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2023年4月29日 (土)

いよいよ「ビジネスと人権」も第2ステージか?-法案検討

(4月30日追記あり)

すでにご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、4月26日の産経新聞ニュースにて、人権DD(デューデリジェンス)の法制化に向けて国会議員が動き出したことが報じられています。議員立法にて今秋の臨時国会に法案が提出されることが想定されているようです。提言は広島サミットの前に岸田首相に手渡される、とのこと。企業が「外部不経済」への対処なくして「社会的課題解決」のコミットメントはあり得ない・・・という資本主義の考え方が世界的な潮流なので、これは現実味を帯びた施策といえそうです。

人権DDのキモは「社内に救済手段を設置しているか」という点になりますが、現時点ではこちらのJaCERが最も信頼性の高い苦情処理機関ではないかと思っております(HPの下段に、すでに正会員になっておられる企業名が列記されていますね。すでに人権DDの重要性を認識しておられる企業ばかりのようですが・・・)。労働紛争は原則として企業と社内の労働者との労使関係の解決となりますが、こちらは企業と社外の労働者との紛争解決がメインとなりますので、仲介役の専門家もいろいろと模索しながらの対応となるのでしょうね。

今後、ビジネスと人権に関する企業姿勢は、環境問題解決への姿勢と同様「負の外部性に対して企業はどう動くのか」、政府と二人三脚で検討すべき喫緊の課題になりますね。上場企業を中心に、ビジネスと人権への本格的な対処が求められる「第2ステージ」が始まりますね。

(4月30日追記)同様の記事が毎日新聞ニュースでも掲載されています(こちらのほうが詳細です)。一定規模以上の企業に人権DDが義務化される、とのことで内部統制の構築義務として理解しておくべきことかと。

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2023年4月24日 (月)

社外取締役中心の特別委員会は汗をかき、自ら考えよ!

4月3日に、「もう少し話題になってもいいのでは?-ファミマTOB価格・東京地裁決定事案」なるタイトルで伊藤忠・ファミマTOB事案について触れておりましたが、ようやく日経で取り上げられましたね(先行して日経デジタル版に記事が出ていますが、おそらく4月24日の日経朝刊「法税務面」で特集記事になると思います)。いまだ地裁の決定が確定していないとはいえ、やはり実務家、商事法学者の間でも話題になっているようです。

Kansaisp_sx500_上記日経記事ではファミマの社外取締役で構成される特別委員会がきちんと役割を果たしていなかったと判断されたことへの衝撃が語られていますが、企業価値評価を行う特別委員会の衝撃といえば、関西スーパー事案における同社社外取締役で構成されていた特別委員会についても、左の書籍を読んでかなり衝撃を受けました。

以下の事実は「関西スーパー争奪 ドキュメント 混迷の200日」(日本経済新聞社編集 2022年)からのご紹介です。ご承知のとおり、関西スーパーとH2O(グループ会社)との経営統合(株式交換)は、臨時株主総会においてわずか0.2%差で可決され、オーケー社は敗北、その後の裁判でも最終的にはH2O・関西スーパー側に軍配が上がったわけですが、この薄氷を踏む関西スーパーの勝利劇には関西スーパー社外取締役で構成された特別委員会の貢献度は高かった。

臨時総会で多くの株主から関西スーパー経営陣に「なぜH2Oとの統合が関西スーパーの株主にとってメリットがあるといえるのか」といった趣旨の質問がなされるのですが、会社側からは釈然としない回答が続きます。そして質疑応答の最後に同社特別委員会委員のひとり(社外取締役)が答弁に立ちます。

