社外取締役中心の特別委員会は汗をかき、自ら考えよ!
4月3日に、「もう少し話題になってもいいのでは?-ファミマTOB価格・東京地裁決定事案」なるタイトルで伊藤忠・ファミマTOB事案について触れておりましたが、ようやく日経で取り上げられましたね(先行して日経デジタル版に記事が出ていますが、おそらく4月24日の日経朝刊「法税務面」で特集記事になると思います)。いまだ地裁の決定が確定していないとはいえ、やはり実務家、商事法学者の間でも話題になっているようです。
上記日経記事ではファミマの社外取締役で構成される特別委員会がきちんと役割を果たしていなかったと判断されたことへの衝撃が語られていますが、企業価値評価を行う特別委員会の衝撃といえば、関西スーパー事案における同社社外取締役で構成されていた特別委員会についても、左の書籍を読んでかなり衝撃を受けました。
以下の事実は「関西スーパー争奪 ドキュメント 混迷の200日」(日本経済新聞社編集 2022年)からのご紹介です。ご承知のとおり、関西スーパーとH2O(グループ会社)との経営統合(株式交換)は、臨時株主総会においてわずか0.2%差で可決され、オーケー社は敗北、その後の裁判でも最終的にはH2O・関西スーパー側に軍配が上がったわけですが、この薄氷を踏む関西スーパーの勝利劇には関西スーパー社外取締役で構成された特別委員会の貢献度は高かった。
臨時総会で多くの株主から関西スーパー経営陣に「なぜH2Oとの統合が関西スーパーの株主にとってメリットがあるといえるのか」といった趣旨の質問がなされるのですが、会社側からは釈然としない回答が続きます。そして質疑応答の最後に同社特別委員会委員のひとり(社外取締役)が答弁に立ちます。
その方は、H2Oとオーケーのいずれと組めば将来の関西スーパーにとって価値を上げることができるか、検討方針を委員会自ら協議し、両当事者の話を委員が直接聞き、さらに業界の人、価値算定の専門家の人達の話を真摯に聞き、結論としてH2O側と組むことが関西スーパーの企業価値向上に資すると判断したプロセスを説明しました。つまり理屈ではなく、委員会がどれだけ自分たちで考え、また直接交渉し、さらにいろんなところへ足を運んだか、という点を一般株主にわかりやすく説明をしました。答弁終了後、株主のひとりは「はじめて腹にストンと落ちた」という発言をされたそうですし、そこで議論の尽きなかった総会審議が、上記答弁を契機に終了しました(なお、著者の方々も、この特別委員会の答弁を高く評価しています)。
上記書籍によると、総会の集計結果の発表を受けて、特別委員会の方は「思わず涙した」とありますが、この委員会委員の答弁によって若干でも票が動いたとすれば、これこそ関西スーパー争奪戦におけるキモの部分であったのではないかと。社外取締役として、その企業、業界のことを十分理解したうえで、自ら汗をかき、わからないことは「助けて」と素直に第三者の意見を参考にしてこそ「株主へのわかりやすい説明」「株主に納得のいく説明」が可能になるのではないでしょうか。法律や会計上の実務理論によって頭から押さえつけよう・・・などと考えても(裁判所には伝わるかもしれませんが)株主には伝わらないということを自戒をこめて申し上げたい。
なお、冒頭の伊藤忠・ファミマの事案ですが、日経記事は(いまだ決定が確定していないためか)両当事者への配慮が行き届いている分、少し舌足らずな点がありそうです(そのあたり、「日経Think!」の私のコメントで少しにおわせておりますが)。ということで、もう少しツッコんだ内容の記事が他の経済誌で出るかもしれません。
いずれにしましても、本事案は最終的には結論がどちらに転んでも、今後M&Aに関与する方々には多くの教訓を残すものになりそうです。
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コメント
東洋経済のWEBにファミマの記事が出ました。日経より少し詳しいと思いますが、原文を読みたい気分に変わりはありません。
投稿: Kazu | 2023年5月 9日 (火) 12時25分