アイ・アールジャパンHD第三者委員会報告書が公表されました。
3月7日、当職が委員長を務めておりましたアイ・アールジャパンホールディングス社の第三者委員会報告書が開示されました(公表版はこちらで閲覧できます)。同社取締役会が委員会を設置したのが昨年12月8日なので、ちょうど予定期間内(2乃至3ヶ月以内)になんとか提出することができました。この報告書は、週末も関係なく、また昼夜を問わず(深夜に至るまで)各チームが調査に起案に尽力した成果品でございます。竹内副委員長、渡辺委員、戸澤委員はじめ、各チームの皆様に感謝いたします。
内容に関する出来栄えはお読みになった方のご判断におまかせすることとして、日弁連ガイドラインに完全に準拠した第三者委員会報告書として、苦労した点だけをここに記しておきます。
ひとつは調査活動の中立・独立性の確保です。同社との利害関係を有しないことは当然ですが、同社の過去案件を調査する過程で、当該案件(の一部)にチーム内の委員が所属する法律事務所が関与したものが判明しました。そこで、当該案件の調査活動にあたっては独立性・中立性に疑義が生じないように、当該チームは事実認定や評価作業からはずれてもらいました(報告書の注記として、その経緯を記載しております)。重要な調査案件だったので、これは残されたチーム(当職も含めて)にとっては厳しい状況でした。
次に心証形成過程です。委員は弁護士4名なので、裁判における自由心証主義に基づく事実認定方法を原則としていますが、疑惑解明にあたってはどうしても「ないことの証明」が必要となり、会計監査的手法、つまりフォレンジック調査を大いに活用して相対的真実主義に基づく心証形成に努めました(ちなみに4名中3名の委員が公認不正検査士です)。フォレンジック調査はピンポイントで有力な証拠を探すことに活用されると思っておられる方も多いのですが、実は「ないこと」の心証形成のためにも活用されることが多いわけでして、だからこそ「なんでこんなことに高額の費用を要するのか」と疑問視されることもあります。
さらに、これも独立性確保のためですが、報告書は提出直前まで会社側にも開示しておりません(ファクトチェックの作業を除く)。会社側と委員会側とで(事実認定や評価についての)認識の違いが想定されますので、公表にあたって混乱を惹起するおそれはありますが、極力会社側からのプレッシャーを回避するために、認定内容については委員会限りといたしました。その代わり、混乱を惹起しないように、調査終了の直前まで代表者クラスの役員へのヒアリングを何度も繰り返しました。
最後に(これはかなり言い訳に近いのですが)ステークホルダーへの説明責任を尽くすことと、調査に登場する多くの取引会社のプライバシー保護の調和をどう図るか、「公表版」を作成するにあたっては、その均衡を保つことに最大限の配慮をいたしました。
すべて敵対的買収(最近の言い方では同意なき買収)案件が調査対象となるため、そこには関係企業の機微情報がたくさん出てきます。アイ・アールジャパン社に関連する調査事実であれば開示すべきですが、取引先会社の事業戦略に関連する事実について開示することには慎重であるべきです。報告書をお読みになった方からすれば「なんだ、これ1頁の半分以上が黒塗りではないか」と文句も言いたいところかと。ただ、ステークホルダーへ説明責任を果たそうとすると、どうしてもこのような黒塗りがたくさん登場するということになることをご理解いただければ幸いです。
毎度のことながら、委員としては内容について書くことは控えさせていただきます。とりあえず激動の3カ月を終えて、第三者委員会は解散です。これでまたブログの更新の時間がとれますし、日経Think!のコメントも書けそうです(#^.^#) 引き続き、拙ブログをよろしくお願いいたします。<(_ _)>
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