その方は、H2Oとオーケーのいずれと組めば将来の関西スーパーにとって価値を上げることができるか、検討方針を委員会自ら協議し、両当事者の話を委員が直接聞き、さらに業界の人、価値算定の専門家の人達の話を真摯に聞き、結論としてH2O側と組むことが関西スーパーの企業価値向上に資すると判断したプロセスを説明しました。つまり理屈ではなく、委員会がどれだけ自分たちで考え、また直接交渉し、さらにいろんなところへ足を運んだか、という点を一般株主にわかりやすく説明をしました。答弁終了後、株主のひとりは「はじめて腹にストンと落ちた」という発言をされたそうですし、そこで議論の尽きなかった総会審議が、上記答弁を契機に終了しました(なお、著者の方々も、この特別委員会の答弁を高く評価しています)。

上記書籍によると、総会の集計結果の発表を受けて、特別委員会の方は「思わず涙した」とありますが、この委員会委員の答弁によって若干でも票が動いたとすれば、これこそ関西スーパー争奪戦におけるキモの部分であったのではないかと。社外取締役として、その企業、業界のことを十分理解したうえで、自ら汗をかき、わからないことは「助けて」と素直に第三者の意見を参考にしてこそ「株主へのわかりやすい説明」「株主に納得のいく説明」が可能になるのではないでしょうか。法律や会計上の実務理論によって頭から押さえつけよう・・・などと考えても(裁判所には伝わるかもしれませんが)株主には伝わらないということを自戒をこめて申し上げたい。

なお、冒頭の伊藤忠・ファミマの事案ですが、日経記事は(いまだ決定が確定していないためか)両当事者への配慮が行き届いている分、少し舌足らずな点がありそうです(そのあたり、「日経Think!」の私のコメントで少しにおわせておりますが)。ということで、もう少しツッコんだ内容の記事が他の経済誌で出るかもしれません。

いずれにしましても、本事案は最終的には結論がどちらに転んでも、今後M&Aに関与する方々には多くの教訓を残すものになりそうです。

 

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2023年4月20日 (木)

有事における監査役員の活躍は話題性に乏しくなったのか?

2005年4月から書き始めた当ブログ(最初はniftyのココログではなく、ドリコムでした)も、すでに開設から丸18年が経過しました。この18年の中で「モノ言う監査役」に関する話題を何度も提供し、有斐閣「ジュリスト増刊号」等の論稿でも、モノ言う監査役さんに関する事例を取り上げて、そのご活躍を奨励してきました。私自身も裁判手続きの内外で、常勤監査役、社外監査役の方々の支援をしておりました。しかし、最近は「モノ言う監査役さん」の話題はほとんどメディアにも登場しなくなったような気がしております(直近では2018年ころの日産社員から内部通報を受け取った同社監査役さんの件、2020年ころ、支配権争いの中で委員会としての独自意見を述べておられた天馬社の監査等委員会の件くらいでしょうか。。。)。それとも、いろいろと他にもあって、私がきちんと情報を入手できていないだけなのでしょうかね?

いつも拝読している甲南大学の梅本教授のブログにおいて、梅本先生は「フジテックの事例こそ監査役(監査役会)が意見を述べるべきではないか」「監査役に関心が向かないのはなぜなのか」とおっしゃっていますが、まさにその通りでして、関係者の関心が向けられている「関連当事者取引の妥当性」や役員報酬開示の問題は、まさに監査役会が中心となって調査すべき事項のように思われます。当然、有事における監査役(監査役会)の活動が期待されるところですが、なにゆえ監査役(監査役会)の意見もしくは行動が開示されないのか不思議でなりません。機関投資家が監査役には関心を示さないという現実はわかりますが、たとえ投資家の関心が示されなくても、監査役(監査役会)としての意見は開示されるべきではないかと。「監査役は何をしているのか!?」と世間から問われるたびに、なぜか悔しい気持ちになります。

