先日ご紹介しておりました伊藤忠・ファミマTOB価格決定申立事件ですが、日経ニュースによるとファミマ側が東京高裁に抗告したそうで、まだまだ審理が続くようであります。まだ地裁の決定文は読めておりませんが、本件については高裁の判断についても注目しておきたいと思います。
さて、本日(4月5日)の東洋経済オンラインの記事「大成建設、前代未聞「ビル工事やり直し」の内幕-高層ビルの工事で虚偽報告と精度不良が発覚」を読みました。工程の23%まで進捗していた高層ビルについて、大成建設は地上階部分をすべて建て直さねばならない、という厳しい状況に追い込まれた不祥事(鉄骨の精度不良と発注者への虚偽申告)です。これまで明らかにならなかった事件の内情を報じるものとして、とても興味深い内容です。なぜ虚偽報告を行ったのか・・・、その理由については現場の工事課長代理が「この程度の歪みであれば安全性に問題ない」と考えていたと報じられています。ただ、この記事を読んで私が注目するのは内部統制上の問題です。
本来であれば昨年9月と11月の(全社的に行われる)品質パトロールの時点で、事前計画どおりに具備しておかねばならない自主検査書類がそろっていなかった、とのこと。なぜそのような品質管理ルールが守られなかったのか、その真相は明らかではありませんが、①現場の品質管理(第1線)において、自主検査報告書が作成されていなかったこと、②そのような内部統制ルール違反の状況が把握されていながら、NTT都市開発から指摘を受けるまで、品質管理(第2線)においてルール違反の是正がなされなかったこと、③(おそらくですが)工事監理会社としても自主検査書類が提出されていないことを知りながら工事の続行を認めていたこと、といった内部統制上のいくつかのミスが指摘できるように思われます。
「内部統制上のミス」と書きましたが、①についても②についても、ルールがあることは知っていながら当該ルール違反を放置していたことはかなり重大です。なぜこのようなミスが重なったのか、その詳細な経緯は解明されるべきですし、その原因についても究明する必要があるように思います(責任者である取締役、執行役員の方々は辞任されるようですが、ここでは担当者の責任追及の前にやるべきことがあるはず)。
ただ一方において(全社的な)品質パトロールがしっかりできているからこそ、いわゆる件外調査(ほかの物件でも同様の建築上の瑕疵があるか)の必要性を品質パトロールの実施状況によって否定できることになります。つまり内部統制がしっかりできていれば、自浄能力を発揮して信用を回復できる(最悪の事態を免れる)ことを示すことも、本件の教訓のひとつと言えます(このあたりは、内部統制の効用としてあまり理解されていないところです)。
残る疑問は「なぜNTT都市開発の担当者は虚偽報告の端緒に気が付いたのか」という点です(気が付かなかったまま高層ビルが建造されていたら、いったいどうなっていたのでしょうかね?)。上記記事によるとNTT都市開発側は「正式なコメントはできない」とのことです。記事では「ひょっとするとゼネコン出身の担当者ではなかったのか?」と推測していますが、たとえそうであったとしても、平時の業務においてそこまで気が付くものでしょうか。ここは私の完全な推測ですが、NTT都市開発側に外部からの情報提供があったのではないでしょうかね。そのあたりの真相は闇であります。
上記記事を読みますと、職場環境の更なる改善、社員の働き方改革がゼネコンにも浸透しているために人手不足は慢性化して今後はさらに「納期には間に合わない」というプレッシャーが現場には強まるはずです。冒頭でご紹介した工事課長代理のように、窮地に至れば誰でも正常性バイアス(現状維持バイアス)にとりつかれます。だからこそ、会社は内部統制ルールによって社員を守ってあげなければならない。内部統制ルールを守ることが会社の品質を守ることにつながるという意識を現場に浸透させなければ、同様の事案は再発します。