて来た惨状は、悲しい事です。
ただそれらの不祥事も、実は長年の悪しき賜物=形を変えながら組織内に病巣として存在していて、(情報化社会になり)たまたまオモテに見える様になってきただけ…なのかも知れません。
いつの時代も「理想と現実は違う」という力学が働きますが、巨大なダムも、些細な傷穴から崩壊する例えの如く…様々な知見と想像力を駆使して、山口先生が本エントリーで唱えられる「会社役員賠償責任保険」をはじめとする備え=ビジネス潮流を泳ぎ渡る知的工夫が問われていると思っています。
(決して、水をさすつもりではありませんが…)
ただ、仮にどれだけ有事に備えるにしても限界というものがあり…国内各地に現存する原子力発電所に、(表面上は誤射とされる事を含め)隣国からの弾道ミサイルなどで破壊されれば放射性物質が国内に蔓延し、人命や有形無形の財産等も、文字通り元も子も無くなる…ですけど・・・。
投稿: にこらうす | 2022年3月28日 (月) 06時30分