今週号の経営財務(4月17日号)では、さきごろ開催された日本監査役協会の監査役全国会議の様子が紹介されています。そこではサステナビリティ経営への関心、内部監査と監査役監査との連携強化が話題になっています。しかし、近時の監査役員の存在感が失われつつあることへの危機意識を共有するような話題は出ていないようです。私から言わせてもらえば、サステナビリティ経営(平時のガバナンスを含む)について監査役が意見を述べることを学ぶのであれば、その前に有事における取締役会の機能不全の有無に関する意見を陳述する(開示する)、監査等委員会が個別取締役の人事や報酬についての独自の意見を述べる(総会で説明する)ことを学ぶほうが先ではないでしょうか。監査役員の存在意義は常に具体的な形として企業社会に発信を続ける必要があり、会計監査人も、何か財務報告上の懸念を抱いた際には、経理部や執行部よりも先に監査役員と懸念事項を共有すべきです。

いまこそ、監査役員を支援する団体が「有事における監査委員のガバナンス上での役割」に危機感を持たねばならないと考えます。2013年のガバナンス改革の進展とともに、監査等委員会を含めて「監査役員」の影が薄くなってしまいました。もし公表されている報告書等において「元気な監査役員さん」の活躍事例をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただければ幸いです(すいません、最近、適時開示をきちんと読めていないもので・・・)

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2023年4月17日 (月)

「不正のダイヤモンド」理論を活用した島津製作所子会社不正・調査報告書

少し前の話になりますが、2023年2月10日、島津製作所は、同社子会社の島津メディカルシステムズで行われていた保守点検業務に関する不正行為の内容について、外部調査委員会による調査結果を発表しました。(2023年2月10日付け「外部調査委員会報告書」)。この週末、当該調査報告書をようやく拝読いたしましたが、なかなか興味深い内容でした。

新聞等でも報じられていた同社の代表的な不正は「熊本県内の5つの医療機関に納入したX線装置の保守点検の際に、電力供給回路に不正に外付けタイマーを取り付け、これを作動させることで、一定期間経過後に意図的にエラーを発生させてX線装置が故障であるかのように装い、保守(補修)部品の交換を有償で行っていた」という、たいへん重大な不正行為です。本件は2017年に最初の内部通報がありましたが、担当執行役員(F前執行役員)の不十分な対応のためにその後も不正が継続し、2022年の内部通報でようやく親会社による社内調査が開始された、という経緯があります。

ここで問題となっている「F前執行役員」の行動については、ぜひ多くの上場会社の役員さんに知ってもらいたいです。不正を知った役員としては、これをそのまま取締役会や親会社に報告してしまうと大事(おおごと)になってしまう、私が現場に忠告して、将来的に不正を止めさせることでなんとかしよう(つまり過去の不正はうやむやにしてしまう)・・・と思うことも多いのではないでしょうか。しかし、そのような対応が現場社員をさらに不幸にしてしまう(さらなる悪質な不正に手を染めることになる)という結果を招来させます。その教訓を本報告書は明らかにしています。

また、本調査報告書では、不正の原因分析として「不正のトライアングル」ではなく「不正のダイヤモンド」を活用している点に特徴があります。私も2018年のJICPAジャーナルの論稿で述べたところですが、「トライアングル」では不正の真因究明(およびこれに基づく再発防止策提言)には不十分な場合があります。本調査報告書では「動機」「機会」「正当化事由」のほかに「実行可能性」のテーマを取り上げて、不正の発生要因を検討している点はとても説得力があります。不正調査に関わる専門家にとっては研修材料になりそうですね(ちなみに「不正のダイヤモンド」理論については、こちらの田中教授のご論稿が参考になりますが、具体的な不正事案に適用された例はあまりなかったかもしれません)。

なお、私がもっとも問題だと考えている「F前執行役員の報告懈怠と中途半端な自助努力がもたらした二次不祥事(証拠の隠ぺい)疑惑」については、どのような再発防止が考えられるのでしょうか。このあたりの原因究明が上記調査報告書の中で深堀りされていればおもしろかったように思いました(なかなか証跡が残らない不正行為だったために、このあたりは「疑惑」のままとせざるを得ず、さらなるツッコミが難しかったのかもしれません)。将来に向けた不正防止が奏功したとしても、過去の不正への清算を抜きにして「2017年の内部通報者」は納得するでしょうか。このあたりは「組織ぐるみの不正」と世間から指摘されてもいたしかたないようにも考えられます。

