公益通報対応実務と「類型別 不正・不祥事への初動対応」
本日、ある方から興味深い日経記事をご紹介いただき、はじめて日経Think!にコメントを掲載いたしました(有料版購読の方のみですが、日経のこちらの記事になります)。昨年7月に公表されましたUSBメモリー紛失事件に関するBIPLOGY社の第三者委員会報告書の深堀り記事でして、ようやく報告書を読む時間がとれましたので、その内容を参考にしながらコメントいたしました。結論から申し上げますと、この報告書は「委託先会社の社員ではなく(禁止されていた)再委託先の社員であることは尼崎市は知らなかった」と判断していますが、「本当は尼崎市も知っていたのでは?」といった疑いを抱き、そのようなことを述べている関係者の存在も認定しているところは「根本原因」に迫るものとして評価が高いですね。
さて、昨年6月の改正公益通報者保護法施行以来、多くの事業者において体制整備が進んでいるようにお見受けいたします。ところが、その運用にあたっては、まだまだ不備を抱えているところが多いように感じます。とりわけ、深刻な内容の公益通報を受理した場合に、その初期対応を誤り、いわゆる「二次不祥事」を招いてしまった事業者もあるはずです。
そこでおススメの一冊が「類型別 不正・不祥事への初動対応」(森・濱田松本法律事務所 山内洋嗣・山田徹 編著 中央経済社 2023年1月)です。委員会の仕事が終わって、ようやく拝読することができたのですが、アマゾンの高評価どおりで一般企業の管理部門の方にもわかりやすい内容です。情報漏えい、品質不正、会計不正、ハラスメントほか、企業の信用毀損につながりかねない不祥事の端緒にどう対応すべきか、懇切丁寧に解説されています。とくに公益通報への初動対応として、私は参考にすべき一冊ではないかと思いました。USBメモリー紛失事件も含めて、情報漏えい事案の初動対応時には、近時の個人情報保護法対応は必須のプロセスです。密行性と必要な開示のための迅速性のバランスに配慮しなければ、情報元の二次被害、ひいては事業者の二次不祥事を助長することになりかねません。そのようなときに、たとえばアンカーとなる参考書があれば助かりますね。
最近は森・濱田松本法律事務所の弁護士の方々によるご著書といえば「株主提案と委任状勧誘(第3版)」(太子堂厚子ほか著 商事法務 2023年3月)も拝読しておりますが、こちらは仕事との関係で(*'▽')?内容に関するコメントは控えさせていただきますが、敵対的買収(同意なき買収)が急増している証券市場における最新の情報、裁判例なども盛り込まれていてとても参考になります。M&A規制に関するハードロー改正、ソフトロー規範の充実などが話題になっておりますが、実務のど真ん中における身の処し方については、(とくに社外役員は恥をかかないためにも)きちんと勉強しておく必要がありそうです。
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コメント
ご無沙汰いたしております。いつも山口先生のブログを拝読させていただくことを楽しみにしています。また、前職にいたときに、会社でセミナーを行っていただいたりして、何度かお話しさせていただきました。ありがとうございました。
さて、「不正・不祥事への初動対応」のご紹介・宣伝をしてくださりありがとうございます。小生も一部の執筆に関与しましたので、大変有難く存じます。この書籍は、執筆決定から出版までは1年以上の期間を要し、校正だけでも7、8度も実施しましたので、高い評価をしていただいて本当に嬉しく思います。先生のおかげでベストセラーになり多額の印税が入ってきました場合には、お礼としてお食事に招かせていただきたいと思います。
先生のますますのご活躍を祈念いたしております。また、近い将来に先生ご自身の新著を拝読させていただく機会がありますことを期待いたしております。
投稿: 瀧脇 將雄 | 2023年3月14日 (火) 23時40分
どうもご無沙汰しております。そうですね、以前、社内研修でお邪魔いたしました。その節はお世話になりました。危機管理という面で、本書は(お世辞ではなく)本当に秀逸な内容だと思います。少なくとも、会社レベルでの「応急措置」について広く不祥事類型が捉えられていて、一冊常備しておけばよいのでは、と。なお、私自身もひさしぶりに新刊書を、と考えてはいるのですが、本業のほうがなかなか忙しくて進んでいない状況です。構想については検討しておりますので、また形にできそうであれば広報したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします
投稿: toshi | 2023年3月15日 (水) 00時24分