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2023年4月 7日 (金)

全国の社外取締役(候補者含む)のためにも黒塗り公開を希望-ファミマTOB価格決定事件一審決定の内容

4月3日に「もう少し話題になってもいいのでは?-ファミマTOB価格・東京地裁決定事案」なるエントリーをアップしておりましたところ、本事案の複数の関係者の方から「講学上の目的であること、当職限りとすることを条件に(つまり、当職が関係当事者への支援をしないということを約束して)」株式買取価格決定申立事件の決定文(黒塗り版)の写しを頂戴いたしました(どうもありがとうございます!<(_ _)>)。

当事者のうちの1社であるRMBキャピタルさんのリリース(時事通信より)からも東京地裁決定の概要は読み取れますが、なにぶん100頁程度の決定文でありまして中身が濃い。まだざっと拝見しただけですが、あの関西スーパー統合差止仮処分事件の神戸地裁決定を読んだとき以来(いや、それ以上かも)の興味深い内容です(東京地裁第8民事部合議ですね)。現役の社外取締役として、これは心して職務を全うしなければと、身の引き締まる思いをあらためて実感しております。

マスキングが多いので若干読みにくいのですが、当時のファミリーマートの社外取締役で構成された特別委員会が、なぜ伊藤忠によるTOBに賛同意見(ただし価格については非推奨意見)を形成するに至ったのか、その経緯が時系列に沿って(20回以上開催された特別委員会を克明に記述して)明らかにされています。各時点において、財務アドバイザーや法務アドバイザーがどのような意見を述べたのか、という点も詳細に記載されており「私も同じ意見を言うだろうな」とか「なるほど、それは説得力があるなぁ(悔しいけど、私は気づかなかった)」とか「それって、社外取締役の確証バイアスを助長する結果にならないか」とか、いろいろつぶやきながら読んでおります。

また、地裁は特別委員会がその役割を果たしていなかったと結論付けて、あらためて裁判所の裁量で公正な価格を判断するとして、詳細に検討のうえTOB価格(2300円)よりも300円高い2600円が公正な価格だと判断しています。

既報のとおり本件は東京高裁に抗告中であり、公正な価格に関する裁判所の最終結論が出ていません。しかし、日本を代表する財務アドバイザー、法務アドバイザー(東京の大手法律事務所等)の意見を聴きつつ、特別委員会が悩みながら(苦しみながら?)意見形成を行った過程は、最終的に公正な価格がどのように決着したとしても、社外取締役の有事対応にとって参考になる内容です。

プロの企業価値算定のプロセス及び結論がたくさん出てくる決定文なので、マスキング処理が必要であることは理解できますし、やむを得ないところかと。ただ、ガバナンス改革によって社外取締役が急増している時代であり、また事業再編に向けたM&A事案が増えている中で、資本市場関係者の予見可能性を高めて、M&Aにまつわる紛争コスト(関係者のレピュテーションリスクも含む)を低減するためにも、なんとか公開はできないものでしょうかね?法律雑誌に掲載される価値は高いと思うのですが・・・(;´・ω・)

今後、当ブログでは(公開されない場合には本事案の関係者の皆様にご迷惑がかからない範囲で)一般論として「このようなケースでは①委員に就任した社外取締役、②特別委員会の答申をもとに取締役会で意見を求められた社外取締役は、どのように振舞えば法的責任を問われないか」という形でご紹介できればと思っております(なお、決定文の中で、某法務アドバイザー(著名な法律事務所)の方が「TOB価格が結論として公正な価格ではないとしても、そこから取締役個人の善管注意義務違反が認められるかどうかは別問題である」とおっしゃっておられますが、その意見は私もまったく同感でございます)。

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2023年4月 6日 (木)

内部統制の重要性をあらためて痛感する大成建設・ビル建直し事案

先日ご紹介しておりました伊藤忠・ファミマTOB価格決定申立事件ですが、日経ニュースによるとファミマ側が東京高裁に抗告したそうで、まだまだ審理が続くようであります。まだ地裁の決定文は読めておりませんが、本件については高裁の判断についても注目しておきたいと思います。

さて、本日(4月5日)の東洋経済オンラインの記事「大成建設、前代未聞「ビル工事やり直し」の内幕-高層ビルの工事で虚偽報告と精度不良が発覚」を読みました。工程の23%まで進捗していた高層ビルについて、大成建設は地上階部分をすべて建て直さねばならない、という厳しい状況に追い込まれた不祥事(鉄骨の精度不良と発注者への虚偽申告)です。これまで明らかにならなかった事件の内情を報じるものとして、とても興味深い内容です。なぜ虚偽報告を行ったのか・・・、その理由については現場の工事課長代理が「この程度の歪みであれば安全性に問題ない」と考えていたと報じられています。ただ、この記事を読んで私が注目するのは内部統制上の問題です。

本来であれば昨年9月と11月の(全社的に行われる)品質パトロールの時点で、事前計画どおりに具備しておかねばならない自主検査書類がそろっていなかった、とのこと。なぜそのような品質管理ルールが守られなかったのか、その真相は明らかではありませんが、①現場の品質管理(第1線)において、自主検査報告書が作成されていなかったこと、②そのような内部統制ルール違反の状況が把握されていながら、NTT都市開発から指摘を受けるまで、品質管理(第2線)においてルール違反の是正がなされなかったこと、③(おそらくですが)工事監理会社としても自主検査書類が提出されていないことを知りながら工事の続行を認めていたこと、といった内部統制上のいくつかのミスが指摘できるように思われます。

「内部統制上のミス」と書きましたが、①についても②についても、ルールがあることは知っていながら当該ルール違反を放置していたことはかなり重大です。なぜこのようなミスが重なったのか、その詳細な経緯は解明されるべきですし、その原因についても究明する必要があるように思います(責任者である取締役、執行役員の方々は辞任されるようですが、ここでは担当者の責任追及の前にやるべきことがあるはず)。

ただ一方において(全社的な)品質パトロールがしっかりできているからこそ、いわゆる件外調査(ほかの物件でも同様の建築上の瑕疵があるか)の必要性を品質パトロールの実施状況によって否定できることになります。つまり内部統制がしっかりできていれば、自浄能力を発揮して信用を回復できる(最悪の事態を免れる)ことを示すことも、本件の教訓のひとつと言えます(このあたりは、内部統制の効用としてあまり理解されていないところです)。

残る疑問は「なぜNTT都市開発の担当者は虚偽報告の端緒に気が付いたのか」という点です(気が付かなかったまま高層ビルが建造されていたら、いったいどうなっていたのでしょうかね?)。上記記事によるとNTT都市開発側は「正式なコメントはできない」とのことです。記事では「ひょっとするとゼネコン出身の担当者ではなかったのか?」と推測していますが、たとえそうであったとしても、平時の業務においてそこまで気が付くものでしょうか。ここは私の完全な推測ですが、NTT都市開発側に外部からの情報提供があったのではないでしょうかね。そのあたりの真相は闇であります。

上記記事を読みますと、職場環境の更なる改善、社員の働き方改革がゼネコンにも浸透しているために人手不足は慢性化して今後はさらに「納期には間に合わない」というプレッシャーが現場には強まるはずです。冒頭でご紹介した工事課長代理のように、窮地に至れば誰でも正常性バイアス(現状維持バイアス)にとりつかれます。だからこそ、会社は内部統制ルールによって社員を守ってあげなければならない。内部統制ルールを守ることが会社の品質を守ることにつながるという意識を現場に浸透させなければ、同様の事案は再発します。

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2023年4月 3日 (月)

もう少し話題になってもいいのでは?-ファミマTOB価格・東京地裁決定事案

3月31日のBloombergnews「ファミマTOB『安過ぎた』と認定、適正価格より300円-地裁」を読みました。伊藤忠商事が2020年に実施した子会社ファミリーマートに対する株式公開買い付け(TOB)に関連して、米アクティビストのRMBキャピタルなどがTOB価格は「安過ぎる」として公正価格の決定を求めた裁判で、東京地方裁判所が、適正水準より300円安かったとの判断を示していたことが31日までに分かった、とのことです(2020年7月の公開買い付けに関する伊藤忠側のリリースはこちらです。ファミマの特別調査委員会の動きも辿ることができます)。

この東京地裁決定(価格決定申立事件)、関係者でもない限り決定文を入手することは困難ですが、ぜひとも目を通したいですね。実は私も同じような状況で某社(親会社が50.1%の株式を保有している子会社)の社外取締役として、三角株式交換における交換比率の適正性を判断するために設置された特別調査委員会の委員長をしておりました。一部株主より価格決定申立がなされ、最高裁まで審理が係属しました(最終決着まで約4年を要しました)。判断プロセスが公正であるとして、最終的には我々の出した価格(交換比率)が適正との決定をもらいましたが、このような事案をみるとゾッとしますね。我々のケースでは親会社側と価格交渉の末、なんとか交換比率については合意できました。

本件では伊藤忠側とファミマ特別調査委員会の間で、価格は折り合いがつかなかったようです。ということでファミマとしては「伊藤忠のTOBには賛同するが、当社株主に対して応募推奨はしない」という意見を表明しています。なるほど、裁判所で「結果的には安すぎる」という判断が下された際に、関係者の善管注意義務違反を問われるリスクを回避するためにこのような意見表明に至ったのですね(プロセスとしてMoM-マジョリティ・オブ・マイノリティ-を問う趣旨もあろうかと)。

しかし親会社との間で価格的に折り合いがつかない(少なくとも特別調査委員会レベルで)場合は取引条件に関する合意を得たとは言えないようにも思えます。特別調査委員会の意見を前提としたとしても、取締役会としては親会社TOBに賛同する、という意見はどうなんでしょうかね?(特別調査委員会の委託した価値算定アドバイザーのレンジをも下回る価格でのTOBについて、応じなければファミマの喫緊の信用状況に疑義が生じるような状況でもないところで「賛同」できるものなのでしょうか?)会社から「一般株主の皆様は自己責任でTOBに応じるかどうか判断してください」と言われて、株主の皆様は納得できるものなのでしょうか?最後まで裁判で争った株主には差額は支払われますが、TOBに素直に応じた株主の方々は結果的には適正価格以下で株式を手放したことになり、なんら差額が支払われることはありません。

このあたり、いろんな有識者の方々のご意見を拝聴したいところですが、そもそも法律雑誌等で話題になるのでしょうか?このような事案においては社外取締役が中心的な役割を果たすことになるわけですが、なんかあまり話題に上っていないような気もしております( ;∀;)。

ps  以上のようなエントリーをアップしたところ、4月3日の日経ニュースで本件が取り上げられていました。日経記事によると、

東京地裁は市場株価やプレミアムなどを総合的に考慮したうえで、買い取り価格は2600円が公正と決定。ファミマはTOBにあたり一般株主の利益を確保するために特別委員会を設置したが、東京地裁は「一般株主にできる限り有利な取引条件の獲得に向けた検討・交渉を行うという手続きは遂行されなかったと言わざるを得ない」と決定文で言及した。

とのこと。うーーん、やっぱり決定文を読みたい。特別調査委員会のプロセスについても疑問視されており、社外取締役も受難の時代になったのかも。。。

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